とある異世界転移した魔族の魔王への道のり
「ぬう、ここはどこだ?」
ふと気付くと、
そこは真白な空間であった。
俺は怪訝に眉をひそめつつ、
くるくると周囲を見回す。
するといつの間にか、
目の前に一人の女性が立っていた。
「貴様何者だ?」
「私は悪魔・・・
魔族である貴方にお願いがあり
私の世界に呼んだのです」
「お願いだと?」
悪魔を名乗る女性がこくりと頷き
淀みない口調で話し始める。
「これから貴方をとある異世界に送ります。
その異世界を魔族である貴方に征服してほしいのです」
「異世界を征服とな?」
「はい。どうか悪魔である私の頼みを
聞いてください。異世界に行くにあたり
特典も付けて差し上げますので」
「特典?」
「貴方をその世界で最強にしてあげます」
最強。
それは魔族ならば喉から手が出るほど欲しい称号だ。
しかし悪魔なる者の手で与えられる
いわゆる「チート」により最強になるなど
プライドが許さないのも事実。
悪魔の話を最後まで聞いて、
俺はきっぱりとこう言ってやった。
「サンキュウデース!」
「・・・ちゃらい」
悪魔のツッコミを聞き――
俺の意識はここで一度途絶えた。
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意識を取り戻した時、
俺は周囲の空気が変わったことに気付いた。
どうやら異世界転移が完了したらしい。
(ふふ、異世界を滅ぼせ・・・か)
よもや魔王様のような
役割が与えられるとは思っても見なかった。
俺は魔族の中では
陰キャと呼ばれる類のもので
決して目立つような魔族ではなかった。
だがこれからは違う。
この異世界で俺は新たな魔王となるのだ。
この異世界の情報は何もない。
ゆえに当然ながら不安もある。
だが高揚のほうが大きい。
(俺は悪魔により異世界において最強になった。
何を恐れる必要があろうか?)
そもそも元の世界は
常に命の危険がある戦乱の世だ。
魔族と人間が熾烈な戦いを繰り広げている
その元の世界に比べれば
どのような異世界だろうと
生ぬるいに違いない。
俺はそう考えながら
まぶたをそっと開いた。
すると――
「・・・あ? てめえ、誰だよ?」
目の前に人の顔があった。
「・・・え?」
ぽかんと目を丸くする。
目の前にある顔がギラリと瞳を尖らせて
こちらを鋭く睨みつけてくる。
「え? じゃねえだろこのタコ!
何してんだって聞いてんだコラ! ああ!?」
髪を凶暴に逆立てて
所々に刃物の傷跡を付けた男が
顔面を凶悪に歪めてそう聞いてくる。
狼狽しながら周囲を見回す。
目の前の人物と雰囲気が似た男達が
こちらを取り囲んでいた。
「えっと・・・ここは?」
「はあ!? 寝ぼけてんのか!?
ここはうちら極道の・・・鬼柳組の事務所だろうが!?」
「鬼柳組・・・ゴクドウとは何だ?」
「ヤクザだってんだよ!?テメエなめてんのか!?ああ!?」
「ヤ・・・ヤクザ?」
なんだそれは?
魔族とかエルフとかと同じ
種族の名前か何かだろうか?
よく分からないが、
このヤクザを名乗る存在は、
どうやらこの異世界の住民らしい。
敵意たっぷりにこちらを睨んでくる
ヤクザなる存在につい怯みそうになり――
(いや・・・何を恐がる必要がある。
俺はこの世界で最強なのだ)
俺はそう気を取り直して胸を張った。
「ふん。『ヤクザ』だか『いやんバカ』だか
知らないが愚かな奴め。良いかよく聞け。
俺はこの世界を征服する魔王な――」
その時パンと空気の弾ける音が鳴り、
右足を激痛が貫いた。
「ぎゃあああ!?」
思わず悲鳴を上げて片膝を付く。
激痛のある右足に視線を下すと、
そこには直径三センチほどの小さな穴が開いていた。
「何わけわかんねえ寝言ほざいてんだ?
ああ?ぶち殺されたくなきゃ質問に答えやがれ」
目の前のヤクザなる存在が、
右手に何かを構えている。
黒光りする筒状の物体。
薄い煙を立ち上らせているその物体に
俺は痛みに呻きながら困惑の声を上げた。
「ななな・・・何だそれは?」
「はあ? テメエまさかチャカも知らねえのか?」
「チャ・・・チャカ?」
「拳銃だってんだよ。おら。
もう一発くらいたくなきゃテメエが何者か吐きな」
ケンジュウ・・・?
よく分からないが異世界の武器か?
魔法のような予備動作も必要なく
このような致命的な怪我を与えるとは
なんと恐ろしいことか。
(しかし・・・俺は異世界で最強のはず・・・
なぜだ・・・なぜ・・・)
困惑しながら疑問を浮かべる。
そしてふと気付いた。
俺は悪魔により異世界最強となった。
だがあくまで生物として最強になっただけだ。
この異世界の住民は
生物としての強さではなく
道具を用いてその力を高めている。
とどのつまり――
この異世界において
生物的な強さなど何の意味も持たないのだ。
「あ・・・組長!」
武器を構えていた男が一歩退いて、
目の前に老齢の男が現れる。
ダラダラと汗を流すこちらに
老齢の男が刃物のような眼光を輝かせる。
「ずいぶんと奇抜な格好だな兄ちゃん?
テメエの身元を隠そうってはらか?」
「い・・・いや、そうではなく・・・
いえ・・・違います・・・これは地で・・・」
「ふん。だがお前さんの正体はおおよそ察しがついてる。
龍神会の鉄砲玉ってところだろ?」
「リュウジン? いえ違います・・・
俺は・・・いえボクはただのしがない魔族でして・・・」
「この状況で冗談を口にできる度胸は買ってやる。
だが相手が悪かったな」
老齢の男がケンジュウなる武器をこちらの眉間に向ける。
「お前さんは龍神会に戻してやる。死体としてな。
龍神会との睨みあいには飽きていたところだ。
テメエら龍神会が仕掛けてくるなら望むところ。
戦争といこうじゃねえか」
「だから違うんです! 誤解です!
ボクは悪魔によって異世界転移しただけで――」
「まだそんな戯言を抜かせるとはつくづく大したもんだ。
だが悪いな。俺はその手の冗談が嫌いなんでな」
老齢の男がカチリとケンジュウを鳴らし――
パンと空気が弾ける音が鳴った。
そして俺の意識は永久に途絶えた。
魔族が転移した先の異世界って怖いですね。
もちろんこの異世界はフィクションですよ。
ブックマークと評価一件につき、10+2話書いてみたいと思います。
もう少し延長させてやろうという方、
よければブックマークと評価をいただけるとありがたいです。
ブックマークつけるか迷ったときはつけてみましょう。




