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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第九話 宇宙への呼び掛け

 戦闘開始から2時間程たつが、余り状況は良くない。最初の一撃が余り通らなかった上、本気にさせてしまったようで、魔法の射程範囲内まで近づく事すらできずに居た。ただ、此方に気付かせたので、どうにか結界の中心部まで引き摺って来れた。


 残り魔力は3分の2程。少し心もとなく、剣の炎もまだ消えていないのでこれで攻撃するしかない。覚悟を決めると、ボードの上で姿勢を低くし、急加速した。流れる視界の中、ボードを回転させ、ベヒモスの肩口を切り裂いていく。


 再度、バオオオオと汽笛の様な咆哮。ビリビリと空気ごと周りの建物が振動する。無論ボードも例外ではなく、一瞬バランスを崩すが、すぐに立て直す。


 にしても、どうするか。俺は攻撃を避けて関節を執拗に攻撃しつつ、考えをめぐらせる。正直いって、ベヒモスなんて大物と戦う予定はなかった。精々、七十二柱の幻影か、ベヒモス級悪魔の化身だと思っていた。こんな事なら爺共からガトリングガンでも貰っておくんだったな。とはいっても、円卓は一週間後だが。


 左から飛んできた拳を急上昇して回避、掴もうとしたベヒモスの右手を熱線砲で牽制し、急行下して天地を逆転したままベヒモスの左手の手首を切り裂く。再度響き渡る怒号の様な声。


「あそぉれッ!」


 そんな事は気にせず、掛け声と共に爆弾を投げつける。使うことは無いだろうと思っていた特製プラスチック爆弾(C4)だ。傷口付近にくっついたのを確認して即座にスイッチオン。瞬間、爆発するベヒモスの左肩。ベヒモスが大きい為小さく見えるが、実際は半径3mほど爆発している。


 本来の威力を大きく超えたソレは、爺共、つまり魔法使い連盟のメンバーが細工をした特製爆弾だ。過保護ともいえる若手に対しての保護の為、三十歳以下は一人三つは所有させられ、戦闘の際は使用を解禁されている物だ。


 大きく悲鳴を上げるベヒモス。見れば、傷口が抉れたように真っ赤な肉がしたから覗いている。それなりのダメージは与えられたらしい。流石、知識だけはある爺共の爆弾である。


 っと。怒りに任せて、ベヒモスが突進してきた。上空に飛んで避けると、下に居るベヒモスを睥睨した。良く見れば、じわじわと抉れた傷口が回復して行っている。馬鹿みたいな生命力してやがるな。狙いは致命傷しかないか。こっちは一撃当ったら致命傷だってのに、あっちはでたらめに攻撃しても意味が無いと来るんだから、理不尽だな


 再度関節を切りにいく。今度は、右膝。振り下ろされた拳を翻弄するように右に左に回避して、股下を潜り抜けるついでの様に膝を切り裂いて行く。そして、背後に出た。


 ――瞬間、横殴りの衝撃。壁に叩きつけられ、そのままビルを貫通し、もう一つ奥の壁を粉砕して止まった。


 なんだ? 何が起きた? 如何にかして痛む体を起こし前を振り向けば、濃い灰色の――尻尾かよ! そうだよな、象って尻尾あるもんな。まさか自由に動かせるとは思わなかった!


 振り上げられていく足。やばい! 慌てて立ち上がるとビルを駆け抜けて外へ。出た瞬間、後ろのビルが倒壊して瓦礫が俺の背中を打った。その衝撃で前に投げ出され、思いっきり転がって建物に打ち付けられた。そして、俺の指に付いていた銀色の光が砕け散る。


「ゆび…わ……」


 思わず口に出したそれは致命傷を避けるために用意された、災い除けの力が特に強い銀を使った魔法の道具、命守(みこともり)の指輪だった。つまり、尻尾の一撃と瓦礫だけで、今俺が一人死ぬだけのダメージがあったという事だ。


 剣を支えにしてヨロヨロと立ち上がると、再度ベヒモスの方を向いた。ビルを2、3件踏み潰しながら、此方に向かってきている。結構ぶっ飛ばされたらしい。ボードを再度呼び寄せようとしたが、たった今の尻尾による打撃でへし折れたらしく、良く見ると瓦礫の中に黒光りするソレ(ボード)が混じっているのが見えた。


 剣を腰だめに構えるが、正直に言ってベヒモスにへっぽこ剣術が通用する気がしない。今までダメージを僅かでも与えられていたのは、剣に炎と強化を施した上で、ボードによる回転で剣速を強引に上げていたからだ。近接戦闘に特化した魔法使いでも無い限り、ベヒモスの表皮にダメージを与える事は不可だ。


 魔法で攻撃しようにも、牽制用の熱線砲で残りは4分の1程度しか残っていない。そもそもアレは連射するような物ではないし、アレ以外で連射できて尚且つ相手に脅威と思わせる火力は持っていなかったので仕方なく使っていただけだからだ。


 しかし、油断したな。戦闘中に考え事をしてぶっ飛ばされるとは。掠りでもしたら致命傷だと分っている癖にな。頭を振って、もう一度ベヒモスを仰ぎ見た。巨大な化け物を見ていると、自分が酷くちっぽけに見えてくる。


「……ハッ」


 自嘲の笑いを漏らす。そんな事、何度でもあった。諦めの言葉はまだ早い。おもむろに、片手で剣を持つと、そのまま投げ捨てた。呼び寄せでそこに存在していたに過ぎない剣は地面に落下する前に光の粒になって虚空へ消えた。


 戦いを放棄するわけではない。むしろ、本気を出す為の行為だ。それを察したのか、エルシェイランが俺の肩先にふわりと現れた。


「あぁ。久々だが、やれるか?」


 勿論だ、と。そう答えるように、俺の頭を帯の様になってぐるりと一回転した後、その炎を強くした。そして、俺は綾取りで印を結び始める。それは、今まで使ってきた星や銀河の印とは別格の、というより、もっと正確に魔法的な意味を込めた、五芒星を中心に円を結んだ魔法陣だ。


(ヴェル)それは我が先を示すヘルエンレヴィ・フォウアルカ指先の灯火(エルシェイラン)


 エルシェイランが、俺の鼓動に合わせて光を強くしていく。耳を澄ませば、俺の鼓動が聞こえて来そうな程、エルシェイランは何時に無く生命力に溢れている。俺は目を閉じて、唄う様に詠唱を続けた。


我が希望にして(ヘルカルーテス)親愛なる者よ(ウェスガン・アイレ)


 風のうねりを感じる。俺の髪の毛がほんの少しだけ浮き上がる。魔力が練り上げられていく。それは、俺とエルシェイランしかできない秘技だった。


今一つとなりて(ジェンコーレン)共に歩もうか(ベテモーヴァルテン)。」


 語りかけるだけだ。唯それだけだというのに、それは儀式足りえる。長年共に歩んできたからこそできる、裏技の様なものだったが、それは俺にとって、唯一他とは違う力。


「エルシェイラン」


"宇宙(かなた)への呼びかけ"。高次元生命体、上位者たる精霊をこの世界に受肉させる。天変地異を起こしえる、果てしない秘奥(ひおう)の力。


 突然、音も無く風が止む。


 目を開けば、俺を取り囲む炎。いや、エルシェイランその物。強く拳を握り締めれば、呼応するように強く燃え上がる炎。


 エルシェイラン、精霊と同化する。それは、魔法の頂点にも似ていた。

この魔法の名前、気付く人は何処からお借りして来たか気付くかも知れません。

ちなみに、名前が同じだっただけで全く共通点はありません。


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