バグ・フィックス6
オリジナルの、あるいはホーム・ブリューのTRPGを作る際には、テスト・プレイは非常に重要です。テスト・プレイ、あるいは試作段階は、よくαバージョン、βバージョン、γバージョンのように呼ばれます。αバージョンはごく限られたメンバーによるテストを行なうバージョン、βバージョンはすこし範囲を広げたメンバーによるテストを行なうバージョン、γバージョンは公開テストに相当するテストを行なうバージョンです。
ここでとくに重要なのは、αバージョンの、それも初期のテストです。公正な、また正当な評価ができるメンバーであり、主たる制作者が信頼できるメンバーで行なう必要があります。加えて、そのTRPGの主眼を理解した上で、αバージョンの範囲内で無茶をしてくれるメンバーである必要もあります。また、無茶をするだけでなく、その結果を収拾できるメンバーである必要もあります。作ったTRPGに根本的な問題があり、その行動によってTRPGとして破綻しない限りにおいてではありますが。もちろん、破綻する箇所を指摘し、示してくれることだけでも重要ですが、そうとわかった上でのことでなければ、生産的な意見を述べてくれることはないでしょう。
ですので、TRPGに慣れているというだけでは技量不足だったりします。条件を挙げるとしたら、すでに自身でTRPGを作ったことがある人か、いくつものTRPGを分析したことがある人のいずれかであることが望ましいでしょう。ここで言う分析とは、ルールブックを読んだというだけではなく、「仕様分析1」に挙げた図のようなものを描いたというようなことを指します。実際には描いていなくとも、そのような分析をしたような人です。
というわけで、αテストの初期に必要な人材は、かなり限られます。正直な話、この段階でのテスト・プレイヤーを確保するのが、TRPGを作る上で一番難しいかもしれません。
次善の策としては、ルールブックをきちんと読み込んでくれる人に、それを依頼することでしょう。そのような人は、ネットで見付けられるかもしれません。
この段階で、信頼できる人から寄せられた意見には、きちんと耳を貸しましょう。もちろん、改善案が寄せられたとしても、それをそのままルールブックに反映しなければならないわけではありません。しかし、どこが/なにが問題なのかは理解する必要があります。もしかしたら、寄せられた改善案は、ルールブックの読み違いかもしれませんし、ルールブックの記述が適切ではないことによるかもしれません。
αテスト後期からβテストは、いろいろとエンティティや世界観の説明を付け加えていく過程でのテストです。どの段階でβテストに移るかは状況次第ではありますが、とりあえずルールブックに書くことは書いたというあたりがその時期でしょう。
αテスト後期はまだだとしても、βテストに入ったら、テスト・プレイに対しての意見に耳を貸さない勇気も必要です。というのも、αテスト初期に必要だったメンバー以外のテスト・プレイヤーも入って来ているはずだからです。つまり、そのTRPGの根本を理解できていないテスト・プレイヤーもいるかもしれないからです。もちろん、それはそれで、ルールブックの記述に対しての意見として検討する材料にはなるでしょう。しかし、言うことを聞いてばかりでは、明後日の方向に進んでしまう可能性もあります。αテストで根幹の部分はできているという自信を持って、聞く意見は聞き、却下する意見は却下しましょう。
また、αテスト初期からβテストまでは、「仕様分析8」や「バグ・フィックス2」に書いたような確率のテストおよび調整を実地で行なう場面でもあります。とくにαテストでは、根幹に関わる確率の調整が必要かもしれません。
βテストに入ったら、付け加えられたエンティティに関しての確率とエフェクトの調整を行ないます。
また、βテストに入ったら、根幹に関わる確率やエフェクトの調整は、それが致命的でない限り避けましょう。βテストに入ってからそのあたりをまだ調整していたら、第一にいつまでたっても完成なり区切りがつきません。第二に、目指した方向からどんどん外れていきます。もっとも、致命的な問題が残っていることもままあるのですが。その場合は、きちんと対処しましょう。
広く公開するのはγテストに入ってからです。これは、より広くルールブックを送るとか、ネットで公開するなどの方法が取れます。
