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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第五話 ボコボコにしてやる

「女ヨ。願エ。宝石ト血ヲ代価ニ」


 悪魔が、女に語りかけた。俺は印を結んで炎を放とうとするが、紐が絡まってしまった。あぁクソ、こんなときにかよ!


「『えぇ、願うわ。鶏の血とこのルビーを代価に、彼をこの場に足止めしなさい』」


 俺が新しい紐を取り出す前に、悪魔と女が契約を交わしてしまった。悪魔は笑いながら、女の手にあった宝石と鶏を掠め取り、それを大口を開けて飲み込んだ。俺が丁度印を結び終わった辺りで、悪魔は声をあげた。


「契約成立ダ」

「させるかッ! 火よ(ヴェル)炎燃える鞭よ(ヴェス・レルード)!エルシェイラン!」


 女が何処かへ行こうとする前に、俺は魔法を行使する。俺の手の印から、触手の様に一本の炎の鞭が踊り出た。そのまま悪魔ごとなぎ払おうとするが、悪魔がそれを手で遮り、握りつぶした。。女が柵から飛び降りて逃げる。クソ、間に合わなかった!


「男。我、ドモリネペルト戦ウガイイ」

「……」


 畜生。いや、現実を見よう。悪魔、ドモリネペルが俺に語りかけてきている。願いが、俺の足止めだからか。まぁ、搦め手もクソもないような見た目してるもんな。戦うしかないよな。でも、下手に口を聞くと曲解してとんでもない契約を結んでくるのが悪魔。俺は口を聞かずに印を結んだまま悪魔を睨みつけた。


「……フム、ナラバ町デモ破壊シテ来ルカ」


 分ってはいたが、こう来るから悪魔は嫌いだ。ふわりと翼を羽ばたかせて飛んでいこうとする悪魔に向かって、俺はほうき星の印を結んで、詠唱を行った。


火よ(ヴェル)何者にも変え難き火よエブレイ・エンデス・ヴェル今此処に矢弾と化せエンヴェイ・アッシェ・エル。エルシェイラン!」


 ほうき星の綾取りから、円錐型の炎の塊が飛び出した。悪魔は空に浮いたまま、それを打ち落とすように腕をなぎ払った。しかし、これは上位の魔法だ。上位悪魔といえど、簡単に打ち消せはしない。エルシェイランが笑う。打ち消そうとする悪魔は、彼の炎に焼かれて一気に焼け焦げた。悪魔の悲鳴が響く。


「オノレ!オノレェーッ!」


 悪魔はバサリと翼をはためかせて、飛んだ。どうやら、俺の手の届かない、というより魔法の射程外まで逃げてしまったらしい。だが、それだけで俺が足止めできると思うなよ。またほうき星の印を結ぶと、詠唱を行う。


火よ(ヴェル)導きの火よ(ルブリアン・ヴェル)今此処に(アエレイラ)我が刻印を導け(ヘル・アインウォーレ)。エルシェイラン!」


 大きめに取った魔法陣から飛び出すのは、一見場違いなサーフボードだ。しかし、黒塗りのそれの後方部分には、物々しい小型のジェットエンジンの様な物がついている。完全に全体が出ると同時、ボードは一人でに浮き上がった。精霊の刻印を幾つか使った、高性能な、いわば「箒」だ。


 古来より、魔法使いや魔女は、須らく飛行手段を持つ。自らの体を魔法で飛ばすのは危険極まりない為、それは何時も物体に魔法をかけたものだ。箒はその代表例だ。魔女が箒に乗って飛ぶような姿は、想像できるだろう。


 しかし、俺の綾取りで印を結ぶやりかただと、どうしても手で体を固定する必要が在る箒は、あまりにも使い勝手が悪い。


 そこで作り出したのが、この特製サーフボード。姿勢制御と旋回の補助を風の精霊に、ジェットエンジンは火をエルシェイランに任せて飛ぶ事ができる。最初こそ何度も墜落した物だが、今では目をつぶってアクロバットフライトもできる。


 俺は止め具を閉めて宙空へと浮き上がった。悪魔が、此方に驚愕の視線を向けている。飛べるのはお前だけじゃないんだぜ? 俺はニヤリと笑った。そのまま、星の印を結ぶ。


火よ(ヴェル)五月雨の如き火よジェルヴァルレイ・ヴェル。エルシェイラン」


 印から、無数の火の弾丸が乱れ飛ぶ。出てきた火の弾丸手元で弾けるように、全方位に火の弾が散らばる。そして、一拍の時を置いて全てがバラバラの軌道で悪魔に襲い掛かる。一発一発はたいした事は無くとも、十、二十、三十となれば、どうだ。


 悪魔は慌てて空中軌道を行い、十二発被弾した所で難を逃れた。俺はチッと舌打ちを漏らした。悪魔がオノレオノレいいながら俺に向かって飛んでくる。直線軌道で俺に当ると思ったか?


 俺はスケートボードでも動かすように足を動かす。ジェットエンジンが火を噴いて、一気に俺の体が加速する。こっちに飛んできた悪魔を掠めるように飛び、急カーブ。既に印は結んである。それはほうき星の印だ。


火よ(ヴェル)五月雨の如き炎よジュルヴァルレイ・ヴェスッ!エルシェイラン!」


 結ばれた印から、先程の同じく大量の火。しかし、その大きさは先程の比ではない。約、三倍と言ったところだろうか? それが、先程と同じような量飛んでいく。今回は、俺がその内十五発ほどを操作する。(正確には、エルシェイランにリアルタイムで変更してもらう)


 乱れ飛ぶ炎、炎、炎。慌てて逃げるように飛ぶ悪魔と炎を見ていると、戦闘機のドッグファイトでも見ているようだ。そして、無誘導の炎から逃げ切ったと安心したらしい悪魔の背中に、炎三発を叩き込む。


「グオッ?!」


 後ろへ振り向いた悪魔の顔面にもう三発。残りの九発は包囲するように確実に叩き込む。悪魔の体はもう焦げ痕だらけだ。だが、契約の力は強い。俺を足止めしようと、長い爪を振りかぶる。


「あッぶね!」


 天地を逆転するようにボードを回して回避。屋上が頭の上に見える。酔いそうだ。そして、なぎ払うように飛んできた反対の爪を、ボードを盾として防ぐ。ガギィンと、木製にしか見えないボードと爪がぶつかり合ったとは思えない音がなる。えげつねぇ。流石上級と言ったところだが、それでも名前つきの割には弱いな。成り立てか。


 体を傾けて天地を元に戻し、再度向き直った。こいつが意外と弱いお陰で何とかなっているが、これが本来の戦闘経験をつんだ上位悪魔だったら死闘だ。


「……オノレ」


 もはやそれしか言えないようだ。悪魔を中心に風が吹き荒れ始める。危うく吹き飛ばされそうになるが、ジェットを稼動させてその場に踏みとどまる。どうやら、本気を出すらしい。仕切りなおしか。いいぜ、来いよ。逃げられて腹立ってんだ。ボコボコにしてやる。


 印を結び始めた俺と、相対する悪魔。戦いは俺有利の第二回戦が始まろうとしていた

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