◯ッキーゲーム
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「そのお菓子……えっと、パッキーだっけか? そのお菓子で何をするんだ? 」
「だ〜から〜! パッキーゲームだって言ってるのが分かんないのかぁ!? おら! さっさと口開けろ口!! 」
口に無理矢理押し込まれるのはチョコレートでコーティングされた棒状のお菓子。口に入ると最初はビターなほろ苦さが広がり、続いて奥に眠っていた本当の甘さが遅れてほろ苦さを中和していく。
そしてコーティングされた部分が全て口の中で溶けきると、最後に現れたのはカリカリに焼かれたスティック状の生地。序盤で堪能したチョコレートの余韻を残しながらもサクサクした食感がまとめ役として丁度良い。
取り敢えず咀嚼。うん、これは美味いな。
ポーシャは俺に、最後まで舌を楽しませてくれる素敵なお菓子がある事に気付かせたかったのか。
無理矢理飲ませてきたり食べさせてきたのはアレだったが、なんだ、意外と可愛いところもあるじゃないか。ゲームとか言ってたけどそれも口実で嘘なのかも。
「……っ! 何を普通に食ってんだよぉ!! 」
「ぶべらっ!! 痛い! 痛いって!! 」
「煩い!! 何でゲームするのに必要なお菓子を食ってんだって聞いてんだよ! 」
何でって言われても……普通、口に食べ物があってのこの状況なら食べるだろ。食べるなとか察せる訳がない。
「……じゃあ、これでどーやってゲームでもするんだよ。まさか二人で早食い対決でもするのか? 」
「そんなんじゃない……これは二人でしかできない真剣勝負何らからねぇ!! 」
「はいはい、んで? 俺は何をすれば? 」
「このパッキーをもう一回口で咥えてそのまま待機」
「それだけ? ゲームにならないんじゃ……」
「良いから!! 早くしないと……」
「分かった、分かったから! えっと……ほひ」
言われたままに口に再びパッキーを含み、次の指示を待つ。この後はどんか無茶振りが待っているのか考えたくもないがここまで来たらやるしかない。
「よし、これで準備はできなぁ……っとよいしょ」
「ふへ? ほほひへぽーひゃはふへひ? 」
「何言ってるのか全然分かんないし〜」
だから! どうしてポーシャが俺の足の上に対面で座ってこっちを見つめてるんだっ!!
逃げようにも座ったままの足は上に乗ったポーシャによって抑えられていて、両腕も今しがた両の手によって封じ込まれる。つまり、身動き一つ出来ない。
何でだろう……嫌な予感しかしないのだが。
「これからルール説明をしまーす! あ、因みにこのゲームの参加拒否権はありませーん! 」
「ふほほほふぁ!! 」
「へぇー、レイも案外乗り気なんだ……ふふ」
「ひはふふ!! 」
「じゃあ続けるね……このパッキーゲームって言うのは要は二人でやる我慢大会、平たく言うとチキンレースみたいなものなんれすぅ」
酔いがよっぽど進んでいるのか、口調が度々変わり、泳ぎそうになる視線を俺に頑張って合わせるポーシャ。
酒気を帯びた瞳には、いつものキリッとした整然さは欠片も感じられず、とろんと今にも溶けて無くなりそうだった。
「今はレイがパッキーの端を咥えていてぇ、その反対側から私も食べるので逃げずに我慢できた方の勝ちだから……」
徐にポーシャも俺が咥えているパッキーの反対側をハムっと咥え、二人は菓子を伝って繋がっている。
てか、逃げずに我慢って……?
「言い忘れてたけど、負けた方は三日三晩全裸で過ごす事とします……反論は無いようなので始めますよぉ〜!! 」
「ふぁい!! ふぁいいぃぃぃ!!! 」
全力で抗議したが、今の泥酔したポーシャが聞き入れる訳がなかった。酔った彼女に怖いものは無いのか、自らもリスクを負ってゲームに乗っている。
「ほは、ほれひゃあ……スタートぉ!! 」
「んむっ!? 」
始まりのゴングを自ら鳴らし、予想通りポーシャは口に咥えたパッキーを食べ進めてきた。それも、ゆっくり食べようとはせずにガンガン食べ進めている。
二人の距離は人の頭一つ分も有るか無いか。このままだとあっという間にゴール、つまり俺の口元に辿り着いてしまう。
幾ら酔っているとはいえ、これは流石に冗談では済まないだろ!! 俺かポーシャが全裸で三日三晩も過ごせる訳がない!!
取り分けてポーシャは年頃の女の子だ。だが、それと同時に彼女はとても責任感が強い。少しでもこの事を覚えていれば例え酔っていた事が原因だとしても自らが起こした過ちを清算するに違いない。
そんな事になれば彼女は一生治らない心の傷を負う……それだけは防がなければ。彼女と俺とでは見えてくる答えは明白だった。
彼女自身の為、俺は意を決して咥えていたパッキーを折るために力を入れた。




