異世界で買い物体験
この間は噴水広場ばかりに目がいき、周りに目が向けられなかった。
だから噴水広場の近くにはもう市場が広がっているとは思わず、活気溢れる街並みに感嘆の声を上げた。
「うわぁぁ……凄い……」
日本で言う渋谷や原宿か?と思えるほど人が多い。
「教科書で見た通り。あ、料理も凄い良い匂い……」
他の国より栄えていると言うのは、比較対照を見たことがないから具体的には分からないが、肌に感じる熱気が教えてくれる。
露店が多く立ち並ぶ街並み。
大きな鍋に、良い匂いがするスープを沢山煮込んでいるお店もあれば、ケバブ屋のように大きなお肉が置いてあるお店もある。
小説でしか読んだことの無いファンタジーな世界に似てて、こうして現実として味わえているのは幸せなのではないか。
そう考えると、どんどん元気が湧いてくる。
ディアナやルッツの袖を引っ張り、興奮したように辺りを見ていると、髪飾り屋を見付けた。
髪飾り屋に着き、可愛い可愛いと言いながら見ていると、クラヴィクスに首根っこを掴まれてしまった。
「全く。少し落ち着きなさい」
「そうそう。まだ時間はあるしな」
「由良様。ゆっくり見て大丈夫ですからね」
「うっ、子供みたいにはしゃいでごめんなさい……」
まるで興奮してはしゃぐ子供のようで恥ずかしい。
「まあ、外の様子を知らない子供と同じだが……」
「……うっ!」
頷くクラヴィクスの言葉が止めの一撃となりズーンと沈んでいると、頭に何かが刺さったような感覚になり、ソッと頭に手を乗せる。
頭に付いていたのは簪のような髪飾り。
髪飾りの先にはパールと、白とピンクの小さな花があしらわれた装飾が付いている。
「わ、可愛い……」
日本にいても学校生活の中では必要のない物だし、出掛けるにしても髪飾りは付けていなかった。
勿論見れば可愛いと思うし、買ってみたいとも思っていたけれど、中々手が出せないでいた物だった。
これを期に買っても良いかな?と思い露店の店主を見ると、驚いた顔で由良の隣を見ている。
「クラヴィクス様!?」
「これを貰おう」
店主の手にチャリンと小銭を渡す音が聞こえる。
「クラヴィクス様が……私の店で、買い物……」
50代くらいのおじさんが、頬を赤く染め嬉しがる姿は初めて見たかもしれない。
「って、クラヴィクスさん!?お金……」
「今後何があるか分からないだろう。金は取っておくといい」
「でも……」
いつも世話になりっぱなしなのに、更にお金の面でも世話になってしまうと、どう返していけば良いか分からない。
そんな思いで見つめると、クラヴィクスが額を軽く叩いてきた。
「なら、これは君への褒美だ」
「なんのですか?」
「トレーニングも勉学もこなし……それと、良い研究材料だ」
さらりと告げられたが研究材料に底知れぬ恐怖を感じてしまう。
「えっと……」
戸惑いつつ一度髪飾りを外そうとしたものの、ディアナに制されてしまった。
「由良様。貰っておきましょう。断るとクラヴィクス様に失礼ですよ」
ソッと肩に手を置いたディアナはクラヴィクスを見る。
「由良様に素敵な髪飾りをありがとうございます」
「クラヴィクスさん……ありがとうございます」
こんなに素敵な髪飾りを貰ってしまって良いのだろうか。
そう思いながらも、この髪飾りは一生の宝物になりそうだと、大事にしようと心の中で決めた。
***
この世界で使える服を数着買い、結局それもクラヴィクスやルッツが出してくれたし……感謝しきれないくらい恵まれている。
「しっかし、あの出不精クラヴィクスが街に出て、しかも買い物までしてる姿は貴重だな」
「出不精……」
「薬と魔法の研究と、外に出るにしても魔物退治。行くのは精々材料を買うくらいだし……。おい、街に出て普通の買い物するなんていつぶりだ?」
「………」
もうそろそろ帰ろうかと歩いている最中、ルッツからの問いかけにクラヴィクスは顎に手を当て考えている。
ディアナと顔を見合せながらクラヴィクスの回答を待っていたものの、予想だにしなかった回答にポカンと口を開けた。
「覚えてない」
曰く、必要な材料は自分で用意するものの、服は支給品を着れれば十分で、王宮にいれば料理もしなくて済むし、ある程度はメイドが出来るとなれば、問題なく過ごせるらしい。
「確かにクラヴィクスさんいつも執務室にいるイメージがあります」
むしろ一度客間に来てくれた以外では執務室でしか見ていない。
そこではた……と気が付く。
「クラヴィクスさんいつもどこで寝てるんですか?」
自身がよくソファーを占領してしまっている。
もしそこが寝床だったら申し訳ないと思いつつ、恐る恐る聞いてみる。
「君が来る前はソファーで寝ていた。今は研究室にあるソファーで寝ている」
睡眠は取っているから大丈夫だと言わんばかりに得意そうに答えているが、ソファーは本来寝るための家具ではない。
「し、寝室は……」
「必要ない。ソファーで十分だ」
毎夜遅くまで働き、ソファーで仮眠を取り早朝に起きて仕事に取りかかる。魔物が出れば赴き退治に参加。
それ以外にも様々なことをこなしているクラヴィクスが、過酷な労働環境により不規則な生活になるのは否めない。
肌も白く決して健康そうとは言えない美男子は、こうして出来上がっていったと言うことだ。
「魔法で呪いをかけられたヤツを助けられるのお前しかいないんだからな。倒れるなよ」
「問題ない」
これがあるからなと取り出したのは、クラヴィクス自身が調合したというサプリメント。
栄養素が詰まっている上、満腹感も得られる。
様々な効能があるらしく、もう少し改良をして、薬の次にこれを他国に売り出すらしい。
「またそれかよ。せめて味のある料理食え」
「……面倒だ」
最近は時間が惜しくて、ご飯すらまともに食べていないとなれば、ディアナや由良が呆気に取られるのも無理はない。
「す、好きな食べ物だったら……ほら、甘いのとか辛いのとか、何でもありますし……」
街を示し、せめてそれくらいはと期待したが、クラヴィクスは首を振っている。
「甘いのも辛いのも嫌いだ。強いて言うなら……紅茶だな」
「飲み物ですか……」
これは結構重症だ。
由良自身よりクラヴィクスをどうにかした方が良いのでは?と考えた三人であった。




