Blood Rain
雨が降ると、たまらなく外に出たくなる。
雲に覆われた世界に涙が降ってるように、俺の心にはいつも雨が降っていた。
独特の陰気臭さ、辺り纏う湿気も、俺の心は洗い流す雨がある。
今日もまた、俺は外にいた。暗い雨の中を一人、孤独を抱きながら・・・。
好きなのは好きだ。でも、濡れるのは勘弁してほしい。
雨に濡れた後の臭いは、どうも好きになれない。嫌いじゃないのに、これは嫌いだ。
まず第一に、煙草すらまともに吸えない。
水分とは、恐ろしいもので、この世に2番目に大切なこの一時は、変えられない時間だ。
屋根のある場所で、煙草に火を付ける。
焼けた草の臭いが辺りに浸透し、やがて煙と共に雨に流され消えていく。
時間を確認すると、今は午前2時を少し過ぎたぐらいだ。
雨は一向に止む気配を見せず、次第に雷を呼び豪雨となった。
空が光って、数秒の静寂の後に来る、雷の豪勢が妙に心を落ち着かせた。
こうして、一人でいると一層心が落ち着く。
誰もいない。それだけで、世界から離れた気分になる。
深い闇に哀しみが飲み込まれていく。まさにここは地獄で、血の海なんだろうな。
黒い毛の猫が、草陰にいる。隠れているつもりなのか?俺に丸見えだ。
猫は嫌いじゃない。むしろ、大好きと言ってもいい。
闇に映える姿が素晴らしく格好良い。だが、あのままだと雨に濡れまくりだ。
せめて、この中に入ってくればいいのに。
まぁ、俺がいるから入らないんだろうな・・・。
そう思い、俺は濡れるのを覚悟で、雨の中を走り出した。
行き先なんて、決まっていない。ただ、ドラマのように雨の中を走った。
全身隈なく濡れた。さすがに、雷に当たるなんて事はなかった。
でもこれからの事を考えると、俺はいっそ死んでしまった方が楽なのかもしれない。
いや、やっぱり死ぬのは怖いな。感電死なんて、ろくな死に方じゃない。
不意に目に止まったマンションで、雨宿りをする事にした。
丁寧にセットした髪型も、雨の前ではぺちゃんこになった。
手で適当に解かしてみるが、このワックスと雨のガンジがらめはきついな。
エレベーターの前にある鏡で、自分の姿を見てみるが、見れば見るほど、悲惨な姿だ。
監視カメラが無いかを確認して、俺は適当に腰を下ろした。
郵便受けに、乱暴に放り込まれたままの新聞や広告を見る限り、真面目な奴は住んでない。
デリヘルの紹介と、未払いの請求書。何もかも、この荒れた世の中を映し出していた。
2年以上、誰からも連絡の来ない携帯を開く。もちろん、着信もメールも1件もなかった。
ただ、時間と日にちを映し出した画面を見つめ、少し期待してから携帯を閉じた。
ポケットを探る。中坊にしては、中々高かった4万のGパン。
ポケットの奥にあったのは、500円のはした金だけだった。
中途半端に水分を帯びた硬貨を、自販機に通す。
全てのボタンに光が灯り、熱いカフェオレを買う。
雨に冷えた体、リズムの取れないメトロノームのように、小刻みに揺れた。
暖かい缶を頬に当て、体を温めた。
もう、10日になる。1日目は、5万もあったのに、今じゃ380円しか残ってない。
逃げ続ける日々にそろそろ疲れてきた。
無断欠席を続ける学校も、そろそろ家に来るんじゃないかと思う。
いや、真面目か不良かと言えば、不良になってしまう俺の事だ。
どうせ、心配も糞もないだろう。
再び、時計を確認する。時刻は4時を向かえている。それなのに、朝って感じもしない。
空は暗いままで、雨を延々と降らし続けた。
そろそろ外に出る事にした。出来るだけ濡れないように、建物に入りつつ進んだ。
俺を包む光は、次第に途切れ完全に闇に染まった。
あの日を思い出す度、体が疼くのが分かる。
自分を信じて、それ実行した。後悔は無いと言えば、嘘になる。
服にへばり着いた血が、それを物語る。
殺したのは、中学の同級生だ。
格好良く言えば、復讐を果たした。格好悪く言えば、未練がましい。
仕返しなんて、良くも悪くもある。
でも、確かな事は一つだけ、殺したそいつは、俺をいじめていた司令塔だった事。
殺す気はなかったが、口論の中で俺はナイフを取り、そいつを刺してしまった。
だからもう俺は犯罪者で、警察に追われている。俺は逃げ続けている。
迷い込んだ街は、俺に厳しかった。
そして、俺は光の届かない裏の世界にまで、来てしまった。
もう戻れない。俺は、ここで死ぬ。
良い事ってなんなんだろうな?
悪い事ってなんなんだろうな?
俺には分からない。