神隠しは突然に2
『……?………!!』
夢の中で誰かが語りかけてきたが、暖かい物に包まれている感覚には抗えず振り払う。
何度か振り払っていると声は聞こえなくなり、修学旅行で聞いた、キャンプファイヤーのような音が聞こえてきた。
ふ…と目が覚めると、フカフカのベットの中にいた。
自分のベットよりもフカフカ…と、考えながら視界を動かすと暖炉が見え、キャンプファイヤーの音はこれだったのかと理解した。
ゆっくりと起き上がると、ベッドの前の椅子に座っていた男が立ち上がった。
さらりとした長髪。銀髪の髪の毛は小説の中でしか知らない。
ブルーの瞳は鋭く不機嫌そうに口元を歪めている。
立った時の威圧感は長身に慣れていないせいか、怖さを感じてしまう。
顔ばかりに目が言ってしまったが、ふと服装を見てポカンと口を開けた。
小説の表紙で見るような、白を基調とした神官っぽい服。
先程の騎士と言い、この人と言い、どうしてこんな服を着ているのだろうか。
「あの……」
聞きたいことが沢山あり、何から聞いて良いか分からない。
それでも何か発しなければ…と声を上げたが、男は由良の声を無視して額に手を伸ばしてきた。
無表情とは違い、優しい手付きで額を撫でた男は、何やら小声で呟いた。
男の手から暖かな光が出る。
光は暖かく、気持ちよさに目を細めると、ため息を吐かれてしまった。
「その危機感の無さから見ても、フォンツァで間違いなさそうだな」
低く心地の良い声で呟いた男は、懐からブレスレットを取り出し由良に差し出した。
「これを使え」
「えっと?」
「祈りが施してある。多少の危険からは逃れられるだろう」
「ありがとうございます……?」
手のひらにポトリと落とされた銀のブレスレットには、あまり見たことがない装飾がされていた。
そのブレスレットを首を傾げながら見つめていると、コンコンとノックをされ、クライスラーと呼ばれた騎士と1人の女性が入ってきた。
「自己紹介は終わったか?」
「……いや」
「お前忘れてたな」
「フォンツァを見ろと言われただけだからな」
「はぁ?こーんな可愛い女の子が不安そうな顔で見てるのに!?名前すら教えず体調見ただけかよ!」
男2人は友人なのか、軽口を言いながら会話を続けている。
その様子を戸惑いつつ眺めていると、メイド服を着た女性が近付いてきた。
「こんにちは。私はディアナ・ヒルデと申します」
「あ、私は由良……片山由良です」
「由良様ですね。由良様のお世話をさせていただきますので、これからよろしくお願いいたします」
「えっ、お世話……?えっと、ディアナさんが、ですか?」
「はい。私のことはディアナでも、ヒルデでも呼び捨てで構いませんので」
ディアナの話はどんどんと進められ頭が追い付かない。
その様子を見ていた男が、ため息を吐きながら由良の額に手をかざした。
「落ち着いて聞くんだ。君は今熱が出ている。休みたくなったら休むと良い」
手のひらにまた暖かな光が溢れ、シュン!と消えていく。
そうすると頭がスッキリとし、話を続けられるようになった。
「俺の名前はルッツ・クライスラー。王室騎士。特技は掃除。あー、料理もそれなりに出来るぞ」
今は鎧や兜は外しているのか、白のロングTシャツと黒のパンツ。茶色のロングブーツと言うラフな格好になっている。
爽やかな笑顔と、燃えるような赤髪がルッツの性格を良く表している。
「で、こっちが王宮お抱えの魔法使いの、クラヴィクス・ベルク。特技は一度読んだ書物の内容を覚えていること」
「お前の特技と言い、その情報は必要か?」
呆れ声のクラヴィクスに苦笑いを見せる。
「はい、宜しくお願いします……えっと」
何から聞けば良いのか悩んでいると、ディアナが頭を撫でてきた。
「由良様は何歳なんですか?」
「17才です……」
「お、最年少記録更新じゃない!?」
最年少記録とは一体何のことなのか。
そう思っていると、クラヴィクスは何やらしきりに書類を記入し、ふむ……と頷いた。
「最年少か。20才以下のデータは無かったから興味深い」
「おいおい、ちょーっと犯罪者チックになってるからな!?」
「それはお前だろう。20才までは成人では無いと教わったはずだ」
「お二人とも、由良様にそろそろ説明を!」
ディアナの一喝に2人して押し黙り、小さく謝っている。
その光景が面白くクスクスと笑っていると、ルッツが楽しそうに由良の頬をつついてきた。
「うん。女の子は笑顔でいなくちゃな」
「ルッツ。犯罪は犯すなよ」
「ルッツ様。犯罪者にはならないで下さいね」
「おいおいおいおい!俺が何した!?女の子慰めてるだけだろう!?」
どうやらルッツは弄られキャラのようだ。
まるで遥のような……と思った所で、そろそろ帰らないといけない時間だと思い立ち、ベットから起き上がる。
あれだけ濡れたにも関わらず服が乾いている。
不思議に思いながらも、三人にペコリとお辞儀をする。
「あの、そろそろ帰らないと家族が心配しますので。お世話になりました」
そう言い鞄を持った所で、ディアナとルッツに止められてしまった。
何やら言い淀む2人に苛ついたのか、クラヴィクスが部屋のカーテンを開けた。
光が射し込み目を閉じる。
次に目を開いた時に見えたのは、家の傍とは思えぬ、ファンタジーな世界の街並みが眼前に広がっていた。




