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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第七話 絵みたいな空

時々三千字になりますね…。綺麗にまとめたいものです。

今回は三千字です

 目が覚めると、静かな自分の部屋の天井が目に入った。ムクリ、と起き上がった。今、何時だ。時計に振り向けば、午前六時半。目覚ましを設定していたのは七時。早めに起きたらしい。どうせなら、ぐっすり眠って居たかったのだが。目覚まし時計の前に置いてあった仮面を見て、即座に起き上がってクローゼットの隠し戸に叩き込んだ。


 クソみたいな仮面を見てしまったせいで、二度寝する気分ではなくなってしまった。仕方なく、ベッドから遠ざかった。窓から差し込む日差しが眩しい。カーテンを閉めると、階段を降りて行った。いつも通り、誰も居ない。静かだ。


 一階に下りると、チチチと鳥の鳴く声が聞こえた。机には何も置いていない。冷蔵庫を覗いて見たが、特に何もなかった。どうやら、買って置く余裕もなかったらしい。腹がへった。ただ、買うような金もない。どうしようもなく、椅子に座りこんだ。仕方ない、朝飯を抜いて学校に向かおう。そう考えて鞄に今日の分の教材を詰め込むと、水を飲んで空腹を紛らわした。




 その後一時間ほど空腹に耐え、学校に向かった。何時ものように教室は賑わっている。誰にも気付かれないようにそっと、教室の後ろの方を歩いて、自分の席に座った。しかし、その苦労は徒労に終わる。横から話しかけてくるクラスのマドンナ(アホ)のせいで。


「おはようございます、銀二君。今日はいつも通りなんですね」


 首を傾げるその仕草にはついつい和むが、いい加減後ろで見ている男達の怨嗟に塗れた視線に気付いてほしい。このままでは、何時か俺の首を刎ねに来ることだろう。恐ろしい。怜奈の言葉に、おれはそうだな、と返事をした。


「それで、勉強はしました?」

「……全然。時間がなかった」


 事実だが、怜奈は俺をふくれっつらになって睨んだ。そして男衆が今にも俺を射殺さんという視線で睨んだ。ヤバイ、ヤバイって。そんな事は露知らず、怜奈は俺をやっぱり、と言うような視線で見詰めていた。


「嘘。家に帰ったとき、6時ぐらいでしたよ? 10時に寝るとしても4時間はあったじゃないですか。何してたんですか? ゲーム?」


 無駄に賢くて腹がたつな。後ろの視線には気がつかない癖に。俺は顔を背けて視線を無視した。そして、怜奈の言葉に当たり障りの無い様に答えようとして、一瞬の間をおいた。


「ゲームなんか持ってねえよ。ただ……その、疲れてただけだ」


 ふうん、と怜奈が信じてなさそうに返した。クソ、信じて無いな? 凄い棒読みだ。俺は痛い程の視線を集めている。そこで、始業のチャイムが鳴った。怜奈はこっちを睨みつけたまま俺の席を去っていった。……後で、どうにか誤魔化しておかないとな。


 朝のホームルームが始まったが、昨日の悪魔との戦闘で負った傷がじくじくと痛んであまり話しが耳に入って来なかった。戦闘が長引いてしまい、処置している時間がなかった。その為、痛み止めの魔法を掛けて包帯を巻いて来たのだが、どうもちゃんと掛けられてなかったらしい。今になって痛み始めた。


「おい、銀二。聞いてるか」

「へっ? あ、あぁ。聞いてた、うん」


 聞いてなかったみたいだな、と教師は言う。まぁ、そりゃ聞いてなかったが。唐突にズキッと痛んだ右腕を軽く抑えた。どうせ今日も、右から左に流れて行くような話だけだ。いや、全て俺のおつむが悪いせいなんだが。




「ねぇ」


 昼休み。唐突に掛けられた声に驚いた。と言うのも、聞きなれない声だったからだ。静かな、だけど存在を主張するような声。人が俺に話しかけてくるのは稀だ。何故なら、俺は闇の非純魔力を撒き散らしているから。要するに、俺は怜奈の様な特殊な人間以外には、どんな生物からも俺は要注意対象だから。


