親と子
一連の騒動の後ルッツ主導の元、執務室で話し合いが行われた。
マグダレーネの父親がサプリメント開発に興味が無かったのは、クラヴィクスは会った初日から気が付いていたらしい。
害が無ければ良いか……と放置していた所、ある日バルクに呼ばれ、偽の婚約者話を用意させられたそうだ。
ユリウスの読み通り、マール王女との婚約話はでっち上げだった。
「お前は楽しそうにしていたが、知っていたのか?」
「ああ、集まる前にバルクに聞いた」
偽の婚約者話でどんな表情を見るのかが楽しみだった……と言うルッツは、楽しげに笑っている。
父親を不審に思ったのはバルクもだったようで、バルクは素性を探りマグダレーネを知ったらしい。
更に探っていくと魔力を欲し、怪しい取引をしていそうな雰囲気に、父親より危険性があると睨んだ……とのことだった。
親子2人してそれかと呆れながらも、マグダレーネが国に災いをもたらすだろうと思ったバルクが、2人を捕らえる為にわざと、魔力が高いクラヴィクスとの婚約話を父親に持っていった。
思惑通り動いた2人の監視をしながら、裏にある更なる情報を引き出そうとしたらしい。
ただ、クラヴィクスはマグダレーネに優しくする……なんて芸当は出来ない為、ルッツが変わりにマグダレーネの気を引き、情報を引き出す役目を担っていたそうだ。
そして元婚約者や母を復活させたがっていることを知っていった。
その情報を得るのにも平坦な道のりではなくて、ルッツは好みに合わせるために苦労していたらしい。
マグダレーネの好みはバルクの情報により得ていた。
礼儀正しくマグダレーネを敬う存在。
そして自分だけを見てくれる存在。
「だから猫被りなんだ……」
ユリウスとシェフが話していた猫被りを実際あまり見ていなかったけれど、今思うと少し見てみたかった。
その一連の動きをあまり見れなかったのは、クラヴィクスとルッツが、由良とディアナをマグダレーネの危険から遠ざけようとしていたからだろう。
その一部が、由良との仲違いだ。
ディアナを信じて欲しいと願った時、クラヴィクスは拒否をした。
それはディアナを信じていない訳ではなく、その場にマグダレーネがいたから詳しく話せなかった……と言うことだろう。
自分を信じてくれるクラヴィクス。
自分だけを見てくれるルッツ。
それはきっととても嬉しかったことだろう。
だから水晶の闇が溜まる日時をルッツに教え、あわよくば自分の元に来てもらおうとした。
誤算だったのは、あの水晶を持っていることを見られた人を殺さなくてはならない……と知らなかったことだ。
偶然見てしまったディアナは勿論のこと、利用出来ると思ったのか、由良までも拐われてしまった。
その結果がマグダレーネの自滅に繋がった。
「あの水晶結局、分からず仕舞いだったな……」
ルッツの言葉に由良とディアナが頷く。
不思議な力がある水晶は、マグダレーネが簡単に手に入れられる代物では無さそうだ。
マグダレーネの自滅と共に消えてしまった水晶は、クラヴィクスの良い研究対象だったのでは?とクラヴィクスを見る。
クラヴィクスはじっと考え込むように何処か遠くを見て何も発しない。
「おーい、クラヴィクス?」
「聞こえてませんね」
「しょうがない。ディアナと由良ちゃん、一旦退出してまた後で来よう」
こんな時は気が済むまで放置しよう。
そう考えたのか、ルッツが立ち上がる。
今日は今までのことを謝りたい……と考えていた由良は、ルッツとディアナに視線を送ると、2人は笑顔で頷き先に外に出ていった。
クラヴィクスと二人きりの執務室は久々ではない筈なのに、ずっと無かったような感覚で少し落ち着かない。
ディアナが用意してくれた紅茶を淹れ、ソッと目の前に差し出すと、漸くルッツとディアナがいなくなったことに気が付いたのか、2人は?と問い掛けてきた。
「先に帰りました」
「そうか。君は何故いるんだ?」
当然の疑問のように問われ、緊張で胸が高鳴る。
「その……ごめんなさい!」
「は?」
「あの時頭が冷えてなくて、クラヴィクスさんに食って掛かって……」
「……ああ」
今思い出したように頷いたクラヴィクスは、由良をソファーに座らせその横にどさりと座った。
「……私も、悪かった」
ポツリと呟かれる謝りの言葉に、首を横に振る。
「クラヴィクスさんやルッツさんの心意を掴もうとしなくて……」
「……私やルッツは基本、王に従う。君とは考えも違うだろう。だから君は謝る必要はない」
「でも、考えることを放棄して、クラヴィクスさんを責めたんです……」
じんわりと涙が滲む。こんな所で泣いてちゃいけないのに……と思っていると、クラヴィクスが由良の目尻の涙を拭う。
「私の過ちは、君を無理矢理遠ざけ不安にさせたことだ。君が安心出来るよう、話せることは話すべきだったと……そう思っている」
いつもより優しい声色が涙腺を誘う。
首を振りながらクラヴィクスは悪くない……と思っていると、クラヴィクスに頭をポンッと撫でられた。
クラヴィクスを見ると、クラヴィクスは由良の頭にある髪飾りをじっと見つめている。
その表情が、マグダレーネに何か言われた時と若干似ていて、思わずクラヴィクスの袖を握る。
ピクリと反応したクラヴィクスは、眉間に皺を寄せ由良を見た。
「なんだ」
「マグダレーネに何を言われたんですか?」
「気がついていたのか」
ため息を吐くクラヴィクスは、袖はそのままで良いのかまた髪飾りに視線を移し、髪飾りを優しくなぞる。
「私の父は失踪したと前に言ったのを覚えているか?」
「……はい」
「本当は違う。父は使ってはならない禁忌の術に手を染めようとした」
クラヴィクスの言葉にドクン!と心臓が煩く響く。
「母を愛していた父は、母の死後私を置き母を復活をするため王宮から去った」
水晶を持ったマグダレーネの微笑みが由良の脳裏に過った。




