フォンツァを望む声
客間入り口近くに行くと、ディアナが震えながら由良様!と叫んでいる。
前方には顔が見えないように漆黒のローブを纏った男と、拒絶するように、捕まれた手を離そうとしている由良がいた。
ルッツが他の騎士に目配せし包囲網を作っていく。
まさか王宮のど真ん中に侵入してくるとは、誰もが思わなかっただろう。
逃げ場が無くても、逃げる算段が付いているか王宮で死ぬつもりか。
「フォンツァをどうするつもりだ?」
「俺は、まだ……生きるんだ……」
「生きるとは?」
「まだ……死ねない……」
話が噛み合わない……と舌打ちをする。
ただフォンツァに対する執着が激しいようで、由良の手はしっかりと握られたままだ。
(ここで魔法を使い助けるべきか)
ただ何か罠がある可能性がある。先に無力化をするべきだろうと動こうとしたが、男の様子に眉をひそめる。
「フォンツァ、ちか、ら……」
黒い渦が男の周りを包む。
その力が由良も呑み込もうと迫る。
あれは不味いと右手を突き出し、自身の中にいる魔物を呼び出す。
「行け!」
キュー!っと叫び飛び出したのは、由良がキュウリと名付けた魔物だ。
弾丸のように飛び出し渦の中心に突入していく。
バチン!と電気が弾けるような音がし、キュウリが自身の元まで飛ばされる。
「いきる……いきる……」
渦は段々と濃さを増す。
チッと舌打ちを1度して、由良がオーちゃんと名付けた魔物も出し、由良の元に向かわせた。
更に手のひらに力を込め、来い!と叫ぶ。
「おいおいおい!ちょっ、もうこれ以上出すな!」
ルッツは制止するが、このままでは由良が連れていかれる……と、構わずもう一匹魔物を呼び出す。
グルルルルルと唸り声を上げ出てきた魔物は、角が二本生えコウモリのような羽を持った黒い魔物。
魔物というよりは、悪魔と称した方が良いのだろうか。
得意の槍を構えた魔物は、男に向かって一直線に進んでいく。
魔物達に黒い渦を任せ、本体を攻撃するために手に力を込め、魔法を打てる状態にする。
まずは簡易魔法で様子見か……と考えていたが、由良の苦し気な表情を見て考えを変える。
「痛い、離して!」
「ちから、もらう……か、み…」
「神の力なんてない!っ!」
抵抗すると腕に力を込められるのか、痛そうに顔を歪めた。
そしてこちらの方を向き、クラヴィクスさん……!と泣き出しそうな顔で叫んだ。
「一気に決める……」
あれの泣きそうな表情はあまり好きではない……と、自身の周囲を風が包む。
ふぅ……と息を吐き前方を見据えた。
未だ心意の掴めない男と、そんな男に捕らえられている由良。
ため息を吐いて由良から目を逸らし、男を見た。
「全て消し去ってやる」
「いやいやいや!尋問あるからな!!?」
慌てて魔法を止めようとしたルッツだったが、男の異様な雰囲気を感じ口をつぐむ。
男はカクカクと首を傾げながら一歩進む。
男が左手を構えた所で、好機だ!と走り出す。
魔物達を男に突撃させ、由良から離れた瞬間、自身の背中に由良を隠す。
「フォンツァ!フォンツァ!どこだ!!!」
背中にいる由良が声も出さずに震えているのが、背中越しに良く分かる。
男に対峙するように手を構えると、男は首を左右に振りこちらを睨む。
ローブの隙間から見えるその瞳は異様に光って見える。
男に応戦し魔法を打ち続けると、男が疲弊してきたのか、息を切らし始めた。
このままならルッツの望み通りに尋問出来るだろう……と思っていたが、男はローブの懐から薬を取り出し一気に飲み干す。
カランカランと落ちる空き瓶を見て、ハッと男を見る。
「また、また……現、れる」
不吉な言葉だけを残し、男はその場で崩れ落ちた。
男が飲んだのは、男から情報が読めなくなる自害用の薬品だ。
飲めば段々と体が動かなくなり、最後は生命活動すら止めてしまう。
これではどうやって侵入したのかも掴めなくなるだろう。
うめき声を上げ苦しむ男の声と姿を、由良に見せないように抱え上げる。
ルッツに目配せをし、足早にその場を後にすると、離れたことで安心したのか、由良の意識は深く落ちていった。
ソファーに寝かせると、身じろぎをした由良は、クラヴィクスさん……と寝言を口にした。
「……」
薬を飲ませるために屈んで直ぐに立ち上がる。
由良の唇を指でなぞると、言い様のない感覚に襲われ、深いため息を吐いた。




