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魅惑のビュッフェ

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「肉だ! 早く肉を持ってこい!! 」

「火の準備はまだか? なにぃ!? 今やろうとしてただと? 他の事はいいから早く火を点けろ! お客様方をお待たせしてはならん!! 」

「酒は樽だ! 樽で持ってこい! ウチの蔵にある中で最高の出来の物をお出しするのだ!! 」




 慌ただしい渦中を眺めるのは来賓である俺達。

 上席の遇に預かるというのに急いで準備に走り回る牧場の方々を尻目に何もせず、ただ見ていて下さいと言われてもこれは存外背筋が痒くなるもので。




 誰も何も言わずとも、自然と準備設営の手伝いを買って出ていたのは皆が等しく優しい心の持ち主だから。女性陣は料理の手伝いを、男性陣 (とドラゴン)はキャンプファイアー用の薪拾いや重い酒樽等の運搬を担当した。




 人数が増えると準備の早さは格段に加速する。みるみる内に宴を開くだけの準備が整い、中央に位置するキャンプファイアーを皮切りに豪勢な料理のビュッフェや酒樽までもが軒を連ねる。




 牧場の方々の勢いと熱と、ここまで礼遇されてしまうとのとでは流石に緊張してしまうもので、もてなされる側は借りてきた猫みたいにカチコチに強張ってしまっていた。




 その中で平気そうにマサムネは鼻をほじり、カプリオに至っては仕事の延長線で手が空いた人を見つけては事件の事情聴取に張り切っていた。




「ハハハ、お前ら緊張しすぎだろ!! こういうのはノリが大事なんだぞ? 下手に緊張するんじゃなくて楽しめばいいんだよ楽しめば! 」

「それが出来たら苦労はしねぇよ……」

「だよねー」

「ですよねー、特に私達は何もしてませんしー」

「まあ良いんじゃねーの? お前らだって子供の守りとか牧場の人の話聞いてやってたんだろ? なら、働いてるって」

「そういうものなのでしょうか……」

「ほら、さっさと席に着けって! 始まるぞぉー? 」

「そうですとも! 貴方方は我々の命の恩人、早く席に着いてくださいまし」

「ほらほら」

「さぁさぁ」




 強引に席に座らさせられ、並々と液体の注がれたジョッキを一人ずつ手渡される。中には赤い色の飲み物が注がれており、酸味のスッキリとした香りする。




 ここにきて、何故か音頭を取ろうとするのはマサムネ、目立ちたがり屋の気質なのか、誰にも譲りたくないの一点張りでジョッキを片手に椅子に乗り上げて叫ぶ。




「えー、今日はみんな俺様の活躍のお陰で無事にいられたわけだが……「長いのでウザいです」……はい」




 本気で長くなりそうな自分語りが始まる直前、慣れた感覚でカプリオが割って入り会話を飛ばす。

 残念そうな顔してもダメだからと、同情票も一票すら得られないマサムネは項垂れながら言葉を続ける。




「……ふぅ……よし、では皆さん……今日は飲んで歌って騒ごうぜぇぇぇぇ!! 」

「「「オオォォォ!!!! 」」」」

「かんぱーい!! 」




 先ずは近くの者とジョッキを打ち付け、次に遠くに位置する人達ともジョッキを酌み交わす。

 一口流すと、酸っぱさの中にある味わい深い果物の甘みが口、次いで喉へと移り変わり、ゴクリと飲み込んだ瞬間に作業で火照っていた体が良い塩梅に冷めた。




 そして目の前に盛られた肉の塊をナイフで削ぎ落とし、自分が食べる分だけを皿に取り分けて口に放り込んだ。




 じゅるり、じゅわじゅわっと溢れ出る肉汁が噛めば噛むほど湯水の如く表面から湧き出てきて、付け合せの野菜を挟むことでまた違った美味しさの視点を与えてくれた。




 美味い、言葉にすることも憚られる位、この肉は美味い、最高だ。この肉を食べる度に、疲労して傷付いていた体の筋肉が超回復するのが分かる。




「このお肉凄く美味しいですよねー? 」




 舌鼓を打っていると、横にいつの間にかミハルが立って同じように並んだ料理を眺めていた。もう食したのか、美味しそうに作られた料理を見てうっとりとした表情が浮かんでいる。




