神隠しは突然に1
学校へ着き図書室に行くと、朝早くだと言うのに先客がいた。
由良と同じクラスと野崎遥と、国語の先生である高梨恵梨だ。
黒髪を簡単に纏めた由良とは違い、遥は明るい茶髪のショートカット。
体育の成績が良く泳ぎが得意な水泳部。
反対に由良は運動が得意ではなく、その代わり勉強が出来る…など、一見合わなそうな二人だったが、どちらも明るい性格でウマが合い一緒にいる。
高梨先生はメガネを掛けた知的美人。
大人しそうな見た目とは違い、少しいかついブレスレットを着けている。
このギャップが良いんだよ!は遥らしい言葉で、先生も嬉しがっていたのを思い出す。
先生とは小説好きということで趣味が合い、幽霊部員ばかりの読書部の顧問もしてくれている。
遥がここにいる理由は、その幽霊部員その1であり、由良が来るだろうからと言う理由で遊びに来てくれているからだった。
「ねぇ、由良聞いて……」
図書室の椅子に座り、返却手続きを取っている由良に神妙な面持ちで語る遥は、スマホの画面を見せてきた。
「彼氏出来た……彼氏出来たの!」
大事なことは二度…とはこのことだ。
図書室だと言うのに大声を出した遥は、他に誰もいないことを良いことに出来たばかりの彼氏について熱弁を始めた。
出会いから好きになるまで。
果てはどのように告白してくれたかも語っていく姿は見ていて楽しい。
先生も本を読む手を止めクスクスと笑いながら遥の話を聞いている。
「おめでとう」
片想いかもと相談を受けていたのはつい先日のことで、こうして順調に進めれたことを素直に喜んでいると、由良は?と問い掛けられた。
「由良はどうなの?好きな人とか、気になる人とか」
「えっ、いないよ!」
初恋は昔の話で、その先は何にも起こらないし、特に気になる人も出来ていない。
こうして友人や先生や家族と話している方が楽しい。
ただ少しだけ、小説のような恋愛に憧れがあるくらいで、恋愛についてあまり考えたことはなかった。
「えぇ、高校生なのに。ね、高梨先生!」
「え?えぇ、そうね……」
困ったように笑った先生はメガネの位置を直し、自身にも思い当たる節があったのか、話題を逸らしている。
「片山さん。この小説面白かったよ」
「わ、ありがとうございます。じゃあ次に借りてみますね」
先生のお勧めに外れはない。
ならこれも気に入るだろう。そう思いながら何気なく先生が持っている他の書籍に目を移す。
「あー、先生、またそれ読んでる」
遥も気が付いたようで、先生のお気に入りの小説を指差した。
先生の愛読書であるその小説はまだ読んだことがない。
「私の愛読書だからね。あ、チャイム……」
「わ、大きい重機!」
ガタガタガタ…と、チャイムが鳴る中、学校正門前の道をオレンジ色の重機が数台走っていく。
「工事かな?」
「神社のかも」
「ああ、あの神社か……そうね。遷宮するのよね」
「先生、遷宮って何?」
首を傾げる遥に神社の移転について説明していると、先生も神社の移転について知っているのか頷いている。
「先生は行ったことあるんですか?」
私は小さい頃に少しだけ……と説明をすると、先生が微笑む。
「ええ、一度だけ行ったことがあるわ。野崎さんは?」
「うーん、私も行ったことありますけど、どんな場所だったか、もう覚えてないや」
「あら、そうなの。……さ、チャイムも鳴ったし行きましょう」
荷物を纏めた先生に続き鞄を持ち図書室を出る。
外を走り抜けていったのか、重機の音はもう聞こえなかった。
***
***
放課後になり部活動に精を出す時間。
由良はのんびりとした足取りで帰路に立つ。
先生に貸してもらった、面白いと言われた小説は鞄の中に入っている。
今夜のお供はこれだなと考えながら歩いていると、自然といつもと違う道から帰っていた。
ハッと気が付いた時には、小さな頃に住んでいたマンションの近く。
「あれ……?」
何でこんな所に来てしまったのだろうかと、首を傾げながら歩いていると、移転をすると言われている神社近くに来ていた。
重機はまだあり本殿辺りには数人の人だかりが出来ている。
その光景を眺めていると、本殿からカッと光が溢れ出してきた。
重機を扱っていた人達は気が付かないのか、関係なしに話を続けている。
あまりの光景に驚き過ぎて声が出せない。
ただ、怖くて怖くて後ずさりをしながら逃げ出す。
『や……ゆ………た…』
「ひっ!嫌!」
頭に響いてくる、ノイズがかった声に恐怖心が襲ってくる。
頭の上で虫を払うように手を振りながら走る。
背後からでも輝きが増すのが分かり、お父さんお母さん!と心で叫びながら逃げ惑うが、遂に光に包まれてしまった。
そこでもまだ逃げていると、焦ったような声が背後から聞こえる。
『……!…………!!』
『…!…!…!』
1人か2人か、何か呼び掛ける音が聞こえるが、首を振り抵抗をしていると、呼び掛けてくる人から舌打ちが聞こえてきた。
『………!』
切実に何かを求める声。
そこに目を向けようとしたけれど、ぷっつりと音は消え、浮遊感が襲ってくる。
「ひゃぁぁぁぁぁ!」
パッと見えたのは大きな噴水。
そこに向かって真っ逆さまに落ちていく由良は、見事噴水の中にダイブしていった。
バッシャーン!と派手な音を立て噴水からは水が溢れ出す。
咄嗟の動きが出来ず、水量の無い噴水でもがいていると、思い切り腕を引かれ起こされた。
「おい、大丈夫か!?」
焦りと驚きが隠せないような声の方を見ると、中世の騎士のような格好をした人が、焦りの表情で由良を見ている。
「……まさか、フォンツァ?」
鎧が濡れるのも気にせず由良を助けた騎士は、良く分からない単語を呟きながら由良を噴水から助け出してくれた。
背後にいる他の騎士に合図をし、騎士は自身が持っていた荷物の中から大きな布を取り出した。
「洗濯させる前だから、埃臭いとは思うが、我慢してくれよ」
ガタガタと震え始める由良の体に布を巻いてくれた騎士の言葉通り、巻かれた布はかなり埃っぽい。
ただ助けてくれる人の好意にお礼を言うと、優しく目を細め笑っている。
「フォンツァが悪い奴に捕まらなくて良かったよ」
「クライスラー隊長。それ、俺は悪い奴じゃ無いって言ってます?」
「当たり前だろ。ああ、連絡は取れたか?」
「はい。すぐに向かうそうです」
クライスラーと呼ばれた騎士は、ふぅと息を吐いた後由良を抱え上げた。
「は?お前軽いな!」
カラカラと大声で笑う声を聞きながら、由良はゆっくりと意識を手放していった。




