星と月の髪飾り
『も…一度……』
『……か……って』
また夢見が悪くなってきた。
客間では眠れず、無理を言って執務室のソファーで眠ると、執務室の強固な結界のお陰か良く眠れる。
ブランケットにくるまりながら眠る由良を見ているのは、執務室の住人であるクラヴィクスと、メイドのディアナと王宮騎士であるルッツだ。
執務室の机で何やら書きながら話すクラヴィクスは、2人の呆けた顔を見て、何かおかしい所でも?と問い掛けた。
「以上が、私の仮説だ」
「は?いやいやいや、お前何言ってんの?」
「そうですよ。由良様は普通の女性です!」
クラヴィクスのとある仮説にルッツは驚き、由良の頭を撫でていたディアナは少し怒ったように感想を述べた。
「ふむ。……しかし、彼女の力は普通ではない。そこは理解しておいて欲しい」
「仮説には理解を示さなくても良いのか」
「根拠の無い仮説はただの空想に過ぎない。だが、私はその仮説を立証してみたい」
「おいおいおい、由良ちゃん使って危ない実験するつもりかよ」
それは止めろよ!と本気で心配しているルッツの声に目が覚めたのか、由良がのっそりと起き上がった。
そんな由良に近付いたクラヴィクスは、額に手を当てた後、由良の腕を手に取りまたブレスレットを付ける。
無色透明なブレスレットは、クラヴィクスの目から見れば瞬時に色を変えていく。
「風、闇、それと光属性……か」
「なぁ、それ本当に色、変わってんの?」
「私にも見えませんね。由良様はいかがです?」
「見えないんだよね……」
「恐らく魔力によって見えているんだろう。私と同等かそれ以上の魔力を持っている者なら見えると思うが……」
「そんなのいたらこの間の戦いだって苦労しねぇよ!」
それもそうか……と呟いたクラヴィクスは、一度由良から離れ、机の中から木箱を取り出し戻ってきた。
クラヴィクスが木箱の蓋を開けると、クラヴィクスの瞳と同じような、ブルー色の星と月の装飾がされた、金色の髪飾りが1つ入っていた。
髪飾りを手に取ったクラヴィクスは、由良の手にソッと握らせる。
「クラヴィクスさん、これ……」
「無いよりはマシだろう。着けていなさい」
でも大事そうに木箱に入っていた物を着けているのは……と、返そうとしたけれど、ルッツに腕を掴まれ止められてしまった。
「由良ちゃんそれ貰ってくんない?」
ニッコリと微笑みながらも圧が凄い。思わず頷くと満足そうな本物の笑みを見せてくれた。
「あの、クラヴィクスさん。ありがとうございます」
折角貰ったから……とディアナに着けてもらい、クラヴィクスの方を向くと、飾りがぶつかり合い、シャランと音がした。
「……ああ」
その音をじっと聞いていたクラヴィクスは、由良の言葉に空返事をしている。
「おーい、クラヴィクス。由良ちゃんがお礼を言ってるぞ」
「ん?……ああ、そうか」
心ここに在らず。クラヴィクスの珍しい姿に3人で呼び掛けると、クラヴィクスがハッと気が付いたように、3人に視線を向けた。
「……イヤらしいこと考えてたんじゃねぇ?」
「それはお前だろう」
「最低ですね。ルッツ様」
「……え?俺!?いや、そりゃ、男は色々と考えますよ?でもここは俺じゃないだろ!!」
ルッツの叫びに由良とディアナが笑い、クラヴィクスは煩わしそうな顔を見せる。
久々に4人で話した日は、とても楽しい1日だった。
***
パチリと目が覚めるともう夕刻。
ディアナとルッツはいないようで、クラヴィクスは……と視線を移すと、机に頬杖を付きうたた寝をしていた。
(珍しい……)
むしろ寝ている姿を見るのは初めてだ。
何だかワクワクしながらクラヴィクスに近寄る。
サラリとした銀髪は、夕焼けに当たると神秘的な輝きを発する。
触れてみたいと手を伸ばし、恐る恐る髪の毛に触れると、クラヴィクスの唇が動く。
「……恵梨……」
「……恵梨って……え?」
「……」
心がざわめく。
その後も、何か呟くクラヴィクスの表情は、見たことのない柔らかな表情を見せている。
由良の脳裏に過ったのは、ゴツゴツとしたブレスレットを付けた、由良と同じように小説が好きな先生の姿だった。




