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彼方より響く声に  作者: 秋月
一章 実は魔法使いだ。なんていって信じる人は?
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第一話 俺にとって一晩の意味は、普通とちょっと違う

今回から連載を開始したいと思います。

あたたかい目で見てもらえると幸です

 焼け焦げる臭い。倒れる音。また焼け焦げる臭い。また倒れる音。うんざりだ。何度、これを繰り返せばいいのだろう。いつかは終わると分っていても、毎晩毎晩やっているとうんざりしてくる。なにより、ゲシュタルト崩壊が酷い。この下級悪魔共も全部違う顔をしている筈なのに、皆同じマヌケ面をしているように見える。こういうのはゲシュタルト崩壊じゃないのか?。唯単に俺の目がいかれてきているだけかね。そう思いながらまた両手の指で綾取りをして印を結び火炎を放射する。


 その隙に背後に回って飛び掛ってきた犬悪魔を右手を突き出してガードする。魔法で強化された俺のローブは犬の牙が刺さらず、食い破ろうと四苦八苦してる所に炎をつけて焼き殺す。レンガを落そうとしていた小悪魔(インプ)へ噛み付いたまま焼け死んだ犬悪魔を叩きつけて落す。血飛沫が上がる。おっと、ローブが汚れないようにしないとな。


「ええい、お前らいい加減邪魔だわッ!」


 こちとら、明日には学校があるんだ。何が悲しくて金も出ないのに日曜の夜にこんな七面倒くさい事をしなくちゃならんのだ。


 印を平行して二つ結び、大きめのつむじ風と炎を発生させる。俺を台風の目の様にして回るつむじ風が、火炎風の様になってあたりの悪魔を吹き飛ばし焼き焦がす。風をぶち抜いて突っ込んで来た猿悪魔の鼻面にパンチを入れて風の外に叩き戻すと、更に印を結び詠唱。瞬間、つむじ風が吹き飛び辺りに爆音がこだました。


 パチパチ、という燃える音と、いっそう強い、肉が焼ける臭いが漂う。


 暫くして、ようやく静かになる廃ビル内。とはいっても中は悪魔の臓物らしき物やら血やら吐瀉物やらなにやら汚い物で溢れており、一見すれば唯のスプラッター映画の一場面だが。その場合、俺がシリアルキラーになってしまうので其処はおいておく。


 ふぅ、と大きく溜め息を吐いてから、再び指で印を結ぶ。戦闘に必要な物ではないので、ゆっくりと編んでいく。指が自分の物ではないようない気がするような複雑な動きで指と指、紐と紐の間を潜り抜けて、出来上がる一つの模様。魔法陣。


「…火よ(ヴェル)唯々焼き尽くす火よアーテメ・ヒェン・ヴェル。エルシェイラン」


 印からぼとり、としずくがたれるように炎が落ちた。ゆっくりと、地面に付いた血を舐めるように広がっていく炎。その場から一切動かずにじっとしていると、5分ほどで部屋の中は綺麗になった。血は蒸発し、臓物は灰となり風に消えた。埃も一緒に燃えたようで、廃ビルにしては綺麗といえる部屋が残っていた。


 俺の肩に集まった炎がちろちろと俺の頬を撫でた。エルシェイラン。精霊語で指先の灯火の意味を持つ彼(彼女?)は炎の精霊で、俺が始めて契約を交わした精霊だ。雑用から大量破壊まで、いろんなことができる俺の相棒だ。指を伸ばすと、ちろちろと戯れた後、ゆっくりと消えて去った。


 悪魔だの印だの言っていたからわかるかもしれないが、俺は現代に残る数少ない魔法使いだ。上谷銀二。精霊名レベスケノン。意味は、闇にさざめく物。俺は魔法使い達の中でも悪魔や妖怪、その他悪霊なんかを狩ったり追いやったりする、護法士という職に付いている。いやまぁ、魔法使い連盟のうちでは、と言う扱いだが。


