とある断捨離に目覚めた魔族
とある山深くに禍々しい城が佇んでいた。
「ふっふっふ、我が城は鉄壁の守り。
勇者と言えど、我が城に踏み入れば唯ではすまい」
そう独りごちているのは
城の主である魔族であった。
暗闇が沈殿した玉座の間にて、
勇者が来るだろうその時を
ただ待ち続けている魔族。
ここでふと魔族は思う。
「・・・にしても、遅すぎる」
勇者を待ち構えるために
城を建設して一年が経った。
だが未だに勇者は現れていない。
「・・・まあそれは仕方ないのだが」
魔族はふと玉座の間を見回す。
闇に沈んだ玉座の間。だが良く目を凝らすと
テーブルやら椅子やらが散乱している。
新築だからと張り切って家具をそろえたのだが、
結局のところたいして使わずに、
玉座の間に放置していたのだ。
邪魔なため不要な家具を捨てたいが、
城を空けるわけには行かない。
だがこれでは見栄えも悪かろう。
魔族はふと考え込んで――
「よし。業者に頼もう」
すぐに廃品回収業者に連絡を取った。
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「はい。それじゃあパッパとやっちゃいましょうか」
朗らかに笑った業者の女性に、
魔族はやや戸惑いながら尋ねる。
「俺は何をすればいいのだ?」
「お客様には不用品とそうでないものの
仕分けをお願いします」
そう言うと、業者の女性は
二つの段ボールをさっと取り出した。
段ボールには「いるもの」と「いらないもの」との
文字がそれぞれ書かれている。
「必要なものはこちらに、不要なものはこちらに入れて下さい。
不要なものは私たちがまとめて処分いたしますので」
「ふむ。よし分かった」
魔族は頷くと、いそいそと城の中にあるモノの整理を始めた。
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「こんなところだろう。おい。仕分けが終わったぞ」
「はいはいはい。どれどれ」
業者の女性が段ボールへと近づいて、
「いるもの」と書かれた段ボールから
椅子を一脚取り出した。
「はてこれは? 足が折れているようですが?」
「む? ああこの椅子か」
業者が取り出した椅子に
魔族はふんと胸を張った。
「足が折れてしまったが座り心地の良い椅子でな。
いつか修理しようと思っている。ゆえに
この椅子は『いるもの』と仕分けしたわけだ」
「・・・お客様。この椅子が壊れたのは
どのくらい前のことですか?」
「たしか・・・半年ほど前のことだ」
「お客様。そういうのは駄目ですよ」
業者が眉をひそめて言う。
「いつか修理する。いつか使うかも知れない。
そんなことを言っていては片付けはできません。
半年も修理していないのでしょう?
ならば今後も修理しません。捨ててしまいましょう」
「ぬ・・・しかし・・・」
「掃除とは思い切りが大切なのです。
断捨離と言う奴ですよ。お客様」
「・・・分かった。この椅子は捨てよう」
業者がニコリと微笑んで、足の折れた椅子を
「いるもの」から「いらないもの」の段ボールに移動させる。
そしてまた業者が「いるもの」の段ボールから
ドライヤーをさっと取り出した。
「お客様。これは?」
「見ての通りドライヤーだ。それはまだ壊れていないぞ」
「・・・お客様失礼ですが、
お客様の頭はつるつるでドライヤーを
必要としないように思えますが」
「いや・・・確かにまだ使ったことはないが、
いま育毛剤により髪を生やしている途中で・・・」
「これも捨てましょう」
業者がきっぱりと言う。
「一ヶ月使ってないのならこれからも使いません」
「しかし・・・髪が生えたら使うつもりで」
「生えたら新しいのを買えばいいんです。
生える前からドライヤーを持つなんて無駄です」
ぽいっとドライヤーを「いらないもの」の段ボールに移動させる。
さらに業者は「いるもの」の段ボールを漁り――
「あとこの育毛剤も効果がなさそうなので捨てましょう」
「おい!」
抗議する魔族を無視して業者が育毛剤を捨てる。
「えっと・・・他には、おや、これは何です?」
「おお、それか! それは俺が屈強な冒険者を倒した際、
魔王様により表彰された時の盾だ! すごかろう!」
「捨てますね」
「うおおおおおおおおおい!」
さすがに魔族は声を荒げた。
「それは駄目だ! それは俺にとって大切な思い出の品なんだぞ!」
「思い出って何です? なんかの役に立つんですか?」
「いや役には立たんが・・・しかしだな――」
「いいですかお客様。この際だからハッキリと申し上げます」
業者がギラリと瞳を輝かせる
「いつか使うから。大切な思い出だから。
そんなことを言っていると、こんな立派な城も
たちまちゴミ屋敷になってしまいますよ。
使わないなら捨てる。古い思い出の品も捨てる。
必要になったら買えばいいし、思い出はまた作ればいい。
物に縛られず生きる。これが断捨離の奥義なんです」
「物に縛られずに・・・生きるだと?」
「物に縛られていては幸福にはなれません。
物との決別。その先にこそ真の幸福があるんです」
「・・・そうか・・・そうだったのか」
魔族ははっとして、
これまでの過ちを痛烈に悔いた。
「俺は物を使っている気になっていた。
だが実のところ物に使われていただけだったんだな」
「ええ・・・ん? え、まあはい。
意味は分かりませんがそういうことです」
「俺は生まれ変わったぞ!」
魔族は声を上げると、
業者にグッと拳をかざした。
「もうつまらぬことで物を残しておこうなど考えん!
さあ業者よ! 仕分けを続けようじゃないか!」
「よく言いました! ではこのテーブルはどうします!?」
「捨てる! でかいし邪魔だ!」
「ではこのアルバムは!?」
「いらん! おねしょ記念日ってなんだ!?」
「ではこの歯ブラシは!」
「不要だ! 指で磨けばいい!」
「ではこの――」
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とある山奥に冒険者がいた。
冒険者は山の中腹に差し掛かったあたりで
奇妙なものを見つけた。
それは山には似つかわしくない大きな更地であった。
「はて・・・村人の話ではこの辺りに
魔族の城があるはずだが」
更地に近づいて目を凝らす。
更地の中心に一匹の魔族が立っていた。
「よくぞ来た冒険者よ。さあ俺と勝負しろ」
ファイティングポーズをする魔族。
だがなぜかその魔族は――
素っ裸であった。
「さあ来い。断捨離によりレベルアップした
俺の実力。見せてくれようぞ」
何だかよく分からないが――
冒険者は何となく恐怖を感じて逃げ出した。
壊れた椅子・・・邪魔だな。
ブックマークと評価一件につき、10+2話書いてみたいと思います。
もう少し延長させてやろうという方、
よければブックマークと評価をいただけるとありがたいです。
ブックマークつけるか迷ったときはつけてみましょう。




