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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第六話 戻る時間だ

 空気が張り詰めている。風が渦を巻き、それがこっちに来るたびにエルシェイランが勝手に炎を打ち出して相殺している。俺も悪魔も、両者(空中だが)一歩も動かない。風を司るか。フォカロル辺りの眷属か?


 このままでは埒が開かない。俺は打って出る事にした。印を結ぶ。ほうき星、上位の魔法に使うことにした印だ。呼び出し(アポート)の魔法だが呼び出すのは俺の主武装。長い剣は酷く中世的だが、刀なんて扱えっこないし、速度を持って叩き切るなら此方のほうが断然いい。


 片手で結んだ印から出てくるのは、クレイモア。対人地雷ではなく、大剣の方だ。長い刀身に、刀身側に傾いた鍔。両手持ちの為にやや長い柄。出きったと同時に片手で掴み、綾取りを取り外してポケットに突っ込んだ。


「エラク古イ代物ヲ持ッテ来タナ」

「何、お前を倒すぐらい骨董品で充分さ」


 おっと、つい口が滑った。だが、特に揚げ足を取るようなことも無ければ、激高する事もない。流石に、いい加減落ち着いたか。片手でぶら下げていたクレイモアを、改めて両手に持って水平に構えた。


 悪魔も長い爪を持つ腕を大きく広げた。お互いに、魔力は無限ではない。一日に使える量にはおおよその限りがある。故に、魔法使いは肉弾戦にも耐えうる鍛え方をするのが一般的だ。後ろからの支援に特化した魔法使いは、一概にそうともいえないが。


 俺と同時に、悪魔も前へ飛び出す。お互いに、思いっきり振りかぶった姿勢だ。すれ違い様、俺はクレイモアを振――らず、水平に構えたままボードを思いっきり回転させて叩き付ける。爪と交差して、甲高い音を出した。


 そのままお互いをすり抜けるようにして反対側に飛び、反転する。俺も悪魔も、位置が反転した状態でまた向き直っていた。ちょっと頬が切れたな。首狙いできてたのか。


 再度突進し、また剣と爪が交差する。今度は、足が軽く裂けた。思わず声をもらすが、奴の腕も傷ついている。流石に、こればっかりは経験の差だ。アイツは見た所、生まれて、いや上位の悪魔へと変化してまだ一戦もしていないと見える。俺は、上位下位含めて少なくとも万は屠ってきた。その経験が、俺の中で息づいているんだから。


「あああぁぁぁぁ――らっせぃオラァッ!」


 もう一度、交差。ボードがぐるぐると回転して、俺ごと剣を爪に叩き付ける。爪で逸らされた剣は悪魔の腹を切り裂いて通過する。その代わりに、爪は俺の腕を軽く切り裂いた。


 空中でその後何度か交差すると、このままではいけないと察したのか、悪魔が自分の前で掌を合わせた。掌が離れていくと、濃縮された風の渦が暴れているのが見えた。アレは、切り札って所か。鎌鼬を圧縮するのは意味があるのかとおもうが、風があれだけ圧縮されていたら充分驚異的だ。


 俺も印を結ぶ。星より、ほうき星よりも複雑な綾取り。幾重に重なり合ったその図形。銀河の印を結んでいく。


火よ(ヴェル)唯々燃え盛る火よ(ヴェルデルサ・ヴェル)今線と(エンヴェイ・エキル)化して(エル)我が力と成せ(ヘル・ウェイスレム)。エルシェイラン」


 魔力が、俺の掌の印に集まっていく。悪魔が両掌を此方に向けた瞬間、それは放たれる。魔法で擬似的に再現した熱線砲(ブラスター)は、オレンジ色の太い線となって放たれ、悪魔がはなった空気の塊とぶつかり、一瞬で相殺どころか貫通し、悪魔のどてっ腹に大穴をぶち開けていった。


