手掛かり
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「ーーという事があったんだが、何か心当たりは無いかな? 大した事とかじゃなくても良いから今は少しでも情報が欲しいんだ」
「黒衣で……顔に気味の悪い模様、刺青のようなものですか……うーん」
「多分、話を聞いた限りでは敵は男で俺たちの事を知っている上で殺しに来てて、このまま受け手になり続けるのもマズイかなって」
「そうですね、今までの話を聞いた事に心当たりは無いです」
「……そっか、ありがとう」
「お役に立てず申し訳ありません」
軍という組織を頼れば何か分かるんじゃないかと思って聞いてみたものの、手応えは無く事態は振り出しに戻った。刺客が送られてくるかもしれないこの状況を打破できる望みも失ってしまった。
だが、誰にも相談出来なかったことをカプリオに話せたことで、少しだけだが気が紛れたことも事実。今ある手掛かりを元に調査に努めよう。
決意を新たにしていた俺の顔を見ていたカプリオがボーッと何事か考え、そして唐突に小さな口を開いた。
「手がないことも無いですよ」
「え、なんだって? で、でも今、心当たりは無いって……」
「それはあくまでも個人の、という意味で言ったんです。私が所属している新政府軍に行けばもっと情報も集まるでしょうし何よりーー」
「何より? 」
「私達の所属している第七独立戦闘部隊に行けば頼れる人がいます」
「頼れる……人か、それは確かなのか? 」
「まあ、かなりの気分屋ですけど私が頼めばきっと力を貸してくれますね」
「お願い……しても良いかな? 」
「今回の件の借りもありますし、引き受けましょう」
一筋の光明、カプリオの提案に俺は二つ返事で乗り、それから出立までの準備を進め、エレナ達に不自然に思われないよう気を配りながら軍の駐屯地に行くことを進言した。
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エレナ達の反応はまちまちで、ミハルは直ぐにでも辿り着ける次の目的地に行くことを希望し、ポーシャは中立でどちらでもと、エレナは意外な事に俺の意見に強く賛成してくれた。
きっと、三人とも嫌だと言うに違いないと覚悟していたのに、エレナの賛成意見は少し驚いた。
これには流石のミハルもうんざりしながらエレナに意見している。
「なんで次の街に行かないんですか⁉︎ 一日足らずで辿り着けるのに早く移動した方が良いですっ! 」
「いや、ここは駐屯地に行く方が圧倒的に良いよ」
「どうしてですか? 理由が聞きたいです」
「私達の今の状況を考えれば直ぐに分かる、ミハルちゃん、私達のこの旅の目的は何だっけ? 」
「え、えーっと、予め決められている街や都市を経由しながら必要な物を自力で調達して……商売をして無事に帰ってくる……でしたっけ? 」
「そう、ジェノヴァに帰るまでに決まった物を商売や依頼をこなして手に入れないと駄目だったよね? 」
「……あっ、なるほど」
「うんんんんー、そっか! 分かりました! 」
察したようにポーシャが目を光らせ、ミハルも遅れて何かを察したみたいだ。商人という者は頭の回転が桁違いに速い。しかし俺にはさっぱり分からないので話を聞き続ける。
「私達には手に入れなければならない物が沢山ある。でも、それを手に入れるだけのお金がないの」
「お金が無いと商売も出来なくて、商売が出来ないと目的の物も手に入らない」
「この旅をする上で消費物資も必要ですし、取り敢えず手当たり次第で良いから商売をしないと! 」
ここまできてエレナの考えが俺にも分かった。
つまり、出来るだけ金を稼ぐ必要があるのだ。
口添えをしてくれるのか、カプリオとマサムネも口を揃えて割って入ってくれる。
「私達、新政府軍は本来、民間の営利組織は中に入れることをしません。情報の漏洩があれば大惨事ですし、物資提供してくれる自分達のお抱え組織もあります。ですが、今回は特例で貴方達の商売活動を許可しましょう」
「俺様達もここの食べ物は気に入ったし、上官にも口添えできるぜ! 」
「それってかなり凄い事だよ! 今まで誰もがしたくても出来なかった事が私達に出来るって 」
幸い、ここの牧場の人達がお礼にって特産品のミルクや乳製品、新鮮な肉類もくれた。これを人が多く、尚且つあまりお金を使う暇のない程忙しい軍の人達に売りさばくことが出来れば……どれ程の利益が出るか想像も難くない。
そしてこれらの商品は鮮度が何よりも命。出来るだけ早く売って少しでも軽いお金に変えた方が無難で、新政府軍という強力強大な組織にコネクションも作ることができる。
商売人としてこれほど利がある条件をむざむざ手放してまで街に行く理もなく、満場一致で可決が取れ、着々と準備が進んだ。
まだまだ日に余裕がある内に準備は終わり、荷物を持てる限り詰め込んだ事を確認すると色々あった牧場を後にした。