王様と王妃
クラヴィクスの頼み事は、ルッツ達がいる王宮内の詰所に書類を持っていくことだったり、面倒だから君が紅茶を持ってきてくれと言ってきたりと、かなり簡単な頼みだった。
それでも無理をし過ぎると倒れてしまい、その度にクラヴィクスの執務室のソファーで寝かされていたのは申し訳なく思うし、何より口を魔法で開けて薬を流し込むクラヴィクスは、余計に負担に思っているのではないか?と不安になっていた。
そんなこともありながら、回数をこなしていくと体力もついてきた。
そろそろお仕事の回数を増やしても大丈夫かな……と思っていた時、クラヴィクスにある提案をされた。
「王と王妃に会いに行くか」
「……はい?」
「体調は?」
「元気ですけど……」
いきなりですか?と思ったけれど、前々から機会を見計らっていたらしい。
ただ、王の前で支えが必要な状態での挨拶は、見栄えが悪いとのことで止めていたそうだ。
あれよあれよという間に、クラヴィクスに王宮の奥に連れていかれた由良は、玉座を目の当たりにして瞳を輝かせた。
「小説の世界が……そこに……」
ファンタジーな世界での定番の玉座。
想像よりもこじんまりとした印象だったけど、威厳のある椅子だ。
あれに王様と王妃様が座るのか……と考えながら待っていると、背後から突然わっ!と脅かされ悲鳴を上げる。
「ははっ、君が由良か。宜しくな」
爽やかな笑顔と茶色の髪の毛。
ユリウスに似ているその顔。きっと王様なのだろう。
ただ、着てる服が王様らしくない。
隣にいるのは王妃だろうか。
美しい黒髪で、マリウスに似ているけれど、こちらも服が王妃様らしくない。
呆けた顔で2人を見ていると、クラヴィクスの不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「2人とも……どこに行っていた」
「街」
「護衛は」
「付けていませんわ」
悪びれず答える2人に、盛大なため息を吐いたクラヴィクスは、何も言うつもりは無いのか無言で由良を見た。
「片山由良です」
「バルク・ケーニヒだ」
「ノラ・ケーニヒと申します」
にっこり微笑んで握手を求めた2人と握手を交わしていると、バルクの悪戯っ子そうな笑顔が見えた。
「ユリウスが由良を気に入っていたな」
「そうですか?」
むしろからかわれているだけのような……と答えると、2人が目を丸くさせ笑っている。
「どうだ妃にでもなっておくか?」
「バルク」
「おっと……おい、クラヴィクス。なんだよその目は。ああ、一人娘をユリウスに取られるのが悔しいのか?」
ニヤリと笑うバルクは王様にしてはノリが軽い。
それにしても一人娘とは。
親子ほど年の差は離れていない筈だけど……と、考えながら会話をしている2人を見る。
「あの2人と、あとルッツは小さい頃からの知り合いらしいのよ」
「へぇ!そうなんですね」
「えぇ、何でもクラヴィクスの父親が、王宮のお抱えの魔法使いだったと言っていたわ」
私はその頃のことは知らないけれど……と言うノラは、2人を微笑ましく眺めている。
(クラヴィクスさんのお父さん……)
家族構成など聞いたことは無かったけれど、クラヴィクスの父も魔力の高い人だったのだろうと推測できる。
「フォンツァの御披露目はこれで満足か?」
「ああ、クラヴィクスの愛娘も見れたからな」
「………」
「はいはい。じゃあな由良」
「由良。また会いましょうね」
手をヒラヒラと振る姿はユリウスのようで、ユリウスはきっと父親の癖が移ったのだろうな……と考える。
「クラヴィクスさん?」
「……ああ、戻るか」
2人の姿を眺めていたクラヴィクスは、由良を1度見てゆっくりと歩き出した。
歩幅が全く違うのに、着いていけるように自然と遅く歩くクラヴィクスは、実はフェミニストなのではないか。
執務室に向かう途中、そんなことを考えていたせいでバチが当たったのか、執務室に入った途端くらりと視界が揺れる。
「……?」
ポスンと倒れたのはクラヴィクスの腕の中。
距離を取ろうとしたクラヴィクスは、由良の様子にピクリと眉を上げた。
ソファーに寝かせ額に手を置きじっと由良を見つめる。
舌打ちを1度したクラヴィクスは薬を手に取り、大きくため息を吐く。
「……」
クラヴィクスの髪の毛がさらりと揺れ、由良の頬をなぞる。
起きる気配など見せない由良の唇を1度拭い、再びため息を吐いた。




