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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第一章
33/78

クッキー作り

『……来……』

『私……来て……』

『由……』


雑音の中に聞こえてくる声は、段々とクリアになっていく。


(私を、呼んでる……)


手を伸ばせば届く。

そう思っても中々手が伸ばせないまま、次第に声は聞こえなくなっていった。



***


***



クラヴィクスがルッツとの話を聞いてしまっていたと知ったのが、由良が魔法使いに襲われた翌日のこと。

執務室で休憩中のルッツと話している時に発覚し、思わず叫んでしまった。

今はルッツの休憩も終わり、クラヴィクスと2人きり。

午後の勉強ももう終わった。

何の会話も出来ていなくて何だか気まずい……とクラヴィクスを見たものの、クラヴィクスは我関せずと言わんばかりに書類を片付けている。


「クラヴィクスさん」

「何だ」

「……先生のこと、好きだったんですか?」

「………は?」


ポロッと出てしまった問い掛けに驚いたのは、由良だけでは無くクラヴィクスもだ。

困惑した表情で見つめてくるクラヴィクスに、悪いことをしてしまった……と謝る。


「あの、じゃあ、会えたら嬉しいですか?」

「……死んだと思った者に会えるのなら、嬉しいものなのではないか?」

「そう、ですよね……」


極めて冷静にいうクラヴィクスの言葉に頷く。


「君が見た恵梨は幸せそうだったか?」

「………」


当たり前のように名前を呼ぶ姿に、胸がズキズキと痛むのは、未だ名前を呼ばれたことがないからだろう。

でも、呼んで欲しい、羨ましいと思ってしまうその思いは迷惑だ……と微笑んだ。


「幸せかは分からないですけど、ブレスレット大事に持ってますよ。あ、結婚はしてないです」

「恵梨は聡明な女性だ。そのうち良い出会いもあるだろう」


その出会いがクラヴィクスだったのでは?と思ったものの、2人を再び出会わせられない現状に、申し訳なさとホッとした気持ちと両方が同時に襲ってくる。

その気持ちから逃れるようにビシッ!と手を上げる。


「あ、あの!今日、ディアナとクッキー焼く約束してるんです!」

「そうか。午後の勉強も終了しているのだろう?行ってくると良い」


了承の返事を得て立ち上がると、タイミング良くディアナが迎えに来た。

ディアナとお辞儀をして執務室から出ると、謎の緊張感から解放されて大きく息を吐く。


「どうされました?」

「うーん……クラヴィクスさんと話すの何か緊張しちゃって」


ディアナは、クラヴィクスに対する気持ちを知っているから話しやすい……と、キッチンに着いてから、思っていたことについて語る。


「クラヴィクスさんが先生ともう一度会える方法って無いのかな?」

「同じフォンツァが再び来たことは無いですね……でも、もし可能だとして、由良様はそれで良いんですか?」


窺うような視線に苦笑いを見せる。


「分からない。けど、もし方法があるなら……会わせたい」


寝言で名前を呼んでいた時の表情が柔らかかった。

そんな表情を見せたクラヴィクスを、もう一度先生に会わせたいと思ったけれど、今までの歴史の中で実現したことは無さそうだ。


「クッキー作ったら資料室行きましょうか?」

「……うん、そうする!」


ここで悩んでいたって、悩みは解決はしない。

資料室に行ってもう一度資料を見よう……と、提案をしてくれたディアナに笑いかけた。


「お、なんか作ってるのか?」

「ルッツさん!今からロッティにクッキー作るんです」

「へぇ、ロッティになんて珍しいな」


話を聞いてくれたお礼に作っているというと、どんな話?と聞かれそうでグッと言葉に詰まると、ディアナが助け船を出してくれた。


「ルッツ様も一緒に作りませんか?クラヴィクス様に差し入れしてみましょう」

「は?俺がアイツに!?……面白そうだな」


しかもかなり面白そうな助け船だ。

今なら何とか時間が作れるらしい。

キッチンに入り、クッキー作りを開始したルッツの手捌きは異常に早い。


「特技の1つ、料理って言っただろ?お菓子も一応作れるんだ。クッキー以外にも何種類か作れるぞ」

「……ルッツ様。今度教えて頂けませんか?」


レパートリーを増やしたそうなディアナの瞳がキラキラと輝く。


「おう、由良ちゃんもどうだ?」

「是非!」


ディアナの嬉しそうな表情と、ルッツの得意気な表情に笑みが溢れる。

2人が楽しそうに話ながら作るのを見て、由良自身も嬉しくなっていく。


「見ろ!これがクラヴィクスに渡すクッキーだ!」

「かっ、可愛い……!」


そして完成したクッキーは、キュウリやオーちゃんの形をしたクッキー。

もうお店に出しても良いくらいの出来映えだ。


「クラヴィクスに渡すのは由良ちゃんで良いか?俺が持ってくと突き返されそう」

「えっ?………はい!」


またクラヴィクスに会いに行くのかと思うと、戸惑ってしまうものの、何とか笑顔を見せた。


「私も付き合います。渡したら資料室行きましょう」

「資料室に何か用あるの?」

「……クラヴィクスさんと先生がもう一度会える方法が無いのか、探したいんです」

「……そっか。資料探し宜しくな」


ポンと頭を叩かれルッツを見る。

ルッツの表情はどこか複雑そうで、その瞳から逃れるようにキッチンを後にした。
















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