閑話 とある国の悲劇
その日、『湖畔』国の王はある儀を執り行った。
長らく封じてきたその儀式を行使したのは、衰退した国を立てなおす為。
再び繁栄を得る為だ。
国を豊かなものに変えたい。
誰もが安心して暮らしていける国を造りたい。
若くして玉座についた彼は、強くそう思っていた。
故にあちら側に助けを求めよう。
国政や、産業、医療、何でもいい。
とにかく革新的な進歩をもたらす知識や技術力を取り込もう。
そう王は考えたのだ。
「かつて世界を破滅から救ったような英雄でなくてもいい。
役に立つのなら、子供でも、女でも、年寄りでも構わない。
国賓として手厚く扱い、例え従わなくとも鎖に繋ぎ止めて、この国に貢献させてやろう」
かくして異世界召喚の儀が完了した。
床に刻まれた円環から眩い光が溢れ、辺りに耳鳴りが響き渡り、次第に収まっていく。
だがーー。
果たして、そこから現れたものが何であったのか。
「……?」
王は全く理解ができなかった。
いや『認識』できなかった、というのが正確な表現だろう。
「儀式は成功したはず⁉︎ それなのに何故、何者も現れない‼︎」
故に、王は大いに嘆き、大いに落胆した。
無理もないだろう。
何故なら、あちら側から呼ばれたのは小さな虫。
一匹の蚤だったのだから。
◆
数ヶ月後、『湖畔』の国は突如発生した黒い霧によって、滅亡した。