箝口令
神様の加護のお陰か、薬を飲まなくても調子が良くなってきた。
若干、面白くなさそうな雰囲気を醸し出したクラヴィクスも、見たことのない研究データに上機嫌だ。
今日の勉強は通信機器について。
この世界は通信機器が発展していなく、郵便が主になっているらしい。
急ぎの知らせは郵便屋の魔法使いに頼むそうだ。
料金は高いけれど直ぐに魔法で届けてくれるとなると、郵便局の速達を思い出す。
王宮から他国への知らせは、クラヴィクスが一手に引き受けているらしく、だから執務室に郵便物が大量に届くのか……と納得できた。
「なるほど……」
クラヴィクスお手製の教科書を読みながら頷くと、髪飾りに付いている、星と月の飾りがシャランと鳴る。
そこであっ!と声を上げた由良に、クラヴィクスが怪訝な顔を見せた。
「どうした?」
「えっと……先生に言われたんですけど」
髪飾りを指差しながら言うと、クラヴィクスの視線が髪飾りに移る。
「クラヴィクスさんのお母さんの髪飾りだって……」
「余計なことを……」
ため息を吐き、不機嫌そうに呟いたクラヴィクスは、髪飾りをじっと見つめる。
「……そうだな。私の母の物だった」
皆に付けていろと言われたけれど、そんな大事な物を使ってしまって良いのだろうか?と悩んでしまう。
そんな由良の様子に気が付いたのか、クラヴィクスは由良の髪飾りにソッと触れる。
「亡くなってから長い間使われていない。髪飾り本来の使い方をした方が有意義だろう?それに、思い入れがある方が魔法を込めやすい」
どこか懐かしむような声色と、亡くなってからという言葉に胸が切なく軋む。
加護を受けて強くなっても、心までは強くなっていないようで、ポロっと頬に涙が伝う。
「君は……全く」
ため息を吐いたクラヴィクスは、由良の目尻の涙を指で拭った。
「母は元から病弱だった。むしろ良く持った方だと思う」
「そう、なんですね……」
「ああ、父の栄養剤に助けられた部分も多いだろうが……」
今まで皆、過去形でしか話していなかった、クラヴィクスの父親。
引退したと聞いて隠居でもしているのか?と思ったけれど、それにしては皆が語ろうとしない。
気になっていた存在が、クラヴィクスの口から聞こえてきた。
でも聞きたいけど聞けない……と頭を振ると、クラヴィクスの手が頭に降ってきた。
「君も気になっていたのだろう?」
おずおずと頷きクラヴィクスを見る。
ほんの少しだけ表情を和らげたクラヴィクスは、由良の隣に腰を下ろす。
「母が亡くなった直後……父は失踪した」
王宮お抱え魔法使いの失踪。
それは王宮内にかなりの衝撃を与えた。
前国王は箝口令を敷き、失踪は市民には伝えず、王宮内にいる他の魔法使いと協力し、何とかやって来ていたらしい。
それはクラヴィクスがまだ幼い時の話で、魔法学校に入る前の話だったそうだ。
「どうして……」
幼いクラヴィクスを置いていってしまったのか。
当時のクラヴィクスの心境を考えると、胸が苦しくなり、また涙が溢れていく。
「……何故君が泣く」
「ごめんなさい……」
「この話は一度お仕舞いだ。君が安定したらまた話すとしよう」
泣いてばかりで申し訳ない……とクラヴィクスを見ると、大きくため息を吐いて、由良の額に手を当てた。
「少し休め」
暖かく柔らかな光が全身を包む。
ゆっくりと瞼を閉じると、クラヴィクスがブランケットを用意する姿が見えた。
「ありがとうございます……」
「ああ。……ありがとう」
最後の言葉は、何に向けた言葉か分からなかったけれど、クラヴィクスの表情が柔らかくて良かった……と思いながら眠りについた。