「ああ、なんだミハルか」

「な、何だとは何ですか! こんなに可愛い女の子が話しかけてくれているんですから眉くらい動かしてくださいよ! 」

「はいはい、可愛い可愛い」




 今はミハルの世話よりもお腹の世話をする方が先だ。空きっ腹にこの料理は正直病的なまでにお腹が空いている。早く、早く胃に詰め込みたくて仕方がない。

 いつもならこのあざとい仕草に心揺れるが、今の俺は違う、空腹は最高のスパイスで他には目もくれない。




「む、むうぅ……こうなったら……えふぃ! 」

「あっ! 」




 適当にあしらったの事に機嫌を悪くしたのか、横で何もせず見ていたミハルが俺が食べようとした肉を寸前で箸ごと掻っ攫う。




「おまっ、俺の肉をよくも……! 」

「ふふーんだ、お兄さんのお肉は頂いちゃいました〜♩」

「返せ、俺の食べようとしていた部分の肉を今すぐ返せ! 」

「ええー、それは無理ですよー! え、なに? もしかして私の食べたお肉が食べたいんですか? それは流石に引きます……」

「何でそうなるんだよ! 普通に違うわ! 」

「私のは無理ですけど、そんなにお肉が食べたいなら……ミハルが食べさせてあげますよ……? 」

「……えっ? 」

「……ふふふ、あーっははは! 冗談ですよ冗談! 何を本気にして顔を赤くしてるんですか本当に面白いですありがとうございます」

「コ、コイツ……嵌めやがった……」

「ふぅー、すいませんでした、つい反応が可愛くて弄っちゃいました。お詫びに私が口移しで食べさせてあげましょうか……? 」

「い、いい!! 俺は要らないからな!! 」




 く、口移しとかヤバイだろ絶対! いかん、考えるな考えるな考えるな考えるな考えるなぁぁぁぁぁ!!

 下手に妄想するとミハルの思う壺、そんな俺の反応を見て彼女は楽しんでいるのだ。逆手にとって俺がクールな反応をすれば反撃ができる。無心だ、無心になるのだ。




「遠慮しないで良いんですよー? ほら、お兄さんは今日は大活躍でしたからご褒美にってことで」

「要らないったら要らないから!! 」

「良いんですかー? 今なら口移しは流石にアレですけど”あーん”位なら全然しちゃいますけど? 」

「あ、あーん!? 」

「ほら、口を開けてください。あーん」

「マ、マジで? 」

「マジですからー、早くー! あーん」




 手皿をしながら箸に装った肉を俺の口元に持ってくるミハル。その仕草がとても愛らしくて目元がトロンといつもより一段と和らいで見えた。




 マ、マジなのか? マジでマジなマジマジなのか?

 ゴクリ、生唾を飲む音が自分から聞こえ、心に抗えない。気が付けば俺は口元を差し出していた。




「あ、あーん……」

「えいっ! 」




 美味しい肉は俺の口に入る直前、急に反転してターン、肉の行方を追った時には既にミハルの口の中に綺麗に収まって口は閉じられた。




「うーん、やっふぁりおいひぃれすね。……んんぅ、あ、何ですか? もしかして食べさせて貰えると今度も思っちゃったりしてた訳ですか? あははは! 残念でしたね! 今度のも当然ブラフでした! ミハルからのあーんなんてする訳がないでしょ!! 」




 俺は言葉を一切放たず、無言でミハルの肩を掴んだ。




「えっ、ちょ、何ですかこの手!? えっ、なに、何で笑顔で見つめてくるんですかお兄さん!? 」




 俺はなにも返さない。ただ笑顔でミハルの肩を掴んで逃げられない様にしているだけだ。




「えっ、す、すいません! ちょっと構ってくれないからつい意地悪しちゃって……出来心だったんです! 許してくださいよ〜!! 」




 肩から俺は手を離した。ミハルは自分が許して貰えたと安堵の息をする。

 だが、違う。俺は代わりにミハルのこめかみに両手を添えた。




「えっ? ……って、痛いぃぃぁぁぁぁ!!!! 」




 絶叫すること数秒、俺は力を込めてミハルのこめかみを圧した。

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