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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第八話 ベヒモス

後書きの方に豆知識ありです。豆知識いれて三千字程。

よろしければ、豆知識があったほうがいいか、

ないほうがいいかの意見をいただければと思います。

 仮面を見ると何時も胸が苦しくなる。人の、婆様の死を思い出すから。この仮面は、魔法使いだった婆様から受けついたものだ。形見、といっていいのかもしれない。婆ちゃんさえいなければ毎晩毎晩こうして戦いに出ることも無かったのだろうが、それが良い事なのか悪い事なのか、今はもう分らない。


 ただ、仮面をつけると気分が落ち着く。よく素に戻るが、それでも仮面のお陰で頻度は少ない気がする。二重人格のスイッチの様なものだ。魔法のローブ代わりのパーカーのお陰でつける必要は無いのだが、それでも顔が隠れていないと不安なのもある。


 ブローチを手の中で転がす。これだけが悪魔で何かしようとしている女の居場所を示している。魔力の乱れを感知するよりよっぽど簡単だ。本体の体に戻ろうとする魔力の残滓が色濃く残って線の様に見ることができるから。魔力を見ると、それは東京の中心へと向かっている。


 東京都内でなにをしようと言うのだろうか。考えられるのは3つ4つだが、有力なのは――


 ――生贄。もしくは、生贄を必要とする儀式。


 ブローチを眺める。女の横に、やたらとハンサムな男が笑って写っている。こんな物を後生大事に持っているような女で、この男が生きているようなら、こんな事はしないんじゃないだろうか。


 ブローチを握り締めて、溜め息を吐く。さっさと行かないとな。




 深夜十一時頃。女の居るビル屋上へと足を向けた俺は、人払いの結界を張ってから女と相対した。女は、いたって冷静に見える。見えるが、その手に持った宝石には相当な魔力が込められているのが感じられた。


「『関係のない貴方に言うのも変かもしれないけど、私の夫はね。事故で死んだの』」


 女は唐突に、そんな事を話し始めた。随分ゆったりとした姿勢だ。だが、何をしてくるか分らない。一体のその宝石で何を呼び出す気だ? 


「『悲しんでいた時、あの方が私に教えてくれた』」

「……何をだ」


 話をあわせてみる。それに、印も結んだままだが詠唱はしない。あの方と言うのがだれなのか聞けるかも知れなかった。


「『蘇り…黄泉帰りと言った方が正しいのか。そんな物を教えてくれた』」


 無言のまま先を促す。生贄が必要な儀式に違いはないのか。やはり容認するわけには行かなさそうだ。


「『八万の生贄と引き換えに、彼の魂を呼び戻すと。約束してくれたわ』」

「そんな物は存在しない。蘇りなどどれだけ高位の、それこそ概念妖精でも不可能だ。それに、体をどうする気だ。魂だけが戻っても、居所が無ければ今度こそ消えるだけだぞ」


「『既に彼の遺体は肉を戻してある。後は犠牲だけ』」


 女はうっとりとした顔になって続けた。


「『あぁ、待ち遠しい。彼が戻ってきてくれる。あぁ、何て嬉しい事だろう!』」


 そう言いながら、女は宝石を掲げた。すると、宝石が輝き始める。真っ赤に燃えるような赤色のそれは、俺が詠唱を終えるより早く、強い魔力を爆発させるようにして内に秘めたそれを開放した。


「何…ッ!?」


 光が収まり、屋上に降り立ち、そして踏み抜いたその化け物は、一見すると象の様に見えた。だが、30mは優に越した上で二足で歩き出す象など居ない。それに、象の牙はああも鋼色に輝いてなど居ないだろう。アレは、貪欲や暴食にも喩えられる怪物。


 ――ベヒモス。またの名を、バハムートと言う怪物だ。


 海の大怪物レヴィアタンや空の怪獣ジズと同じ様に扱われる陸の王者。ゲームや小説などで竜などの様に扱われることもしばしばある、周知率の高い化け物だ。本来は悪魔ではないが、旧約聖書の悪魔との表記から、悪魔として扱われるようになった者の一体だ。


