気が付いたルッツ
マグダレーネとの打ち合わせをするらしく、午前中は休みで良いと言われてしまった。
何だかもどかしくて、こんな時は身体を動かそう!と騎士の詰所を訪れる。
「どうした由良ちゃん?」
「ん?由良じゃないか」
詰所にはルッツの他にユリウスもいた。
どうしてユリウスが?とも思ったけれど、最近ルッツがユリウスの特訓をしているのだと思い出し、頑張ってる?と問い掛けた。
「あぁ、もっと強くなりたいからな」
「もう衛兵だったら負ける奴もいるんじゃないか?」
「いいや、俺は騎士に勝ちたい。特にルッツ」
「俺かよ!?」
2人は軽口を言いながら筋力トレーニングをしているようで、話ながらも息切れしていない姿に尊敬の念を抱く。
「由良ちゃん今日は……ああ、打ち合わせか」
「偽の婚約者だっけ?偽でもお似合いだったな」
ユリウスは2人でいる姿を見たらしく、ニコニコと笑顔で語ってきた。
お似合いなのは重々承知だ。
だから逃げるようにここに来たのに……と思っていると、心が不安定になったせいか頭痛がしてきた。
ふらつく由良の異変にルッツがいち早く気が付き、直ぐに抱えあげてくれる。
「由良ちゃんちょっとの辛抱な」
「でも、打ち合わせ……」
詰所の扉を開けたユリウスは、由良の頭をポンッと撫でた。
「由良の体調の方が大事だろ。もし打ち合わせ優先したら、俺クラヴィクス殴るから」
「おいおい、随分バイオレンスだな。でもま、クラヴィクスなら大丈夫。由良ちゃんの命を軽んじたりしない」
そう告げたルッツは由良が袖にしっかり掴まったのを確認し足早に歩いていく。
そして物の数分で執務室に着き、ノックをしようとした所で思い切り執務室の扉が開いた。
開けたのは執務室の主であるクラヴィクス。
マグダレーネはもう帰ったようで、招き入れたクラヴィクスは由良をソファーに寝かせた。
「由良ちゃん強くなったよな。前なら気を失ってただろ」
「確かにそうですね……」
何かある度に直ぐに倒れて、何度このソファーのお世話になったことか。
頭痛はするけれど今日は起きていられる。
だからクラヴィクスが用意する薬も、起きた状態で飲めるのは、余計な手間をかけないで済んだ……と嬉しくなる。
クラヴィクスが手渡してきた薬を、貰いながらお礼を言った。
「いつもは寝てた時に薬飲ませてくれてましたもんね……ありがとうございます」
瞬間、クラヴィクスの手から薬が滑り落ちる。
寸前の所で受け取り事なきを得たものの、いつものクラヴィクスらしくなくて、心配になる。
「大丈夫ですか?」
「いや、ああ………」
「えっと、由良ちゃん、気を失ってた時のこと覚えてる?」
「いいえ、全然覚えていないです!」
「は?」
覚えてはいないけど、唇は若干湿った感覚があったし、口内には薬の味が残っていた。
だから魔法で薬を飲ませてくれたのだろう……と思っていたと伝えると、ルッツの噎せるような笑いが執務室に響く。
「いや、ごめっ、笑っちゃいけないんだけどっ!クラヴィクス、やっば……くくっ……」
ヒーヒー言いながら笑っているルッツに小首を傾げ、クラヴィクスを見る。
「あの……」
苦虫を噛み潰したような顔のクラヴィクスは、何だか面白くなさそうに由良を睨んだ。
「私変なこと言いました?」
「何も聞くな」
「お前、その顔……ダメだ腹いてぇ!!そうなの!?そうなの!?」
こめかみを押さえるクラヴィクスと、クラヴィクスを指差しながら笑い転げるルッツ。
その対比が面白くて、でも意味が分からなくて暫くその光景を見続けていた。




