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酒癖の悪い彼女

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 もう見ていられない。




「ふぅー、やっぱりチビちゃんは触り心地が良くて最高でちゅね〜♩」

「……ギィ……」




 その顔は苦悶に満ち満ちていた。不憫……なんて言葉で片付けるのが本人に対する侮辱に値するレベル。言葉にならない虚しさが彼の顔に表れていた。




「チビちゃんの体ったらずーっとポカポカしてて、抱き締めると柔らかくて最高だよー♩」

「ギィィ……」




 ただ、限界だ、早く楽にしてくれと介錯すらこちらに求めかねない程に磨り減った神経は、既に異常値を叩き出して体を蝕む。




「あー、気持ち良いぃぃ! もういっそこのままずっと一緒に居られると良いのになー! ねぇ?」

「……グフッ」

「……あれー? 何だかグッタリしちゃってるけど……お眠なのかな? はいはい、子守唄でぇも、歌ってあっげますかりゃねー」

「……」




 そこまでにして欲しい。チビの惨状を鑑み、俺は言いたかったこと言おうとした。言おうとしたが、酒を飲むと絡みグセを発動してしまうポーシャに足が慄いた。




 無理だよ……無理なんだよチビ……だって怖いんだよ。




 今はチビを侍らせていることに満足しているから、周りへの被害は皆無、機嫌が良い内は触らぬ神に祟り無し。供物として召し上げられたチビは皆の盾となってくれたのだ。そう思いたい。




 贄は座して死を待つだけの脆弱な存在に非ず、その身を以てして荒ぶる神の怒りや憎しみの業火を一身に受け、残った者たちに幸福という名の時間を与えるのだ。




 これは必要な犠牲だったのだ。ポーシャを安全に止める事が出来るのはチビだけだから、定在適所、臨機応変に……ね?




 つまり何が言いたいかって……? そうだな、チビは自分の体一つで貴重な時間稼ぎ役を買って出てくれてるんだ。




 だから家族を保身の為に見捨てる自分の罪を、後で骨付の肉をお腹いっぱい食べさせてやるから勘弁して欲しい。




「はーい、ねんねんころりよおころりよ〜♩」





 まともに聞く者など一人もいない、酔いどれの虚しい寝付けの歌だけがその場に木霊していた。








 ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎








「どうしてこうなった……」

「どうしたもこうしたもぉ、チビちゃんが寝ちゃったんだから次はお前が相手をするのは当たり前だろぉがぁ!! 」




 チビを使って隣から少しずつフェードアウトしていく作戦を決行していた俺は、チビに興味を失ったポーシャに案の定捕まってしまい、元の位置にいる。




 理知的な美人が横にいて、面と向かって話が出来るこの機会、普通なら手を揉んで喜んでしまう場面に相違ない。だが、だがだ、相手が悪酔いした中年オヤジ染みた酔っ払いだと話は別だ。




 もうね、その……吐く息が既にお酒臭いのなんのって……。日頃自分が飲む事がなく、距離が近い所為でアルコール臭が鼻に痛い。




 コップ一杯のお酒を間違って飲んだ程度でここまで悪酔いして絡まれるのも珍しいと言えば珍しい。彼女はアルコールに耐性が極端に無いのか、頬がほんのり……を通り越して赤く染まっている。赤鬼かな?





「荒ぶる神はこの程度の供物では満足しなかったというのか……」

「ごちゃごちゃ五月蝿ぇなあ! 良いからさっさとこれを飲めや!! 」

「うぷっ! 無理無理! もうこれで五杯目だぞ! これ以上飲んだらお腹が水分でパンクしちゃうから! 」

「らいじょーぶらいじょーぶ、人間の膀胱は一リットル位は余裕で我慢できるんらぞぉ!! だ・か・ら! 飲め飲めもっと飲めぇ!! 」

「し、死ぬ! マジで死んじゃうからコレ! 」

「そんな簡単に人間は死ななぁーい! だから飲め飲め死ぬ訳ないならどんどん飲んで〜! 」

「どこからその自信が湧いてくるのか教えて欲しいっ!! 」

「大丈夫だってばぁ……多分」

「多分で飲ますんじゃねぇっぷ!! 」

「おろ? 何だか飲みが悪くなってきてるじゃあん! 顔色悪いけど大丈夫か? 」

「大丈夫な訳ないだろっ!! ……うっぷっ……」




 なんでそんな情報を知っているのか、いつもなら冷静にツッコミを入れる所も、無茶振りでガブ飲みさせられるジュースの胃の圧迫で頭に浮かばない。




「あぁー? んじゃあ、別の事でもするか……」

「別の事? そ、そうだな! 他の事をしようそうしよう! 」




 全力でエスケープ。現状を打破するにはポーシャが考えている別の事とやらに賭けるしかない。でないと……窒息で死んでしまう。




「全くしょうがないにゃあ〜っとじゃあアレをするか」

「アレって何だ? 」

「アレはアレだよほれ」




 指差す方向を見つめるが誰もいない。そこに在るのはまだ誰も手を出していないままの菓子置き場だけ。そこから何を汲み取れというのだろうか。




「アレって言われてもお菓子しかないんだけど……まさか! あのお菓子全部食べろとかじゃないよな! 」




 何が何でも無理に決まってる。この水っ腹にテーブル一つ丸々乗せてある菓子料理を平らげるなんて腹部大爆発を起こしかねない。




 だが、どうやら予想した答えではなかったみたいで、機嫌が良かったポーシャの顔色が急に険しくなり、やれやれといった素振りを見せながら奥へとよたよた歩きで進んだ。




「お前の目は節穴か〜⁇ 飲みの席で盛り上がる興と言えば……これしかねぇだろぉが!! 」




 徐に取り出したのは……一本のチョコスティック。 そんな菓子を使って二人で何をするというのか。




「よぉ〜し! これからパッキーゲームするぞぉ! 」

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