表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Blood Rain

作者: anather R


雨が降ると、たまらなく外に出たくなる。

雲に覆われた世界に涙が降ってるように、俺の心にはいつも雨が降っていた。

独特の陰気臭さ、辺り纏う湿気も、俺の心は洗い流す雨がある。


今日もまた、俺は外にいた。暗い雨の中を一人、孤独を抱きながら・・・。


好きなのは好きだ。でも、濡れるのは勘弁してほしい。

雨に濡れた後の臭いは、どうも好きになれない。嫌いじゃないのに、これは嫌いだ。

まず第一に、煙草すらまともに吸えない。

水分とは、恐ろしいもので、この世に2番目に大切なこの一時は、変えられない時間だ。

屋根のある場所で、煙草に火を付ける。

焼けた草の臭いが辺りに浸透し、やがて煙と共に雨に流され消えていく。

時間を確認すると、今は午前2時を少し過ぎたぐらいだ。

雨は一向に止む気配を見せず、次第に雷を呼び豪雨となった。


空が光って、数秒の静寂の後に来る、雷の豪勢が妙に心を落ち着かせた。

こうして、一人でいると一層心が落ち着く。

誰もいない。それだけで、世界から離れた気分になる。


深い闇に哀しみが飲み込まれていく。まさにここは地獄で、血の海なんだろうな。

黒い毛の猫が、草陰にいる。隠れているつもりなのか?俺に丸見えだ。

猫は嫌いじゃない。むしろ、大好きと言ってもいい。

闇に映える姿が素晴らしく格好良い。だが、あのままだと雨に濡れまくりだ。

せめて、この中に入ってくればいいのに。

まぁ、俺がいるから入らないんだろうな・・・。

そう思い、俺は濡れるのを覚悟で、雨の中を走り出した。

行き先なんて、決まっていない。ただ、ドラマのように雨の中を走った。


全身隈なく濡れた。さすがに、雷に当たるなんて事はなかった。

でもこれからの事を考えると、俺はいっそ死んでしまった方が楽なのかもしれない。

いや、やっぱり死ぬのは怖いな。感電死なんて、ろくな死に方じゃない。


不意に目に止まったマンションで、雨宿りをする事にした。


丁寧にセットした髪型も、雨の前ではぺちゃんこになった。

手で適当に解かしてみるが、このワックスと雨のガンジがらめはきついな。

エレベーターの前にある鏡で、自分の姿を見てみるが、見れば見るほど、悲惨な姿だ。

監視カメラが無いかを確認して、俺は適当に腰を下ろした。

郵便受けに、乱暴に放り込まれたままの新聞や広告を見る限り、真面目な奴は住んでない。

デリヘルの紹介と、未払いの請求書。何もかも、この荒れた世の中を映し出していた。

2年以上、誰からも連絡の来ない携帯を開く。もちろん、着信もメールも1件もなかった。

ただ、時間と日にちを映し出した画面を見つめ、少し期待してから携帯を閉じた。


ポケットを探る。中坊にしては、中々高かった4万のGパン。

ポケットの奥にあったのは、500円のはした金だけだった。

中途半端に水分を帯びた硬貨を、自販機に通す。

全てのボタンに光が灯り、熱いカフェオレを買う。

雨に冷えた体、リズムの取れないメトロノームのように、小刻みに揺れた。

暖かい缶を頬に当て、体を温めた。


もう、10日になる。1日目は、5万もあったのに、今じゃ380円しか残ってない。


逃げ続ける日々にそろそろ疲れてきた。

無断欠席を続ける学校も、そろそろ家に来るんじゃないかと思う。

いや、真面目か不良かと言えば、不良になってしまう俺の事だ。

どうせ、心配も糞もないだろう。


再び、時計を確認する。時刻は4時を向かえている。それなのに、朝って感じもしない。

空は暗いままで、雨を延々と降らし続けた。

そろそろ外に出る事にした。出来るだけ濡れないように、建物に入りつつ進んだ。


俺を包む光は、次第に途切れ完全に闇に染まった。


あの日を思い出す度、体が疼くのが分かる。

自分を信じて、それ実行した。後悔は無いと言えば、嘘になる。

服にへばり着いた血が、それを物語る。


殺したのは、中学の同級生だ。

格好良く言えば、復讐を果たした。格好悪く言えば、未練がましい。

仕返しなんて、良くも悪くもある。

でも、確かな事は一つだけ、殺したそいつは、俺をいじめていた司令塔だった事。

殺す気はなかったが、口論の中で俺はナイフを取り、そいつを刺してしまった。

だからもう俺は犯罪者で、警察に追われている。俺は逃げ続けている。


迷い込んだ街は、俺に厳しかった。

そして、俺は光の届かない裏の世界にまで、来てしまった。


もう戻れない。俺は、ここで死ぬ。


良い事ってなんなんだろうな?

悪い事ってなんなんだろうな?


俺には分からない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