 そんな訳で、吃驚しながら俺がそちらを向くと、眼鏡を掛けた女子生徒がこっちを向いて立っていた。たしか……保健委員の。


「前川」


 そうそう、前川前川…じゃねえ、ナチュラルに思考を読むなよ。


「……それで、前川さんが俺に何の用だ」


 前川は眼鏡を指で軽く押し上げてから、俺の右腕を指差した。それも、怪我をしている部分だ。そして、前川が言う


「授業中押さえていた。怪我でもしているのか」


 余り抑揚のない声で前川はそういった。できるだけさり気なくやっていたつもりだったが、上手くできていなかったらしい。少しだけ冷や汗が垂れた。チラリと自分の右腕を見る。まだジクジクと痛んでいる。あの悪魔の爪に毒などは見受けられなかったから、単純に切れ味が悪かっただけだろう。そう考えていたが、改めて確認した方がいいかもしれない。


「まぁ……ちょっとな」

「後で手当てしておいた方が良い」


 余計なお世話だ、と返すと、「やせ我慢で倒れないように」といわれた。本当に余計なお世話だ。話しはそれで終わりだと思ったが、前川は違ったらしく、続けて俺に話しかけた。


「昨夜の謎の光。貴方はどう思うか」


 昨夜の謎の光と言うと……あぁ。俺がぶっ放したエルシェイラン(熱線砲)か。そりゃ話題にもなるか。ニュースキャスターも来てたし。でも、何だってそれを俺に聞きにきたんだ?


「何でそれを俺に聞く?」

「何時も話していない貴方の意見を聞きたくなった」


 物好きな。ただ、まぁ邪険にするような事でもないか。真相を教えなければいい話しだしな。


「さて、な。UFOでも飛来したんじゃないか?」


 言ってる途中で白々しいな、と思って少し笑った。クツクツと少し不気味な笑いがこみ上げてきて、前川が少し引いているのが視界の端で写っていた。


「……なぜそう思った?」

「なぜ、って……何となくかな」


 そう。俺の言葉に対してそれだけ返すと、前川は去って行った……なんだったんだ。あ、今の内にちょっとでも勉強していかないと。……ただ、教材を前にすると急に睡魔が襲い来るのをどうにかしないとな。




 今日の最後のチャイムが鳴り、一般生徒が鞄を持って帰り始める頃。俺も同じように帰ろうとしているのだが、後ろから怜奈が近付いてきている。振り向く事はせず、鞄に荷物を積み込み続けた。


「銀二君」


 聞いてないふりをして、もくもくと荷物を入れ続ける。怜奈の自称善良なファン共がこちらを見ていた。下手に言葉を返すと、手を出してくる可能性があった。それは避けたい。痛いのが嫌なのも一つだが、何より時間の無駄だ。


「今日、家で勉強会やるんですが、銀二君もきませんか? 他にも何人か来ますしお菓子とかも出」

「やめとく。向こうの――」


 俺は怜奈の言葉を食い気味に遮って、そこで言葉をきり、後ろで見ている面々に人差し指を向けて言った


「生徒会のお上品な奴らでも呼んでやれ。多分喜ぶさ」


 それだけ言って去ろうとする俺の手首を、怜奈が掴んで引きとめた。俺はゆっくりと振り返った。


「もう呼んであります。それより、貴方も勉強しないと」

「だったら尚更行けないな」


 時間がない。しかも、勉強なんていう無駄な事に時間を費やすわけには行かない。いや、勉強その物が無駄だといっている訳じゃない。俺にとっては無駄と言うだけだ。就職に役立つとは言っても、俺は高校生活が終わったら正式に魔法使い連盟に所属する事になる。就職など、精々隠れ蓑のダミー会社に所属する程度。必要ないのだ。


 怜奈には悪いが、此処は素早く撤退させてもらおう。自分の手首を捻ってするりと怜奈の繊細な指から抜け出すと、そのままの勢いで走り出した。後ろは振り返らなかった。


 空をチラリと目だけで一瞥する。上って来た月は、青い空に移っていて薄くなっていて、絵のように見えた。絵みたいな空か。最近忙しくて見て無いな。

あ、そうそう。一章は後三話、過去話もいれて四話ですが。

二章から一部のあらすじ詐欺があります(ぉぃ)


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