とある自己犠牲呪文と真の仲間
俺は幼馴染の二人と世界を回りながら
魔族討伐をしている。
魔族討伐の冒険を初めて
すでに三年が経過する。
それなりに人々を救ってきたし
幼馴染である二人との絆も深くなってきた。
俺たちは最高のチームだ。
少なくとも俺はそう信じていた。
だがその信頼は
あっけなく打ち砕かれた。
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渡された魔導書に俺は唖然と呟く。
「・・・この魔法を俺が?」
俺のかすれた呟きに
幼馴染の一人がこくりと頷く。
「ああ。お前ならきっとこの魔法を会得できる」
「しかし・・・これは・・・」
「お願いよ」
ここでもう一人の幼馴染が懇願するように手を組む。
「今度の魔族はとても強力よ。
でも貴方がこの魔法を会得してくれれば
必ずやっつけることができると思うの」
「・・・だがこの魔法は・・・」
「これはお前にしか頼めないんだ。
いや・・・お前だからこそ頼めるんだ」
「・・・俺だから・・・」
「あまり時間がないわ。なんとか
その魔導書を明日までに会得しておいて」
「頼んだぞ。明日の魔族退治はお前に掛かっている」
そう話して幼馴染の二人が去っていく。
その場に一人残された俺は
二人から手渡された魔導書に視線を落とした。
その魔導書に書かれていた魔法とは――
自己犠牲呪文。
つまり――
術者の死によって発動する魔法であった。
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その晩、
宿を抜け出した俺は
一人で森の中をフラフラと歩いていた。
目的地などない。
ただ幼馴染の二人から離れたかった。
するとその時――
目の前に巨大な影が姿を現した。
「ふはははは! 魔族の登場だ!
不用心な人間め! ぶっ殺してやる!」
目の前に現れて、そう陽気に叫んだ魔族を
俺は呆然と見つめる。
無反応なこちらに
きょとんと首を傾げる魔族。
しばしの静寂が流れ――
「う・・・うう・・・」
俺はポロポロと涙をこぼした。
「な、なんだ? 一体どうした?」
狼狽する魔族に
俺は泣きながら抱き付いた。
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「自己犠牲呪文を会得を強制されたと?」
森の中で遭遇した魔族に事情を話した俺は、
涙でくしゃくしゃの顔をこくりと頷かせた。
「俺たち・・・幼馴染で・・・ずっと旅をしてきて・・・
深い絆で結ばれているって・・・そう思って・・・たのに・・・
こんな・・・鉄砲玉のような扱い・・・あんまりだ・・・」
「むうう・・・」
魔族が気の毒そうに眉をひそめる。
俺はぐすぐすと鼻をすすりながら
不満をとつとつと呟いていく。
「俺・・・俺・・・けっこう頑張ってたつもりで・・・
二人の足を引っ張らないように・・・してたつもりで・・・
だけど二人は俺のことを・・・そういうふうにしか
・・・みてなかった・・・それが悔しい・・・」
「なんと酷い・・・」
眉間にしわを寄せる魔族。
俺は涙をぐしぐしと袖で拭い、
プルプルと頭を振った。
「いや・・・違う・・・悪いのは俺なんだ・・・
俺がきっと役立たずで・・・何のとりえもないから・・・
すべては俺が弱いばかりに――」
「それは違うぞ! どのような事情があれ、
仲間を犠牲にしての勝利などあり得ん!
それは真の仲間ではない!」
「真の・・・仲間?」
魔族の言葉に呆然とする。
魔族が握りしめた拳を震わせる。
「奴らは所詮仮初の仲間に過ぎなかッということ!
お前が気に病むことなど何一つない!
全ては卑劣なその連中が悪いのだ!」
「そう・・・そうか・・・そうだよな」
魔族の怒りに感化されたのか、
俺もだんたんと腹が立ってくる。
「どうして俺がこんな落ち込まなければならない。
俺は精一杯やってきたんだ。二人にだって負けてない。
いいや! 俺の方が優れていたはずだ!」
拳を握りしめて俺は声を荒げた。
「悪いのはあいつらだ! 俺をのけ者にしやがって!」
「そうだ! お前は利用されていただけなんだ!」
「ああ! 目が覚めた! そもそもアイツら
前から怪しいと思ってたんだ! 二人はできてんだろうな!
それで邪魔者の俺を始末してリア充になろうとしているんだ!
きっとそうに違いない! くそ! あのアバズレどもがああああ!」
「その意気だ!」
「ふざけんな! こうなりゃ復讐だ!
