酒乱
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「ひ、酷いですぅ……頭が痛いぃ」
顳顬を押さえながら蹲るミハルを見下ろし、俺は弄ばれた鬱憤を晴らしていた。
「男のピュアな純情を弄んだお前が悪い」
「男が自分でピュアとか……ウケますね! 」
「なんだ、まだ懲りていないのか……宜しい、ミハルよ、此方に来たまえ」
「嘘です!! とっても悪いことをしました! すみませんでした!! 」
「分かればよろしい……」
「むぅぅ……暴力反対ですお兄さん」
「これは暴力ではない、天誅だ」
「何でそうなるんですかぁ!! 女の子には優しくしてあげないと嫌われちゃいますよ! 」
「いや、別にお前に嫌われても俺はなんとも……」
「あー! そんな事言っちゃうんですね! もうお兄さんなんて知ーらない!! 」
冗談だと言う前にミハルは俺から離れてしまった。何故か少しだけ心が痛むが、遠くから舌を出して此方に怒りを露わにした彼女を見ていると心が和む不思議。まったく、多少弄られはしたが、こちも弄り返した分痛み分けだ。
結局、目の前にあった肉料理を食べる気は失せ、特にする事もないので、次の料理を探し求めてフラフラと亡者の様に探索することにした。
だが、次に目に留まったのは意外にも料理ではなく、あまり見慣れる光景だった。
宴は酒が入っている分、大人の盛り上がり方が異常で、キャンプファイアーの周りをぐるりと囲って飲めや歌えや騒げや状態でそこに一人、場違いな人物が混じって騒ぎ立てている。
「おーい、お前らぁ! そこら辺にあるぅ? 酒をぁー持って来いよぉらぁ!! もっとぉぅ、私にぃ飲ませんかぃぃ!! 」
「お、おー、お嬢ちゃん、良い飲みっぷりだぁ……ささ、これも美味しいですから飲んでみてくださいなぁ」
「うーん? なんらぁこれぇんぁ! ……こんなしみったれた飲み物じゃなくて、さっき飲んだアレだ!! アレを早く持ってこぉぉい!! じゃないと、この家にある飲み物全て一気飲みしてやるぅぞぉ!! 」
「「は、はい!! 」」
俺達が渡されていたのよりも更に一回り大きなジョッキを手にして、顔を朱色に染めた酒鬼がそこにはいた。
「何でポーシャが顔真っ赤にして盃片手に騒いでるの?? 」
「あーんん?? おい! レイィ! ちょっとぉこっちに来いやぁ!! 」
「えっ? 俺? てか、ポーシャの口調が……」
「グダグダ言ってないで早く来いっってんだろ!! 脱がすぞボケがぁ! 」
「は、はいぃ!! 」
「おう、さっさと横に座れや」
「何なんですかこの状況? 」
大きめのゆったりした椅子に腰掛けているポーシャ、その横に寄り添う様に座らされた俺は借りてきた猫みたいに震えていた。
「うっ、なんでこんな事に……って、この匂い、もしかしてお酒ですか? 」
「じ、実はそうなのです……」
「何酒なんか未成年に飲ませてるんですか! 」
「ち、違います!! 我々が飲んでいたかなり度数の低いお酒をどうやら間違えて飲んでしまったみたいで……でも、たった一口だけなのです! それ以降はどうにか誤魔化して水やジュースを飲ませているのに何故だか酔いが深くなる一方で……」
「たった一口でここまで酔えるものなんですか? 呂律も回ってないし、ポーシャが何時ものポーシャじゃないですけど!? 」
「一口でここまで酔えるって……しかもアルコールなんて殆ど入っていないのに……ポーシャ弱すぎだろ」
「あー美味しい!! オッさん! 次のジョッキ持って来いよぉ! ……いや、もう樽だ! 樽で持って来い!! 」
「ポーシャ、そろそろ止めといた方が……」
「私に文句れもあんろかぁ? お前なんか私のデコピンでイチコロなんらかららぁ! 」
「この通り、我々が諌めようとすると途端に機嫌が悪くなり、中には犠牲になったものも……」
「あー、確かに地面に二人伸びていますね……」
「だから、仕方がなく盛り上げに徹しているのですが、お願いです! 彼女を止めてください!! でないと、一緒に飲まされている我々が先に酔い潰れてしまいます!! 」
「わ、分かりました……出来る限りの事はしてみます」
「ありがとうございます!! 」
やっと苦労から解放された安堵感か、俺に全てを任せると全員速やかにその場から離れていくこの放任っぷりは少々俺を驚かせた。
そこまでの酒乱なのか……まぁ、予想は出来るが覚悟しておく必要がありそうだ。
「あん? どうして皆んないらくらったろぉ? んー? いいや、隣にレイがいるしー? チビちゃんもほーら、ちゃんと用意してるしー? 万事オッケーよぉ!! 」
「ギ……ギィィ……」
「お、お前まで犠牲者になっているとは……」
首根っこを掴まれて、借りてきた猫みたいに大人しくしていたのは猫ではなくドラゴンの子供。酒に酔ったポーシャの気概に恐れを覚えたのか、震えるようにして俺に助けを求めていた。
出来ることならどうにかしてやりたいけど……俺は先ずポーシャの酔いを覚まさなくちゃいけないんだ、だから……それまで死んでててくれ……南無。




