小さな出来事はやがて大きな事件へのトリガーになると相場が決まっている
はーい、二話投稿ーどーもー全然面白くない駄文読んでくれてありがとー
天道にシャーペンを返し忘れた。
もう既に外が暗くなってしまった現状で、俺はその出来事に大きく落胆していた。別にアイツと話すのが面倒な訳じゃ……いや面倒だな。凄え面倒だ。色々ネチネチ言われそうで面倒だ。が、それよりももっと厄介な事がある。
アイツは恐らく、俺にシャーペンを貸したという事実を『覚えていない』のだ。
何? 俺の人生がイケメン男優主演実写映画化した時の視聴者諸君は俺が何を言っているのか皆目検討もつかないだって? ハハッ、知るかバカヤロー。テメェらは後々出てくる設定の多さに「煩えッ!」って叫んどけばいいんだよ。今は設定が開示されていないよくわかんねぇ状況に首を傾げながら楽しんどけっ! どうせ男優目当てなんだろザマァ味噌汁とたくあんってよく合うよねっ!
などと、誰についているのかわからん悪態を吐き出し終わり、今度は溜め息を吐く。
――天道 明里は、『物語』の『登場人物』だ。
別に、この世界がどっかの本の中に存在するとか、そんなもんじゃない……ないと思いたい。
だが、この世界には……この地球上には、『ご都合主義』としか言い表せない現状が存在し、数々の『物語』が今現在も紡がれている。
街を歩けば美少女(悪魔)と冴えない男がごっつんこしてるわ、夜になれば異界から召喚した下僕を従えた奴らが戦争してるわ、山の中には誰も知らない魔法使いの為の学園都市が存在するわ、銭湯に行けば首から下がターミネー○ーな美少女が居るわ……兎に角、本来の地球の姿とはそういうものだ。……いや、やっぱ最後のだけは訂正しとくわ。そんな地球嫌だわ。
まあ、そういうご都合主義に関われるのが『登場人物』、関われないのが『一般人』……と、俺は勝手に呼んでいる。
というのも、その存在を認識出来るのは恐らく世界にたった一人だけ。そう、俺だけなのである。オイ今中二病って言ったやつは表出てバケツ持ってろ。の○太君の気持ちを味わうがいい。
……ともかく、『モブ』である俺と『登場人物』である天道は本来ならば関わる事の出来ない存在なのだ。何でかって? 物語は主人公達の『人生』の進行に不都合なものは全て『削除』するからさ。そこのスクリーンの前でバケツ持って立ち上がり後ろの席の奴に迷惑がられている男優好きな諸君は、小説とか映画のストーリー上で『登場人物』がモブにシャーペン貸したり昨日の俺と天道みたいな会話を繰り広げてる所を見た事あるか? 俺は無いね。モブとは本来ストーリーと深く関わらない存在であり名前すら出ない『そこに存在するだけのモノ』だからな。
つまり、このシャーペンは『元々貸さなかった』事になるか、はたまた『シャーペン自体が存在しなかった』事になるか、『そもそも最初から俺のモノだった』事になるか……まあ、どちらにせよ天道にシャーペンを返すという事は不可能なわけだ。
あぁ、下らない。何で俺が登場人物の事で悩まなきゃならねぇんだ。お人好しか俺は。
腹が立った俺は机に雑に放置されていた人気の携帯ゲーム機DomainStationVita、略して『DSV』を起動させ、念願のゲームを開始する。
ストーリーが入っているものは嫌いだ。アクションゲームの対人戦モードを選択し、只々敵を狩る、狩る、狩る。
といっても、俺はそれ程強くない。勝利数は二桁もいかず、何度か連続して負けた俺はゲーム機を机から見て右側にあるベットへと放り投げた。
ボフッ、という軽快な音と同時にゲーム機は掛け布団に包まれる形で傷一つ無く着地。チカチカと表示される『YOU LOSE』の文字が俺の腹立たしさを増長させた。
舌打ちをしながらゲーム機から目線を外し、机の上に乗っている天道のシャーペンを弄ぶ。
