4 宝石
子供達と少し話し、別れたあとは、商店街の方へ向かう。
再びパトカーに乗り込み、話しているうちにあっという間に到着してしまっていた。
お世辞にも大きい町とは言えないため、車や電車を利用すると本当にどんな場所へもほんの数分で到着してしまう。
「一番厄介事がありそうな場所だけど、まぁ・・・トラブルって言ってもたかが知れてるから」
「クレームとかですか?」
「まぁそんなとこ」
そう話しながら商店街に入ると、様々な店が立ち並んでいる。
チェクスの町の店はほとんどこの商店街に集結しているため、チェクスに住む人でこの商店街に訪れたことがない人はまずいないだろう。
日用雑貨店、喫茶店、スーパー、コンビニ、なんでも揃っている。
その中で、リリーは宝石店で足を止めた。店の看板には「stella」と書かれている。
「宝石店・・・ですか?」
「ここが例のミルストーンを特注で作ってくれている店だ。他言厳禁だから」
トキがへぇ・・・と関心してると、リリーは先に店内に入る。慌ててトキもそれに続く。
「いらっしゃいませ~!あぁ、リリーか!いらっしゃい。そこの彼は?」
そう言ってトキたちを出迎えてくれたのは、stellaの店主であるミナセだ。
薄水色の緩いパーマがかったミディアムヘアをしており、ふわふわなワンピースを身にまとう彼女は、トキを不思議そうな顔でじっと見ていた。
「も、もしかして彼氏さん・・・?」
ミナセが「まさか・・・」と言わんばかりのオーラで恐る恐るそう尋ねる。
「!?いや・・・」トキが慌てて否定しようとすると、それより先にリリーが
「違う、今日からレッドの新しいメンバーになったアクテラストのトキ」
と、冷静に否定した。
「そうなの!?ごめんなさい、失礼なこと言っちゃって・・・申し遅れました。お初にお目にかかります、stellaオーナーのミナセと申します!」
ミナセは満面の笑みでそう自己紹介し、深々とお辞儀をする。
「あ、初めまして!レッドのトキです。よろしくお願いします」
釣られてトキも深々とお辞儀を仕返す。すると、ミナセはニコっと微笑んでくれた。
「アクテラストかぁ~凄いなぁ!私は特に種族はないから・・・」
ミナセは自分のアビストーンをそっと触りながらそう言った。
「そうなの?どうして?」
トキがそう尋ねると、
「特化した魔法を取得して種族に所属し、社会に出るというのはこのチェクスの町で推奨されていることだけど、実はそれは必須じゃない。実際、特化しない分威力は劣るけど幅広く魔法を取得することも可能なの。ミナセはそうやって幅広い種類の基礎魔法を取得して、ミルストーンに魔法を注入し、それを販売してるの」
と、リリーが答えた。初めて知る裏情報に、トキは目が丸くなった。
魔法は特定の種族の魔法に特化していないとダメだと思っていたし、魔法は全て自力で取得したため魔法販売なんていう事実も知らずにいた。・・・ってあれ!?
「・・・っていうか、ミルストーンって口外しちゃダメって言ってませんでした!?」
ハッと気づいたトキが叫ぶ。
「ミルストーンは世間一般ではこのミナセが作った魔法石の総称のことを示すの。でも、実際のミルストーンとはこういった魔法石のことではなくて、魔法を吸収する特殊な石の名称のことを示す。さっき説明した通り。ミルストーンはミナセの特殊な魔法によって作られたものだと認識されているから、実際はこのような特殊な石によって作られているとバレると危険だということよ。私たちの中ではややこしいから、私たちが持っている方を空のミルストーン、販売している方を普通にミルストーン、って呼び分けてるから覚えておいて」
そんなトキに、リリーが説明を付け加える。
「あれ、そもそもミルストーンって特注って言ってませんでした?」
トキがそう尋ねると、
「ミナセが商品に使っているミルストーンはあくまで『魔法を封じ込めておくもの』であるのに対し、私らが特注で作ってもらっている空のミルストーンは発動指せると強制的に『魔力を吸収するもの』。似て非なるものだから覚えておいて」
とリリーが答えた。
少々トキが混乱していると、ミナセが「よかったらどれか一つ買っていかない?」と、商品棚にトキを案内する。
棚を見ると、空のミルストーンよりも少し小さめのミルストーンが一つ一つ丁寧に並べられていた。その前には名札があり、事細かに魔法の詳細が記されている。
が、その魔法の内容は殆どどの種族にも属さない基本魔法ばかりだ。
「基本魔法しかないのは、ミナセさんが基本魔法中心に取得してるから?」
「うん、というか、それしか取得できないんだ。魔法取得には魔力がそれなりになきゃいけないけど、種族魔法の上級魔法は到底私には取得できそうにないし・・・何より、仮に取得できたとしても、それを簡単に販売なんてしちゃったら種族魔法特化させる意味がなくなっちゃうからね」
ミナセは少し寂しそうな笑みを見せながらそう答えた。
魔法取得には魔力値が必要だ。種族魔法というだけで魔力値はそれなりに必要になるが、第一線で戦闘できるレベルの上級種族魔法を取得するには、相当な魔力値がなければならない。五種類全ての種族魔法の上級魔法を取得するなんて、正直不可能に近い。そのため、どれかの種族魔法に特化させて取得するのが基本だ。
しかし、種族魔法を取得せず、どの種族にも属さない所謂基礎魔法というものを中心に取得する、という手もある。そうすることにより、通常は誰も取得しないようなマイナーな基礎魔法まで大量に取得できるという寸法だ。
「私の店で販売している魔法は、プラスアルファとして扱われるみたいだから魔力値は必要ないの」
「へぇ、それは便利だな。どれか一つ買っていくよ!」
トキはそう言って、魔法を一つ一つ見ていく。
基本的に物を動かしたり、自分に特殊能力を付与できるようなものが多いが、今まで聞いたこともないような魔法も多々あった。
特に、「ライト:全身に光を纏える魔法。これで夜も怖くない」という説明書きがされている魔法は目を疑ってしまった。
しばらく見ていたが、最終的に一番気になった魔法は「フライ:空を飛べる魔法。どんなに高く飛んでも身体に支障はない。上空から世界を見上げられる」という説明書きのされている魔法だった。
「結構王道って感じね。まぁいざ使う機会がなくて私も取得してないけどさ」
リリーがフライを選んだトキを見てそう言った。
実際地上戦がメインなので、飛びながら戦闘するようなことはあまり見かけない。
「はい、でも、一度でいいから空を飛んでみたくて・・・!」
素直にそう言うと、ミナセは微笑ましいと言わんばかりに優しい笑顔でトキに笑いかけた。