とある魔王様のお誕生日会
屈強な魔族が守りを固めている魔王城。
闇と暴力により支配されたその城のとある広間に、
大勢の魔族が集結していた。
爛々と血の色に輝かせた魔族の瞳。
その底冷えする眼差しは
強大な力を有する彼らが堪えようもなく
高揚していることを示していた。
広間に集った魔族のうちの一人。
一際大きな体格をした赤角の魔族。
その魔族が木の幹ほどもある大きな棍棒を
右手に握りしめて広間の中心に立つ。
赤角の魔族に広間の魔族の視線が集中する。
赤角の魔族が右手の棍棒を頭上に掲げて――
力強い声を上げた。
「魔王様! お誕生日おめでとうございまあああす!」
赤角の魔族が右手の棍棒――もとい巨大な
クラッカーを鳴らした。
クラッカーの軽快な音とともに、
広間の魔族らが一斉に歓声を上げる。
「うおおおおおおおおお!」
「魔王様! おめでとうございます!」
「パチパチパチパチ」
各方面から鳴らされる盛大な拍手。
それを沈黙して聞くことしばらく、
赤角の魔族がさっと両手を振る。
「よし。練習はこんなもんだろ」
使用済みの巨大クラッカーを放り捨て、
赤角の魔族がうんうんと頷く。
「これだけ盛大にやるんだ。
魔王様も気に入ってくれるといいんだが」
「一ヶ月以上もかけて準備したんだ。
きっと喜んでくれるさ」
チョビ髭の魔族からそう太鼓判を押される。
だが赤角の魔族はやや表情を渋くした。
「だといいがな。魔王様も少しばかり気が難しい。
前回の幹事はパーティの準備に手間取り
誕生日の0時を5分ばかりオーバーしたそうだ。
それで骨も残らぬほど焼却されたと聞く」
「確かに恐ろしいな。しかし今回は大丈夫だ。
時間もまだ余裕があるからな」
「うむ。そうだな。
特に今回は魔王様の千歳の誕生日だ。
失敗は許されない」
「しかし魔王様もついに千歳か。
こう言っちゃなんだが、もう年寄りの仲間入りだな」
「おいおい、魔王様に聞かれたら、
八つ裂きにされてカラスのエサにされるぞ」
不穏なことを言われながらも
チョビ髭の魔族は「違いない」とカラカラ笑った。
するとここで赤角とチョビ髭の魔族に、
一体の魔族が近づいてくる。
パーティー用の鼻眼鏡を掛けた魔族が、
やや眉をひそめて尋ねてきた。
「それにしても魔王様は遅いな。
いつ来るんだ? もう呼んできたんだろ?」
鼻眼鏡で準備万端の魔族の疑問に、
赤角の魔族は怪訝に首を傾げた。
「何を言っているんだ?
パーティーは0時きっかりにやるんだ。
まだ10分あるゆえ、魔王様を呼んではいない」
会場にある時計を見て赤角の魔族はそう言った。
すると途端、鼻眼鏡の魔族が目を見開いた。
「・・・お前知らなかったのか?
この会場の時計・・・30分遅れてんだぞ」
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魔王城の玉座。赤角の魔族は恐る恐る、
玉座の扉を見やった。扉にはきっかりと
「勤務中」の名札が掛けられている。
「やはり・・・いるな」
この赤角の呟きに、
チョビ髭の魔族が冷や汗を流しながら頷く。
「普段ならとっくに寝室にいる頃だ。
つまり・・・誕生会に呼ばれるのを待っていたんだ」
「会場は毎年きまって同じ場所だ・・・
誕生会があるのも知っているだろう。
どうして魔王様は来ないんだ?」
「俺たちが呼びに来るのを待っていたんだろ。
誕生会があるのを知っているとはいえ、
呼ばれてもいないのにノコノコ顔を
出せないんじゃないか?」
「・・・お、怒ってるかな?」
「だろうな・・・もうニ十分もオーバーだ」
「俺・・・殺されるかな」
「・・・去年のこともあるからな・・・
正直・・・そうなるだろうな」
チョビ髭の応えに、
絶望的に項垂れる赤角の魔族。
するとここで――
「なにをしけた面をしている。
魔族たる者がなさけないぞ」
鼻眼鏡の魔族がそう鼻を鳴らした。
鼻眼鏡の魔族の言葉に、
赤角の魔族はどんよりと応える。
「・・・とてもお前のような
陽気な面にはなれん」
「この陽気な面は鼻眼鏡の所為だ。
やってしまったものは仕方ないだろ。
いつまでもクヨクヨするな」
「お前・・・他人事だと思って」
「おいおい。俺はそんな薄情じゃないぜ。
仕方ねえな。お前らはそこで見てろよ」
鼻眼鏡の魔族が扉の前に立つ。
「いいか? 暗い顔でただ謝罪するだけじゃ、
相手だって気分が暗くなる。こういう時は敢えて
明るい感じで行くんだよ」
「明るい感じ?」
「まあ見てろって――
イェエエエエエエイ! 魔王様ぁあああ!」
鼻眼鏡の魔族が扉を勢いよく開けて、
玉座の間に入り込んだ。
「ながらくお待たせして申し訳あっりませえええん!