「アイツ、こんな趣味だったのかよ……」
シャーペンの側面には可愛いクマをモチーフにした『如何にも女の子向け』なキャラクターが描かれていた。まあ、貰い物という線もあるか。などと一人で納得し、それをクルクルと器用に回す。いわゆるペン回しである。
何度か回している内にアイツの生真面目な顔が浮かぶ。どうしたコミュ障。久方振りに人と話したから情でも移ったか、やっすい奴だな。そう自分を自分で嘲笑った。
そうしている内に、手元が狂いシャーペンを落としてしまった。軽く舌打ちを打つと椅子の背もたれに体重をかける。
胸の中のモヤモヤが減らずにイライラする。貧乏揺すりが加速する。歯軋りが酷くなる。無意味に爪同士を擦り合わせる。
「あぁ、わぁったよッ!! 明日もシャーペンが此処に『存在してたら』何が何でもアイツに押し付ければいいんだろッ!? そしたら今日休めなかった仕返しの嫌がらせにもなって俺は万ッ々ッ歳だねッ!!!!」
立ち上がってそう叫んだ瞬間、胸の中のモヤが消える。我ながらなんて単純な奴だと再度自分を嘲笑った。屑は偽善者振るって本当なんだな。
「どうしたの〜?」
おっと、心配した母親から二階の自室に居る俺に声が。少し大きめの声で「何でもない。」と返し、ベットに倒れ込む。
不様な自分をまたまた鼻で嘲笑い、ゲームを再開した。今度はヘッドホンを着けながらのガチプレイである。寝ながらのゲームは行儀が悪いと言うが、そんなもん知るか。こちとら健全な男子高校生様である。
鼻歌交じりで敵を狩る。今度は調子が良く、二桁以上の敵を架空の戦場でブチ壊す。銃を乱射し大剣をブン回し、そうして夜は更けていく。
*
ふと時計を見れば後数秒で零時であった。俺が登場人物に及ぼした影響全てが『リセット』される時間だ。
ゲームには『NEXT GAME?』の文字が点滅している。が、俺は端末を弄る事なく、じっと時計を見ていた。
三本の針が真っ直ぐに重なる。これがシンデレラなら魔法が解ける時間だな。と、いつもなら考えないような事を頭の中に巡らせた。
ヘッドホンを外してゲームをベットに投げる。そうして机の上をチラッと見た。
――そこにシャーペンは存在していなかった。
溜め息の様なものが漏れそうになる自分をまたまた自分で嘲笑う。やっぱりお前は偽善者だったのだと。
そうしている内に何だかスマホを弄りたくなった。ゲームに飽きてきたからかもしれない。
ベットに腰を落とし、歌詞を忘れた数年前のヒットソングを口ずさみながら、慣れた手つきでズボンのポケットを弄った。
と、何か細長い物に手が当たる。恐る恐る取り出すと、それは紛れも無く天道のシャープペンシルであった。どうやらいつの間にかポケットに入れていたようだ。
慌ててスマホを取り出し時刻を確認する。『零時二分』無機質な板はその事実を鮮明に映し出した。
思わず溜め息が出る。安堵? いや違うな、これは落胆だ。やっぱり俺は偽善者なのだ。
チラッと見た左手にはLED照明の光を受けて爛々と輝くシャーペンの姿が確かにあった。出来もしない左手によるペン回しを実行しベットの上にそれを落とす。
何もする気が無くなった俺はベットに倒れ込んだ。
ああ、面倒だ。そう思いながらも明日に何かを期待している自分がどこかにいる事に嫌悪し、イライラした俺はシャーペンを放り投げて部屋の電気のスイッチを押そうと試みる。敢え無く失敗。
舌打ちをしながら立ち上がり、シャーペンに傷が付いていない事を確認するとそれを机の上に置き、半ば投げやりに、そして乱暴に部屋の明かりを消した。
ああ、面倒だ。
補足するとメタ小説では、ないです。地球は本来僕らが認知してないだけでファンタジーな世界なのかもしれない的なアレです。そう。うん。
え? 地の文が多い? うるせぇよ。確かに今回主人公三言しか話してねぇけどもね? 細けえ事はいいんだよッ!