γテストはルールだとかシステム面では微調整のためのテストと考えましょう。対して、ルールブックの記述については、多いにブラッシュアップする段階でもあります。αテスト、βテストは身内でのテストかそれに近く、ルールブックの記述に問題があっても口頭で答えられたかかもしれません。しかしγテストはそうではありません。ルールブックのわかり易さのテストこそ、γテストの大きな目的と思っていいでしょう。
もちろん、悪く言えばルールなりシステムなりについても、ルールブックの記述に関しても、的外れの感想が返ってくることもあるでしょう。だとしても、この段階でルールなりシステムなりに大きく手を加えることは、絶対にと言っていいほど避けましょう。それはαテストとβテストでできているはずですし、γテストの段階でそれをやったら、またαテストからやり直す必要が出てくるためです。
しかし、記述についての意見は、ルールなりシステムなりのわかり易さも含めて、改善しましょう。
なお、当たり前のことですが、「もう飽きた」というくらいテスト・プレイを繰り返す必要があります。とくに最低でもαテストは制作者の責任として、「もう飽きた」というくらいテスト・プレイを行なう必要があります。それは調整した結果を試してみるという場合もありますし、単純に様々な状況を用意するという場合もあります。だからこそ、「もうやりたくない」だとか、「もうルールブックを見たくもない」というほどにテスト・プレイが必要なのです。
この段階で止めてしまう例も多々あります。この段階をいくぶんなりとも過ぎれば、あとは遊ぶ人の想像力次第という段階に到達しているだろうとも言えます。ですので、ただ止めてしまうのはちょっともったいないですね。もしそうなったとしたら、αバージョンであることを明記して公開してしまうというのも、取れる手の一つです。
そうなったとしても恥かしいことではありません。公開されないTRPGよりも、粗があっても公開されるTRPGの方が意義があります。このあたりについて、質にせよ量にせよどのあたりで充分とするかは、制作者の趣味によるところでしょう。
ところで、ルールブックは何ページくらい必要なのでしょうか? これは物によるとしか言えません。ただ、原作 (?) のTRPG化という前提である限り、1ページというのは避けましょう。1ページTRPGというものも存在しますが、だいたいにおいて特定の状況のみに対応したものです。私の経験上、スキルなどをGMが作るような汎用システムであっても、4ページ以上を目安としましょう。世界観や各種エンティティがある場合には、その何倍かが必要になります。
上限を提示することは難しいのですが、商業TRPGでは200から300ページだったりします。もちろん、かなり幅はありますが。オリジナル、あるいはホーム・ブリューのTRPGでこのページ数を目指すのは現実的ではありません。なにせ、プロが膨大な資料を作成した上でのページ数なのです。プロの作品のページ数の下限 (もちろんかなりの幅があります) が、オリジナルあるいはホーム・ブリューでの現実的な上限くらいの認識でいいかと思います。具体的には、オリジナルあるいはホーム・ブリューのTRPGの場合10ページから50ページでひとまず充分としましょう。100ページに到達できたら充分すぎるでしょう。
ページ数を抑えるのには利点もあります。ルールブックそのものの記述の不備が確認しやすいというものです。プロはそこまで含めてテストや校正をしているわけですが、それはもうプロの仕事です。そして、プロの仕事であってもつまらないミスや決定的なミスが残っていたりします。オリジナルやホーム・ブリューのTRPGでは、そもそもページ数の上限がかなり厳しいものとして存在するとして、その範囲内で適切に世界観やルールあるいはシステムを伝えられるようにしましょう。
それではあっても、もっと多く書きたいという場合もあるかもしれません。その場合には、テーマ別の分冊にするという方法を検討してみましょう。テーマ別であれば、基本のルールブックとその分冊内で整合が取れていれば、だいたいは大丈夫なはずです。
一つだけ追加するとすれば、小説家になろうなどに投稿されている小説には、「これは終らないのではないか」と思えるほどの大著があります。TRPGの場合、書き終らなければ遊べません。すくなくとも中核の部分については。分冊にするというのは、それへの対処にもなります。しかし、ともかく書き終らないと話になりません。
もしあなたが「終らない物語」を書いているのだとしたら、この点においては「終わらなければ始まらない」と気持を切り替えて取り組んでください。