 しかし熱線砲、いや精霊熱線砲(エルシェイラン)はそれだけでは飽き足らなかったらしく、すっかり夜の帳の降りた空を真一文字に切り裂いていく。真っ黒な絨毯の様な空を切り裂いていったそれは、煌々と輝いていた事だろう。直視したら目が死にかける。空を見ていた人が居た時はご冥福を祈ろう。


 悪魔は暫く自分の腹に開いた穴を呆れた様に見てから、必死で手足をばたばたとさせていた。が、少しして無駄だと悟ったのか、ゆっくりと落下を始めながら口だけでこっちに語りかけた。


憶えていろよ


 そう口を動かした悪魔は、地面に落ちきる前に塵に変わって消えていった。……あぁ。昨日の夕飯程度には憶えておこう。


 ボードを動かして、また屋上に戻った。戦いに集中してしまったが、肝心の女の姿は何処にも見えなかった。ええい、面倒だ。とはいっても、悪魔は放置できなかった。奴らはやるといったらやる。放っておいて街に被害がでるのは避けるべき事であるし、そもそも奴が人を惨殺すれば悪魔の、引いては魔法の事が露見しかねない。


 故、悪魔を無視はできないのだ。仕方のないことだった。QED。いや、アホをやるな俺。緊張していたのが弛緩して、少しだけ元の、銀二が出てきてしまっていた。ボードを元の倉庫に送り返しつつ、また上谷銀二の感情を押し込める。

 

 よし。溜め息を吐きつつ屋上を見回すと、何かキラリと光る物が視界の端に写った。気になり、あくまで警戒しつつ(悪魔の"落し物"の場合、とても危険)、俺はそれに近付いた。


 ――ブローチ、だろうか?紅い宝石、大粒のルビーらしき物がはまったブローチだ。土台は金色で、相当に値が貼っているのだろうと容易に判断できる。しゃがみ込んで、手にとってよく見てみた。宝石の奥には先程のロシアの女と、ハンサムな男が写っている写真がいれられて居た。男のほうは、夫だろうか? 快活に笑う顔がよく似合っている。


 エルシェイランに頼んで魔法での鑑定もやってみたが、魔法的な効果は見つけられなかった。ただし、長くつけていたのか、魔力は強く感じる。唯の装飾品か。つまる所、あの女の物だったというわけだ。魔法使いにとって、位置特定に使うのは長く使われた、もしくは魔力が染込んだこういった装飾品だ。これだけ魔力が篭っていれば追いかけるのはたやすい。


 一応言っておくと、魔力が篭っているからと行って魔法的な効果があるとは限らない。霊的な力を宿した宝石をずっと付け続け、自らの非純魔力を染込ませれば魔法的な効果、主に魔除けや幸運のお守りになどはなるが。


 まぁ、それはおいておくとして。追いかけるのは容易い。容易いが――


 空を見上げると、すっかり暗くなった空に、月が沈みかけているのが見えた。随分時間がたってしまっていた。下を覗いてみれば、先程の熱線砲の光についてか、ニュースキャスターが詰め寄せてきていた。埃の足跡はばれるかもしれないが、それならまぁ不良が遊びに来ていたで済むだろう。


 ただ、俺自身がいたら流石に駄目だろう。速やかに撤退するに限る。俺は再びボードに乗り、自分に隠蔽の魔法を掛けた。火の精霊であるエルシェイランによる魔法なので、サーモグラフィーで確認されればばれるが、まぁ問題はないだろう。


 さて、上谷銀二に戻る時間だ。今回とは逆に、魔法使いの俺(レベスケノン)が通常生活に出てきては事だからな。気を引き締めないと。はぁ、大変だ。


 悪魔豆知識


フォカロル …

ソロモン七十二柱の魔神の一柱。グリフォンの翼を持った男の姿で現れ、風と海を支配し人々を溺死させ、軍艦を転覆させる力を持つとされている。


(ソロモン七十二柱が分らない人は、悪魔の中の四天王的存在と考えてください)

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