豪放磊落
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「お疲れ様でした。ここが私が所属する第七独立戦闘部隊の駐屯場所です。中に隊長がいるので先ずは挨拶を済ませておきましょうか」
「た、隊長……き、緊張してきた」
「気負わなくても大丈夫です。あの人と話してると緊張なんて直ぐに吹き飛んでしまいますし……」
達観しているカプリオを余所目にテントの入口を覗く。中はまだ薄暗くて灯りも無く、奥に誰が何人いるのか判断する事は出来なかった。
マサムネとカプリオが所属している第七独立戦闘部隊。マサムネ曰く、取り分けて優秀な人材が集まる部隊だって言ってたけど……辺りに他のテントも無いし、まさか少数部隊なのか?
マサムネみたいな人間が何十人もいたらそれはそれで嫌だけど……個性的な人が多い気がするから見てみたい気持ちも満更嘘では無い。
「じゃあ、そろそろ中に入ろう」
「レイさん、そこから一歩下がってください」
「なんで? 」
「良いから早く! 」
「……まだまだ……甘ァァァァイ‼︎‼︎ 」
「おごっ‼︎ 」
中の様子を伺おうと入口に顔を伸ばす、その瞬間、野太い男の豪声一喝と共に奥から何か大きなモノが飛び出し、凄まじい速さで反対側にある木箱の群れに激突した。
カプリオの声掛けで反射的に下がってなければ今頃直撃コースの真上に居たのは空気ではなく俺だった。衝撃が物語るその破壊力は木箱を壊し尽くし、飛んでいく物体は何処かで見覚えがあるフォルムで声も聞いたことがあるような気がした。
「……はぁ、また懲りずにやられましたか起きなさい馬鹿」
「う、うぅ……惜しかった……んだけどな。あと少しで……勝てた……のに」
「マ、マサムネ⁉︎ おまっ、何してんだ! 」
木片の中で沈んでいたマサムネは、全身ボロボロの雑巾みたくなり果てていた。あれだけの戦闘力を誇っていて前回の戦闘でも致命傷すら負わなかった男が今では見る影も無い。
赤く腫れ上がった顔からは鼻血がとめどなく溢れ、打撲が酷いのか呼吸が荒く立ち上がってこない。何がどうやればここまでマサムネをズタボロにできるのか不思議に思う。
「暫くそうしていなさい。馬鹿につける薬には無いですから。皆さん、アレは放っておいて行きましょう」
「で、でも! 怪我してますよ! 鼻血だって出てるし……手当くらい! 」
「い、良いんだ……気にしないで行け……自分の事は自分でやれる……」
「ほら、本人もこう言ってますし……。それに、この程度、ウチでは日常茶飯事なんです。ほら、アレは良いですから入った入った」
カプリオと俺を除く三人は、流石に目の前に怪我人がいたら助ける優しさを持ち合わせているらしく、しきりにマサムネを近付こうとするが、カプリオは阿呆らしいと三人を纏めてテントの中へ押しやってしまった。
最後に入ることにした俺がチラリと目をやると、かなりの怪我を負っていた筈のマサムネが、親指を立てながら笑っていた。平気だと伝えたいみたいだ。気持ちを汲んだ俺もカプリオ達の後を追って中へと足を踏み入れる。
中で初めて目にした光景は俺の人生の中でも二度と忘れることの出来ないほど強烈で、海馬に抉りこみ、これから何度もフラッシュバックのように思い出してしまうほどショッキングな光景だった。
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「よくぞ帰った我が最愛の娘よ‼︎ 」
「うわっ! 」
具体的にはどんな光景だったのかというと、何故かパンツ一枚の筋骨隆々男がカプリオを抱き締めいた。力一杯抱き締め、抱擁し、カプリオの柔らかな乙女の肌に強面の髭面を無理矢理押し当てていた。これは……頰ずりか?
ぱっと見、とても危険な匂いがする。パンイチの大男と清廉で小柄な女の子。何も知らない通行人が見たら完璧に事案物件である。
顔周りに多くの豊かな顎鬚と一括りにした赤灰色の長髪が特徴的な大男、見れば見るほど並大抵のインパクトではなかった。背丈はテントの半分程あり、推測だけで見ても二メートル後半はあるだろう。
顔立ちから体つきに至ってまで、どこからどう見ても厳ついことから豪快な印象があり、まさに精鋭兵が何たるか、それを体現しているようだった。なんだそのアホみたいな胸筋、鉄筋でも中に入れてんのかよ。
「た、隊長……苦しい……です」
「おおっとすまん! つい力余ってしまった! 」
「けほっ、隊長も良い加減力の加え方くらい覚えてください。その内、隊員に死者が出ますよ」
「覚えようと努力はしとるんだがなー? まっ、愛する娘に対しては全力で愛情表現したいんだ。……それと、何度も言っているが儂の事はちゃんとパパと呼べと何度言ったら分かるんだ! ママのことはちゃんとママって呼んでるのに! 」
「た、隊長……その話は「パパ! 」
「パ、パパ……その話はここでは止めてください……恥ずかしいです」
「何を言うか、何を置いても一番大切なのは家族だ! パパはチノの事を忘れた事など今まで一度たりとも無い! 」
感情を露わにしながら訴える男は純粋無垢な塊みたいな印象で、本気で思っていることを口に出しているだけだった。チノを抱き締めたことで少しは満足したのだろう、顔がやや緩んでいる。
「そんな事より、パパに合わせたい人達がいるんです。あと、話したいことも」
「ああ、その事についてはもう”知っている”」
「なら話が早いです。パパ、彼らに力を貸してあげてください」
「知っているとしても、それはこれから考えることだ。先ずはこの目で、耳で、頭でその者達を見てみたい」
ギョロリ、常人と比べて大ぶりな目が俺達を視界に捉え、やがて一番前にいたエレナに狙いを決めたのか動き始める。
ズシリと重い一歩はとても大きなストライドで、チノをズラして少し歩いただけで距離が目の前まで詰まっていた。大人と子供、というより、大人と赤ん坊並みの大きさ比較で、近くで見ると圧力が増して感じた。
「お前達がチノの友人だな? 儂はシド・カプリオ。この第七独立戦闘部隊の隊長をしている。宜しくな」