帰還
座り込んでからどれくらい経っただろうか。
蹴破るように扉が開かれ、衛兵とルッツと共にクラヴィクスが入ってきた。
一直線に由良の元に来たクラヴィクスは、由良の元に跪き、由良をじっと見つめソッと額に手を当てた。
「クラヴィクスさん……」
クラヴィクスの顔を見ると安心してしまって涙腺が緩む。
ポロポロと泣く由良を見て、眉間の皺を寄せたクラヴィクスはハンカチを握らせ立ち上がる。
そのままユリウスの元に来たクラヴィクスは、冷たい声を発した。
「ユリウス。王族の君にフォンツァを預けようとも思ったが……考えを改めよう。フォンツァを危険に晒す君にはやれない」
「それは、重々承知です」
「………だが、良く市民を傷付けずフォンツァを守った」
「……ありがとうございます……」
悔しそうな顔で俯くユリウスを見たクラヴィクスは、それだけ伝えると直ぐに由良の元に戻ってきた。
ルッツに支えられた由良は立とうとしたけれど、前と同じように力が入らず崩れ落ちそうになる。
寸前の所でクラヴィクスに支えられ、お礼を言おうとすると、また抱き上げられ悲鳴を洩らす。
「ひっ!」
「………」
呆れたように由良を見たクラヴィクスは、ブレスレットを見て難しい顔をしている。
「あの、クラヴィクスさん」
また色が……と言おうとしたけれど、クラヴィクスに睨まれ言葉を止める。
「いやー、由良ちゃんが無事で良かった」
「ルッツ。お前は王宮に帰るんだろう。問題児を連れていけ」
「はいはい」
クラヴィクスに問題児と言われたユリウスは、由良の方を一度眺め、ごめん……と呟きルッツと共に歩いていった。
「あの、降ろして下さい……」
「歩けるのか?」
まだ足に力が入らない。
ふるふるっと首を振ると、ため息を吐かれてしまった。
でもこのお姫様抱っこの状態で街を歩くのは……と思ったが、そもそも意識を失った状態で連れてこられたので、ここがどこか分からない。
「タフィー。すまないが開けてくれ」
「はっ!」
以前挨拶をしたことがあった、対人間部隊長のタフィー・ローレンツは、抱えられた由良をじっと見つめ、そしてペコリと頭を下げた。
「由良様。助けるのが遅くなり申し訳ございません」
「いえ!タフィーさんも、ありがとうございます」
「いえいえ。あ、クラヴィクス様。後程報告書をお持ちいたします」
「ああ。宜しく頼む」
頷いたタフィーに扉を開けてもらい、クラヴィクスに抱えられ外に出ると、一面野原が広がっていた。
そして馬車があるのに気が付き、お姫様抱っこから直ぐに解放されるのだと思うと嬉しく思えた。
***
王宮のクラヴィクスの執務室に戻ると、涙目のディアナが待ち構えていた。
今にもユリウスの元に突撃し、説教をしそうなディアナを宥める。
落ち着いた頃合いを見計らい、クラヴィクスはディアナに話し掛けた。
「ディアナ。紅茶を」
「………はい、畏まりました」
一瞬眉をひそめたディアナは、スッとお辞儀をし部屋から出ていく。
ソファーに座っている由良に近寄ったクラヴィクスは、ソッとブレスレットを調べていく。
ブレスレットが光った状況や、どんな風に何が現れたのか、聞かれるがままに答えていくと、クラヴィクスの大きなため息が聞こえてきた。
「クラヴィクスさん?」
「予想が裏切られることを期待したが……そうか」
1人だけ確信めいているが、何のことか分からずクラヴィクスを見る。
クラヴィクスも由良をじっと眺め、頭をポン……と撫でた。
「君は、やはり面白いな」
そう呟いたクラヴィクスの瞳はどこか憂いを帯びていた。