誰に喧嘩を売ったのか、あのクソどもに分からせてやる!」
「よし! ならば俺も手を貸そう!」
魔族の思いがけない言葉に
俺は驚きながらも笑顔を浮かべた。
「そいつは助かる・・・だがいいのか?」
「お前の話を聞いて俺も腹が立っている。
ここで会ったのも何かの縁。
二人で奴らに思い知らせてやろう」
「ありがたい! 俺たちこそが真の仲間だ!」
俺と魔族は固く手を握りしめて
幼馴染への復讐を誓いあった。
するとここで――
「いたぞ! こっちだ!」
幼馴染の二人が
村の方角からこちらに駆けてきた。
すぐ近くに立ち止まった幼馴染の二人に、
俺はギラリと視線を尖らせる。
「・・・何の用だ?」
「なんのって・・・お前を探していたんだろうが」
「急に宿からいなくなって・・・心配したのよ!」
心配する素振りをする二人に、
俺は舌を鳴らして怒声を飛ばした。
「心配だと!? ふざけるな!
俺に自己犠牲呪文など憶えさせようとしておいて
よくもぬけぬけとそんな嘘が言えたものだな!」
「そのことなんだが・・・すまない。
お前に渡す魔導書を間違えたらしい」
俺は「え?」と目を丸くする。
気不味そうに頭を掻きながら
幼馴染が小さく頭を下げる。
「村の資料室から借りてきた魔導書なんだが
背表紙が似ていた物でな・・・お前に渡そうとした
魔導書は自己犠牲呪文ではなく・・・回復呪文だ」
「回復呪文・・・だと?」
「ああ。お前は俺たちの中でも実力が頭一つ抜けている。
戦闘で生き残る可能性が一番高いお前に
回復呪文を会得してもらいたかったんだ」
幼馴染の説明にぽかんとする。
するとここで――
もう一人の幼馴染が
目に涙を溜めながらぱちんと頬を叩いてきた。
「―-いって・・・なにすん・・・」
「馬鹿! あたしたちが貴方に
自己犠牲呪文なんて覚えさせるわけないじゃない!
どうしてそんな勘違いするのよ! バカバカ!」
「だって・・・あんなもの渡されれば普通――」
「あたし――あたし貴方のことが好きなのに・・・
好きな人にそんな魔導書を渡すわけないじゃない!」
幼馴染の思いがけない告白に
顔を赤くして狼狽する。
「好き・・・え? 俺のことを?」
「お前・・・彼女の気持ちに気付いてなかったのか?
彼女、旅が始まった時からお前のことばかり見てたんだぞ」
「・・・嘘だろ? そんな・・・
本当なのか・・・?」
涙を流しながらこくりと頷く幼馴染。
唖然とする俺に、
もう一人の幼馴染が苦笑する。
「魔導書を間違えたのは悪かったがお前も早とちりが過ぎるぞ。
俺たちはこれまでずっと旅をしてきた仲間なんだ。
そのお前を犠牲にするなんてあるわけがないだろ」
「・・・そうか・・・俺は・・・俺は・・・」
涙が自然と込み上げてくる。
「そうだよな・・・二人がそんなことするはずがないのに・・・
混乱して・・・ごめん・・・ごめんよ・・・二人とも・・・」
「分かってくれるならいいの・・・あたし達の方こそごめんね・・・
でもこんな最低の告白なんかしちゃって・・・あたしのこと嫌いになった?」
「そんなことあるわけない・・・嬉しいよ・・・すごく・・・
俺も・・・俺も君のことが・・・ずっとずっと・・・」
「おいおい惚気なら宿に帰ってからやってくれよ」
涙を流しながら気持ちを伝えあう俺と彼女に
幼馴染の一人がカラカラと笑い――
ふと首を傾げる。
「ところで・・・そこにいる魔族は何だ?」
蚊帳の外に置かれていた魔族が
「え?」と疑問符を浮かべる。
俺はぐしぐしと涙を拭うと――
きっぱりとこう言った。
「あれは敵だ。今まさに
討伐しようとしていたところでな」
「うおおおおおおおおおおおい!?」
なにやら絶叫する魔族。
だがそんな魔族を無視して
俺は戦闘態勢を整えた。
「真の仲間たる俺たちの力を見せてやろうぜ!」
「ええ、わかったわ!」
「やってやるぜ!」
「ちょっと待てええええええ!
貴様ずるいぞ! さっきまで復讐だ何だと――」
「奴の戯言に耳を貸すな二人とも!
呪いの言葉だ! その言葉を聞けば
鼻から造花が飛び出してくることで有名だ!」
「鼻から造花なんて絶対ごめんよ!」
「おのれ魔族! せめて造花ではなく生花だろ!」
そんなこんなで――
俺は最高の友にして真の仲間――
幼馴染と協力して魔族を見事討伐した。
ちょっと長い。今度はもっと短くします。
ブックマークと評価一件につき、10+2話書いてみたいと思います。
もう少し延長させてやろうという方、
よければブックマークと評価をいただけるとありがたいです。
ブックマークつけるか迷ったときはつけてみましょう。




