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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第一章
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お勉強の時間

ベットが有った部屋は王宮の客間だったらしく、そんな大それた所で寝ていたのだと思うと震えてしまう。

フォンツァは国が保護すべき存在だから、気にしないで下さいとディアナに言われても気にする。


「何かお礼をしなくては……」


執務室に着き、ソファーに座らされ考えているものの、歩けもしない現状では何も出来ない。

そんな光景を楽しそうに見ていたルッツは、ポン!と手を叩いた。


「ならトレーニングする?」

「何を考えている。フォンツァの体調を崩す気か?」

「勿論由良ちゃんの体調見ながらさ。ここまで弱っているフォンツァは初めてだろ?」


今までは風邪を引きやすいくらいで、歩けない人はいなかったらしい。

他の人より病弱とは、どこまで迷惑を掛けてしまうのか……と泣きそうになっていると、隣に座ってきたクラヴィクスが由良の額に手を当てた。


「全く…弱いのは体だけじゃなさそうだな」


その言葉通り、弱っているのは体だけじゃなく心もだった。

それは神隠しに合い心細いのもそうだけど、人に迷惑をかけてしまうのが嫌だったからだ。

ノルがいなくなった時、泣いて泣いて両親や親族や、果ては幼稚園の先生やお友達まで心配させ、臥せっていた時期があった。

その時にもう迷惑は掛けたくない……と、強くなろうと決めたのにと唇を噛む。


「落ち着きなさい。そう、そのまま深呼吸だ」


感情は感じ取れないけれど、真摯な瞳に捕らえられ、クラヴィクスの言う通りに深呼吸をする。


「ふむ、適応力は高そうだ」


由良が素直に従ったことに満足したのか、ソファーから立ち上がったクラヴィクスは、ルッツから書類を受け取り、デスクで名前を書き込み、由良に寄越してきた。


「フォンツァが書く部分はここだ。ニホンゴで良い。名前を書きなさい」


ニホンゴが若干片言なのに微かに微笑むと、ぺしん!とおでこを叩かれてしまった。

本気でやられると痛そうなのに、手加減してくれているのが嬉しくて、クスクス笑っていると、ルッツがあの~と窺うように声を掛けてきた。


「仲良くしてるとこ申し訳無いんだけど、昨日の続きしていい?」


仲良くと言われ、由良はえ?と首を傾げ、クラヴィクスは舌打ちをしてルッツを睨みながら、書けた書類を手に取った。

クラヴィクスが人差し指でクルクルと円を書くと、書類は綺麗に畳まれていく。

封筒を開き中に書類を入れ……とした所で、フワフワと動いてディアナの元で落ちた。


「ディアナ。宜しく頼む」

「畏まりました。由良様、お二人とお話ししていてください」


スッと身を引いたディアナは、そのまま執務室から出ていき、向かいに座ったルッツを見る。

どうやらまた昨日の教科書の続きのようで、パッと瞳を輝かせる。


「ん?これ楽しい?」

「はい!私小説を読むのが好きで。日本とは違った世界だから小説みたいで……」

「ははっ、クラヴィクスと良い勝負だな。クラヴィクスも違う世界に興味を持ってるから」


楽しげに笑うルッツに釣られクラヴィクスの方を向くと、不機嫌そうに顔を顰めた。

このままではまた話が逸れてしまう…!と思った由良とルッツは、教科書に目を通す。


「先程書いたのはフォンツァの登録許可証だ」


登録許可証は、登録されれば直ぐに市民等にも通知が行くらしい。

通知書には、フォンツァの取り扱いについて書いているようで、政治に利用しないこと、困っているフォンツァを助けること等、由良にとってありがたい許可証になっている。


「ただ、その許可証があっても利用される可能性が高い。だから後見人や観察人が保護をするんだ」


言っていた後見人や観察人の役割は思いの外大変そうで、申し訳なく思ってしまう。


「まあ、ただの紙切れれだからね。連れ去られちゃえば最後だよ」


その言葉に背筋が凍った。

軽く言ってはいるがルッツの目は真剣だ。


「連れ去る可能性が高いのは、まずは市民の一部の人」


良い国でも、王に反感を覚える人は一定数いるし、何より魔法使い嫌いの人が、フォンツァを仲間に取り入れようとするそうだ。


「フォンツァは神の子だと信じられているからな」

「神の子ではないですよ?あ、もしかして……」


何故神の子なんて言えるんだろう……と思っていたけれど、昨日の教科書の内容を思い出すと、未だに神の子だと信じている人が多いのだと理解した。


「理解が早くて助かる。魔法使いも同様の理由が殆どだろう」


市民よりも危険なのが力を持った魔法使い。

ただ、魔法使いは普段は市民に危害を加えられないように枷が付いているらしい。