 なんて言っている場合じゃない! そんな巨体がのったせいでビルが崩れ始めている! 俺はすぐさま近くの柵を跳び越して地面へと降りた。


 ベヒモスの声が、ガラガラと崩れ去ったビルの跡地から轟く。


 凄まじく低くなった汽笛の音のような、いや、巨大な法螺貝が近いか。そんなような、ブオオオオオ、と言う音があたりにこだました。


 人払いをやっておいて正解だったな。ただ、これに一人で挑まねばならんのか。


「……あんた、後悔するぜ」

「『えぇ、良いわ。後悔させてみなさい』」


 絶対後悔させてやる。俺は剣とボードを呼び出した。






「ぜぇ、ぜぇ、ふう。クッソかてえこの糞豚」


 剣をだらりと垂れさせ、息を吐く。この豚、じゃない象、滅茶苦茶皮膚が硬い。剣を先程から数十回は打ち付けているのだが、逆に此方の刃が毀れてきてしまった。何つー硬さだ。実質、時速にして280km程度の速度で回転しながら叩きつけているのに、傷一つつかないなんて。


 というか、こいつ俺を見てない。気にも止めずにもしゃもしゃと……嘘だろ、こいつコンクリート食ってやがる。


「ちったぁ、こっち、向けや!」


 全力で剣を叩き付けるが、全然効いてない。鉄筋食い始めやがった。


「……火よ(ヴェル)けして燃え尽きぬ(レン・アヴァドレン)火よ(ヴェル)


 俺は詠唱を初め、銀河の綾取り印を剣の腹に押し付けるようにしながら、更に詠唱を続けた。


今器に宿りて(ジェン・フーラン)我が力と成せ(ヘル・ウェイスレム)。エルシェイラン」


 押し付けたところから噴出すように、剣が炎を纏う。煌々と燃えるこれは、俺の魔力を相当消費する。ただ、出し惜しみしてるとこのまま人払いの結界の外、通常の東京区内まで侵入してきそうだ。


 先程の要領で、思いっきり回転し始める。高速回転する独楽の様になりながら目を閉じ、制御をエルシェイランに任せ、思いっきり剣を叩き付ける。体感で、時速300kmは言ってたんじゃないかと思う。


 高速で回転した剣は酸素を凄まじい勢いで吸収し、高熱の余り白熱した状態で叩きつけられた剣は、象の皮膚に切れ込みを入れ、そのままの勢いで回転が止まるまで切り裂き続けた。……ベヒモスの肌は熱に弱いのか? 剣が砕けるのも覚悟してぶん殴ったんだが。


 ベヒモスにも少しは痛みが伝わったのか、滅茶苦茶に腕を振り回し始めた。その間をすり抜けて、ベヒモスの正面に出た。像顔を拝みながら、剣を片手でもって、左手で中指を立てた。


 意味が理解できたのか、できていないのか。ベヒモスはその腕を全力で振り回し始めた。ゆっくりに見える動作は、その実俺の18倍ぐらいの速度は出ているのだから驚きだ。ボードを細かく動かし、腕をすり抜けるように飛び、背後を取った。さて、まともな戦闘の開始だ。

悪魔豆知識


ベヒモス …

 意味は、ヘブライ語で動物を意味する言葉の複数形。またの名をべヒーモス、ベヘモト、バハムートといい、作中でも言われているようにリヴァイアサンにジズという怪獣と一緒くたにされる。

 三体で一そろいとされ、旧約聖書では貪欲暴食の悪魔とされているが、別の説では豊穣のシンボルでもある。姿はゾウやカバ、サイなどが元で、決して竜などではない。


 悪魔としての姿では人身象頭、つまり体は人間で頭は象という姿をしており、『ヨブ記』によれば、ベヒモスは杉のような尾と銅管や鉄の棒のような骨、巨大な腹を持った草食の獣で、日に千の山に生える草を食べるほどの食欲を持つとされる。 


以下、一部を「ベヒモス」のWikipediaから引用。

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