準備も整いましたので、楽しい楽しい
パーティー会場に、あ、ご案内いたし――
もぎゃあああああああああああああああああああああ!」
玉座の間から鼻眼鏡の悲鳴が上がり、
突如しんと静寂する。
開かれた扉がキィイっと不気味な音を立てて閉まる。
部屋の中を確認することはできなかった。
だが恐らく鼻眼鏡は――
「ひ、ひぃいいいいいいい!
やっぱり魔王様、滅茶苦茶怒ってる!」
「おおおおお、落ち着け赤角!」
チョビ髭の魔族が
汗をダラダラ流しながら口早に言う。
「鼻眼鏡のことは一旦忘れろ!
待ちぼうけ喰わされたあげく、
あんな陽気な態度では
誰だって頭に来るもんだ」
「どどどど、どうすれば?」
ボロボロ涙を流す赤角に、
チョビ髭の魔族が真剣な面持ちで頷く。
「幹事のお前が顔を出しては
火に油を注ぐことにもなりかねん。
俺が魔王様に事情を説明しよう」
「だ、大丈夫か?」
「し、心配するな」
チョビ髭が扉の前に立ち
赤角に向けてぐっと親指を立てる。
「こう見えても、俺は魔王様と仲が良いんだ。
三日前には魔王様に手編みのマフラーをプレゼント
したぐらいなんだぜ。そんな俺の言葉なら、
魔王様もきっと聞いてくれ――」
そう話している最中、
玉座の間から放たれた光の奔流に
チョビ髭が呑み込まれる。
玉座の扉とせまい通路を爆砕して
消失する光の奔流。
ぽっかりと開いた破壊跡には
チョビ髭の姿はどこにもなかった。
「も・・・もう駄目だ」
鼻眼鏡とチョビ髭。二人の魔族が
言い訳を口にする間もなく始末された。
次は自分だ。そう覚悟を固めた時――
背後から軽快な音楽が鳴らされた。
「こ、この音楽は」
背後を振り返る。するとそこには
パーティー会場から駆けつけた
数十人の魔族が立っていた。
ラジカセをシャカシャカ鳴らして
魔族の一人が言う。
「これはお前だけの問題じゃない。
俺たちも魔王様に八つ当たりされる可能性がある。
ここは全員で、この難局を乗り切るんだ」
「乗り切るって・・・だがどうやって」
「俺たちが決して生半可な気持ちで
誕生日会を準備していたのではないことを伝えるんだ」
軽快な音楽を鳴らしているラジカセをかかげ
魔族がにやりと笑った。
「俺たちの練習の成果を魔王様に見せてやろう。
俺たちが本気であることが伝われば、
魔王様も許して下さるはずだ」
仲間のその言葉に、
赤角の魔族はハッとした。
(そうだ・・・俺は誤魔化すことばかりを考えていた。
そうじゃないだろ。確かに俺は時間を間違えた。
だが魔王様を祝福しようとする気持ちに嘘はなかったはずだ)
ならばその気持ちを真正面からぶつければいい。
そんな単純なことを――
どうして忘れていたのだろうか。
一番大切なことを気付かせてくれた仲間達。
その彼らの真剣なまなざしに見つめられ――
赤角の魔族はぐっと拳を振り上げた。
「いくぞ! ここが俺たちの
誕生日会のパーティー会場だ!」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
魔王様の攻撃により、
ぽっかりと開いた破壊跡。
彼らにとってそれは絶好のステージだった。
魔族たちは覚悟を決めて――
そのステージに躍り出た。
「へい! やあ!」
まず先陣を切るのは五人の魔族だ。
軽快な音楽に合わせて軽やかなステップを踏み
場のボルテージを徐々に高めていく。
「ラーララーラーララララ―!」
次は十名からなるコーラス隊だ。
彼らの魅惑的なボイスは
陰鬱とした魔王城に華を咲かせた。
「やあ! はあ!」
次はアクロバティック部隊だ。
玉乗りや縄跳び、ジャグリングなど
妙技の数々を見せて、
場の空気を最高潮まで高めていく。
そして満を持して――
メインボーカルとなる赤角の魔族が
ステージに躍り出た。
「今日は偉大なる魔王様の誕生日ー!
世界中の魔族が祝福の言葉を口にするー!」
誕生日会までの一ヶ月。
一日も休むことなく
ボイストレーニングを続けた。
その実力を遺憾なく発揮する。l
そして――
赤角の魔族と仲間たちは声を合わせて叫んだ。
「魔王様! お誕生日おめでと――」
瞬間――
赤角の視界は白い輝きに包まれて――
意識が闇の中に消えた。




