お似合いな婚約
この間、王様に呼ばれてからクラヴィクスの様子がおかしい。
別に普段通り職務をこなすしトレーニングも勉強も見てくれている。
お気に入りにしてくれたのか毎日紅茶も飲んでいる。
「クラヴィクスさん?どうしました?」
「いや……何でもない」
不思議なのは由良に視線を向ける回数と、聞くと必ず何でもないと答えて、また業務に戻る。
一体何なんだろう……と首を傾げていると、執務室の扉がノックされた。
「………」
気配で誰だか分かったのか、クラヴィクスが不機嫌そうに立ち上がり入室を許可した。
入ってきたのは、王宮では見たことのないダークパープルの髪色をした女性。
モデルで活躍出来そうな長身とスタイルの良さ。
香水の良い匂いが女性らしさを更に引き出している。
クラヴィクスに向ける微笑みが印象的で、由良はボーッと2人が並ぶ光景を眺めていた。
「貴女がフォンツァの、由良さん?」
「え?あ、はい!片山由良と申します!」
並ぶと美男美女だな……と思っていた時に話しかけられ、慌てて立ち上がり挨拶をする。
「一度ご挨拶をと思っておりました。私、クラヴィクス様の婚約者になりました、マグダレーネ・ハワードと申します」
「……こん、やくしゃ……?」
聞き覚えのあるフレーズを反芻し、漸くそれが恋愛小説等に出てくる婚約者だと気が付く。
「えぇぇ!?こ、婚約者!?クラヴィクスさんの!?」
「えぇ、今後とも宜しくお願い致します」
「は、はい…………えっ?」
突然の婚約者登場に頭の中がパニックだ。
そんな由良を見かねたのか、クラヴィクスが由良の額をぺしりと叩く。
「マグダレーネは仮の婚約者だ。………君も、無闇やたらに周りに言い触らさないように。特に王宮以外の者には言わないように」
「承知しております。でも、フォンツァには伝えておかなくてはならないですよね?」
「……詳しくは私から話す」
畏まりました……とお辞儀をしたマグダレーネは、挨拶だけしたかったようで、直ぐに出ていってしまった。
どうしていいか分からず立ったままでいると、ソファーに座らされた。
その横にクラヴィクスがどさりと腰を下ろす。
少しだけ離れた距離が、埋まらない溝のように感じたのは、クラヴィクスが婚約者を作ったからだろうか。
何とも言えない苦しさに俯いていると、クラヴィクスがゆっくりと、婚約者を作った訳を話し出した。
「……以上だ。何か質問は?」
「いいえ。その、お疲れ様です」
「ああ……全くもって面倒だ」
眉間の皺がどんどん寄る。
「君にももしかしたら苦労をかけるかも知れないが、少しの間宜しく頼む」
「はい……」
面倒だという姿に何だかホッとしてしまう反面、その婚約者が自分だったら良かったのに……と思ってしまい、頭をぷるぷる振る。
隣国の王の願いは大人の女性だ。
それを満たしているのは今のマグダレーネのような人で……と、クラヴィクスを見る。
「大人の女性って良いですね」
クラヴィクスの隣にいてもお似合いな人。
マグダレーネや先生のような。
そう考えると嫌な気持ちに捕らわれそうになり、ソファーから勢い良く立ち上がる。
「今日の勉強終わったので帰ります!」
「あ、ああ……そうか」
「はい、本日もありがとうございました」
ペコリとお辞儀をして扉から出る辺りで、クラヴィクスのため息が聞こえてきた。
そのため息が胸に来て、じんわりと涙が瞳を濡らす。
その気持ちから逃れるように歩き出した。




