神に愛されし子
4人で声がした上空を見上げる。
唸る犬と見目麗しい人物。
あれが神様よ……と恵梨に言われ、ルッツはディアナに由良を託し、クラヴィクスと共に臨戦態勢を取る。
「……分かった分かった」
唸る犬を宥めた神は、パチン!と指を鳴らした。
すると、ディアナが支えていた由良が、ゆっくりと目を覚ます。
そして勢い良く立ち上がり、オロオロと右往左往している。
「え?え?何で!?」
「由良。ノルが煩いし、もう少しいて良いよ」
由良の近くに立った神は、由良の髪の毛を優しく撫で、冷めた瞳でクラヴィクスを見た。
「もう少しだけ。ね、クラヴィクス……」
ゾクリとする冷たい声と瞳に、クラヴィクスは立ち向かうように視線を返す。
暫く睨みあっていた神は、飽きたかのように先生に話し掛けた。
「君はどうする?ここにいる?」
「私は……帰らせて下さい」
ソファーから立ち上がった先生に、由良は驚いた顔で先生とクラヴィクスを交互に見る。
その様子が面白かったのか、先生はクスクスと肩を震わせ笑った。
「だって、先生は……」
「片山さんのお陰でスッキリしたわ。もう、良いのよ」
そこで言葉を切った先生は、1度クラヴィクスを見て目を伏せる。
不安そうに交互を見る由良の頭をポンッと撫でた先生は、クラヴィクスに向かって声をかけた。
「そうそう。片山さんって日本で恋をしたことがないの」
「ちょっ、先生!?」
「貴女の成長を楽しみにしているわね」
ニッコリと微笑む先生は、神とノルに連れられて、輝きを放ちながら消えていった。
後に残ったのは荒れた室内と、呆然とするディアナとルッツと由良。そして不機嫌そうに上空を睨むクラヴィクスだった。
「クラヴィクスさん……」
あの……と恐る恐る話しかけてくる由良を、クラヴィクスはソファーに座らせ、額に手を当てた。
「ふむ。問題はないか……」
「本当に行かせて良かったんですか?」
何がとも聞かずとも、それが先生のことだろうとは誰もが予想できる。
そんな由良の瞳をじっと見つめたクラヴィクスは、深くため息を吐く。
「いいに決まってるだろう。…………所で、君は何の相談も無しに何をしているんだ?」
その声は先ほど聞いた神と同様、底冷えするような冷たい声で、由良はひっ!と短く悲鳴を上げた。
「だって……クラヴィクスさんが……」
「私がなんだ」
「先生の名前を寝言で呼んで……」
由良の言葉にルッツとディアナはクラヴィクスを見る。
突然意味の分からないことを……と呟き、眉間の皺を深くしたクラヴィクスに、由良は少しムッとした表情を見せ、それです!と怒る。
「先生の名前を言ってた時、表情が和らいだから……先生ならクラヴィクスさんの眉間の皺取れるかなって……」
「君はバカか」
「ば、バカじゃないです!」
「全く……大体その夢は直ぐに切り替わった」
そこで言葉を区切ったクラヴィクスは、深くため息を吐いて話を終了させ、ふむ……と呟いた。
「変な事を考えられる余裕があったようだな」
ソファーから立ち上がろうとしたものの、腕を捕まれ逃げ場がない。
サッと離れたルッツとディアナを恨めしそうに見る。
「おっと、由良ちゃんのこと王と騎士に報告してこなくちゃな!」
「私も由良様の体調が戻ったと、メイドとシェフにお伝えしてきます」
それは確かに必要だ。でもどちらか一人で良い筈だ……と思ったけれど、二人は早々に立ち去ってしまった。
「君は神に愛されているようだ。ちょっとした実験に付き合ってもらおう」
神の愛を受け取るフォンツァは、クラヴィクスにとって良い研究素材だ。
上機嫌に実験の用意を始めたクラヴィクスに、由良は苦笑いを見せつつも、じっとその姿を眺めた。