 とはいっても、俺の活躍を見る人は居ないし、俺が仕事をしても金は払われない。ボランティアの様なものだ。それは魔法使いの三原則が問題だ。


一つ、魔は秘する物。故に、魔法を使う時は独りであることを常とするべし。

二つ、魔は大いなる物。故に、魔法を使う時は細心の注意を払い、濫りに使うべからず。

三つ、魔は寛大な物。故に、以上の二項目は、生命の危険がある時に破られる事を承知するべし。


この三つ。


 さて、そんなことは置いておくとして、いい加減気を引き締めるか。俺が今日此処に来たのは悪魔の殲滅もそうだが、実際は増えてきた悪魔召還について何かあるのかの調査だ。綺麗になった廃ビルのドアをゆっくりと押し開ける。その先にあったのは、真っ赤な魔法陣。チョークか? そう思い指で魔法陣をなぞる。いや、鶏の血だな。悪魔召喚はこの場で行われたらしい


 悪魔というのは、デビルとかデーモンな方ではなく、総称での悪魔だ。一般的な意味での悪魔を含め、妖怪、悪霊、もしくは怪物、天使などもひっくるめて悪魔と呼ぶ。悪魔の召喚と言うのは、それらを集める手段の事を言う。


 この場合西洋の悪魔が多いようだが、名前付きのような大物は居ないようだ。召喚者も消えている。とと、それどころじゃない。


 悪魔って言うのは、自分でホイッとコンスタントに出来てしまう者もいるが、大抵の下級はそうではない。つまり、呼び出した人間か悪魔が居ると言う事。人間の場合、召喚する為の秘儀と言う奴が残っているという事だ。魔法使い連盟からしたら、排除すべき対象である。


「…フィレージェ。其処に居るなら答えよ」


 俺は虚空に向かって語りかける。一見するとただの痛い人だが、そこにもちゃんと精霊がいるのだ。精霊は悪魔にも似ているが、人に友好的なので名前が違、じゃなくて、しっかり調査しなければ。


 俺の声に返事をするように、くすくすと笑うような声が聞こえる。声、正確には音の精霊、フィレージェ(震えの風)。俺の相棒の一人だ。とはいっても、魔法使い全体と契約しているので、俺だけの、という訳ではないが。


「フィレージェ、俺以外の一週間の間にあった声を聞かせてくれ」


 またも、くすくす、と言うような音。ラップ(霊障の一種で、何かを叩く音)がちょっとなった後、キュルルルル、とビデオテープが巻き戻されるような音がして、女の声が聞こえ始めた。


「――――――? ――――。―――――――」


 独り言の様にボソボソと聞こえる声。何を言っているかはまったく分らないが、恐らくはロシア語。そして、去っていく足音。


 手がかりなし、と。最悪だな。


 とりあえず、魔法使い連盟には伝えておかないとな。また溜め息を吐いてから印を結ぶ。ゆっくりと結ぶ印には先程の紐ではなく、黒い紐が使われている。


鴉よ(ヴルタウォン)見聞きし届ける(エルタレーニャ) 鴉よ(ヴルタウォン)来たれ(エント)


 詠唱を終えると鴉が俺の手に現れる。唐突な登場だが、重くはない。純粋な魔力による召喚なので、影と感覚だけの存在なのだ。


「魔法使い連盟へ囁きを。『悪魔召喚の儀を確認。恐らくロシア国籍の女の物。現在手がかりはないが、調査を続ける』」


 カラスは了承したように一度カァー、と鳴いて、飛び立つような仕草で宙空に消えた。


 さて、今日の仕事はこれで終わりにしよう。明日には学校も有る事だし、今日はもう帰ろう。そんなこんなで、俺にとっての一晩は、普通とちょっと違う。

週一更新で、目標は打ち切りやエターをしない事です。

がんばります。

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