クラヴィクスが見せてくれたのは、由良に渡したようなブレスレット。

クラヴィクスのは、留め具にある宝石が虹色に輝いている。

由良のは残念ながら無色透明だ。


「魔法ってのは誰にでも備わる物では無くて……そんな中でもクラヴィクスは最高位の魔法使いなんだよ」


宝石によりランク付けされているらしく、虹色に輝く宝石を持つのはほんの一握りの人だけらしい。


「虹みたいで綺麗ですね……」

「………」


素直に感激していると、クラヴィクスはスッとブレスレットを隠しため息を吐いた。

その様子を見たルッツは、小さく苦笑いを見せ、こほんと咳き込んだ。


「魔力があると分かればそのブレスレットを付けられて、悪いことをしないかと監視される。だからまあ、同情は出来るんだけどね……」


宝石には特殊な力が備わっているらしく、悪さをすれば取り締まりの対象となる。

一般市民がするよりもバレる確率が高く、辟易している魔法使いも多いそうだ。


「俺みたいに成長するにつれ、自然と魔力が消える奴も中にはいるけど」


元々ルッツにも魔力があったそうだけど、成長するにつれ消えていき今はないらしい。

それは成長期に良くあることらしいけど、当時はショックだったそうだ。

魔法を羨ましいと思う反面、ブレスレットを付け続けている魔法使いが、取り締まりを嫌がる心境も分かるとのことだ。


「そんな中でとある噂が立った。捕まえた魔法使いいわく、魔力があっても、フォンツァがブレスレットを外してくれる……って」

「そんなこと出来るんですか?」

「いや、眉唾物だよ」


誰も試したことがなく、そんなものは噂に過ぎないと説得しても、ブレスレットを嫌がる魔法使いが信じてくれる筈もなく……。


「この国でも2人、他の国でも数人のフォンツァが、市民や魔法使いに連れ去られている」


連れ去られたフォンツァは帰ってくることなく、死体すらも見付からなかったのだから、心臓を止めて日本に帰ってきたのだと安易に想像できた。


「そんなことを企てたり、実行する魔法使いの罰則は厳しい。1つは魔法を通さない牢屋に閉じ込めること。もう1つは……」


ルッツの真剣さにゴクリと生唾を飲み込む。


「魔力を無くすくらい魔法を使わせること」


強制的に魔力を使わせ続け、枯渇した所で枷を外す。

そうするとその魔法使いはもう二度と魔法使いになれない。


「一度枯渇させると魔力は戻せない。だから皆定期的に回復させてるんだけど……」

「ルッツ。今はその内容は話すべきでは無いと思うが?」


小説で読むより恐怖を身近に感じてしまう。

怖さで震えていると、ため息を吐いたクラヴィクスがブランケットを差し出してくれた。


「ゴメンゴメン。怖がらせるつもりは無かったんだよ」

「いえ……」

「ただ、由良ちゃんも連れ去られる危険が今もあることは、覚えておいて欲しい」


ね?と申し訳なさそうに言うルッツに頷く。


「中には勉強していても、フォンツァに対する理解が出来ない者もいる。自身が信頼出来る者以外には警戒しておくに越したことはない」

「そうそう。問題はないと言っても受け付けない子もいるからなぁ」

「まあ、あれは特殊な理由もあるだろうな。それに魔法使いは早々にバカな真似はしないだろう」

「あー、将来安泰だしな」


魔法使いが安泰なのは、魔力があると分かれば将来を約束された魔法学校に通えるから、らしい。


「もし君がディアナや他の者と外にいた時に間抜けな奴がいたら、この看板がある所に逃げ込め」


空中で人差し指を下から上に上げた先に見えたのは、空中に浮かんでくる映像。

映像には詰所と書いてある看板が見えた。


「詰所は何ヵ所かあり中に衛兵がいるはずだ。外で何かあればそこで衛兵に話せ」

「衛兵にはそれぞれ部隊があるんだけど、対市民と、対魔法使いの部隊それぞれいるから、頼りになると思うよ」


それ以外にも、対魔物部隊と言うのもある……と分かりやすく説明をしてくれた2人は、こんなところかな……と話を区切った。

ただ疑問に思えることがあり手を上げる。


「あの、ルッツさん……騎士は違う所属なんですか?」

「うん。俺達は王族の警備と、フォンツァの護衛が主だよ」

「え?フォンツァもですか?」

「さっき言った通り、フォンツァには危険が多いのと、護衛すべき存在と認識されてるから……市民とも魔法使いとも戦える騎士が守るんだ」


騎士は特殊な訓練を受けているらしく、所属している人達はかなり強いらしい。

そんな人たちに守られるのだとしたら心強い。

そう考えていると、頭がフワフワとしてきた。

舌打ちをしたクラヴィクスが、薬を差し出してくる。

ボーッとする頭で飲み込もうとしたが、上手く飲み込めない。

ため息を吐いたクラヴィクスの不機嫌そうな瞳が、由良の目を捕らえた瞬間、由良はそのまま意識を手離した。





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