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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第一章
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お忍びはトラブルの元

結界のお陰かぐっすりと眠れた由良は、今までの不調が嘘のように元気になった。

トレーニングと勉強もこなし時刻はもう15時。

クラヴィクスは王との会議らしく、大人しくしているようにと由良に釘を指してから向かっていった。

そんな事を言われなくても、わざわざ由良の為に結界を強固にしてくれた執務室から動く気はなかった。


無かったけれど、現在由良は詰所近くの路地に入った喫茶店にいる。

由良の前にはユリウスとマリウスが座り、マリウスはオドオドと周囲を見ているのに対し、ユリウスは紅茶を優雅に飲み息をはく。


「どうした2人とも」

「……兄上、もう帰りましょう?」

「たまの息抜きだ。由良、お前も紅茶でもどうだ?奢ってやる」

「……ううん」


身を縮こまらせ早く帰りたい……と願ってしまうのはしょうがない。

何せ誰にも告げることが出来ないまま、ここまでユリウスに連れてこられたのだから。

日頃頑張っているユリウスは、遂にストレスが溜まったらしい。

今日は詰所に行き鍛練をする日だったそうで、由良も着いてこい!と引き摺るように連れてこられ現在に至る。


(あ、あのシェフの人が伝えてくれてるか……)


引き摺られていく由良を、オロオロと見ていたシェフが駆け出して行ったのは、恐らくクラヴィクスの元だ。

だとしたら、執務室にいないのを怒られたりはしないだろう……とホッと胸を撫で下ろす。


「でも、何で私を……」

「最近忙しかったから、癒しが欲しい。メイドも騎士もクラヴィクスも抜きで、由良とゆっくりと話したかった」


にっこりと微笑まれ言われると怒る気もなくなる。


「それは……まあ、私も2人とお話ししたかったよ。そう言えば、クラヴィクスさんは王様と会議だってね」

「ああ、一度立ち会ったことがあるが……クラヴィクスは父上の話を纏めるのが上手いな。流石幼少期からの仲だ」


話が逸れそうになる度に軌道修正し、国王の話を聞き纏める。

クラヴィクスがその役目をずっと担っているらしく、会議に参加すると2人の仲の良さが垣間見えるらしい。何だか素敵な関係だ。


「クラヴィクスさんのお父さんが、王宮の魔法使いだったらしいね」

「ん?ああ……クラヴィクスと同じで、虹色のブレスレットをしていたらしいな」

「………」


この間、魔法使いだったと聞いた時も、今のユリウスも皆過去形で話している。

そもそも15才のユリウスすら、会ったことがなさそうな雰囲気だ。

クラヴィクスや他の人も、父親に関係する話をしないのは何か引っ掛かる。

ごくりと生唾を飲み込みながら、2人に問い掛けた。


「今は、クラヴィクスさんのお父さんって……」

「若いうちに引退したとは聞いているが、そう言えば何をしているか知らないな」

「僕も聞いたこと無かったです」

「引退……そっか」


引退や隠居はファンタジーの定番だ。

人気ない小屋にひっそりと暮らす、元王宮お抱えの魔法使い。

何とも小説映えする話だ……と、頭の中で考えていると、ユリウスがいきなり立ち上がり、勘定だ!と店主にお金を渡した。


「ユリウス?」

「マリウス!由良を連れて走れ!」

「兄上!!」


喫茶店の扉を勢い良く開けたユリウスは、由良とマリウスを庇うように立つ。

ただならぬ気配にマリウスの手をぎゅっと握り締め、ユリウスに問い掛けた。


「どこに向かえば良い?」

「聡い女は好きだぞ。ここまま来た道を戻って広い所に出たら、大声で衛兵を呼んでくれ。数は10人。恐らく市民だ」


走れ!とユリウスが大声を出すのと同時に、奥からナイフを手に持った市民が5人走り出してきた。

更に喫茶店から2人飛び出しそうになっていたが、喫茶店の従業員や他のお客さんが羽交い締めにしてくれている。

お忍びのためにとんだ大惨事になってしまった……と、マリウスの手を引っ張り大通りを目指し走る。


「やだ!兄上を置いていけない!!」

「マリウス!!」


後ろを気にしながら走っているマリウスは、ユリウスが苦戦しているのを見ると泣き出してしまった。

どうすれば?どうすれば?と頭の中はパニックだ。


「こんな時、クラヴィクスさんだったら……」


そう考えると自然とマリウスを抱き締めていた。


「マリウス。大丈夫。ユリウスを助けたいなら走って」

「でも!」


抱き締めている視界の先では、ユリウスが市民を傷つけないよう剣は抜かず、気絶させるように戦っている。


「お願い。貴方は王子でしょう?」


由良の言葉にハッと目を見開いたマリウスは、こくりと頷く。

涙を拭い、走り出したマリウスを守るように立つ由良の手は、怖くて震えている。


「ユリウス!」

「は?由良、お前も早く逃げろ!」


とは言ってもいつの間にか囲まれていて逃げ場が無い。

駆け付けたユリウスに腕を引かれ背に庇われる。


「フォンツァ……フォンツァ……」


焦点の定まっていない目で市民が呟くのはフォンツァのみ。

市民の望みは由良だと気が付いた時には、甘い香りが由良達を纏っていく。

マズイ……とユリウスが呟き由良を抱き締めた所で、2人は意識を失ってしまった。







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