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感覚

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「ど、どうやって妾渾身の糸を……そんな馬鹿な」

「そんなの気合に決まってんだろ」

「な、何かの間違いに決まっておる……」

「間違いなんかじゃねぇ、これからそれを証明してやるからそこで待ってろ」




 糸を断ち切りながら止まることなく突き進むマサムネに驚きを隠せないでいるアラクネ。

 何度も何度も糸を浴びせるが、その度に糸は霧散するかのように散らされ、自分の力が敵わない事を悟らされる。




「何故じゃ? 何故なのじゃ? 」




 動きの一つ一つが早く正確に糸を切り払い、自身よりも巨体な者の攻撃を有り余る力で薙ぎ払う。




 悠々と獲物を見定め、決して急がず、焦らず、ただ一点を見続けて。





「馬鹿な……馬鹿な……そんな……馬鹿なぁ!! 」




 受ける攻撃のその悉くを凌駕する圧倒的な火力。

 能力を使わない人間の体術、剣術の粋を見せ付けるが如き鬼神の働きに背筋が寒い。




「どうして……どうして妾の攻撃を防げる!? 貴様、ただの人間であろうに!? 」

「俺様はただの人間じゃねぇ、そこらの無象無象と一緒くたにするな」




 距離はみるみるうちに縮まり、結局、かすり傷一つ付けずに射程圏内に侵入した。




「クッソォォォォォォ!!!! 」



 

 アラクネは、最早これまでと、破れかぶれに自身の持てる腕全てでマサムネに襲い掛かる。




「残念だったな、俺様はスーパーウルトラビッグな男で、世界最強の名を欲しいままにする男、アマノ・マサムネだ」




 歩みを止め、刀を振るう。それだけで簡単にアラクネの首は宙に飛んだ。




「なんての、隙だらけじゃぞ、喰らえ『糸人形』」




 闇から再び声が響き、倒した筈の首と胴体が全て細い糸の塊へと変貌を遂げた。巻き付く糸はマサムネの体に容易く巻き付き、その体の自由を奪う。武器は地面に落ち、指先一つ身動きできない程に白い糸が体を覆っていた。

 マサムネの背後には又もや影が、先程の俺のように背後から襲い掛かる魂胆だったのだ。




「これでまともに動けまい……クク、今すぐ糸で雁字搦めにして体の中に存在する液という液全て絞り尽くしてやろうぞ」




 用意周到なアラクネは、敢えて一度目に糸で作った人形が話したり動けないという嘘の事実を俺達に刷り込み、一撃目を何とか凌いだ獲物がノコノコと攻撃をしてきた所を確実に仕留める為に二段構えの罠を作っていた。




 避けろ! 声に出して警告しようとしたが、生き残りの蜘蛛が親の邪魔はさせないと、ボロボロの体を動かし最後の力を振り絞って一斉に飛びかかって来た。




 俺は残る全ての敵を切り倒しながら遅れて叫んだ。だが、マサムネに声が届くよりも先にアラクネの凶悪な爪や牙がマサムネの肌に食い込むのが先なのは明らか。




「言ったろ? 俺様は二度同じ手は食わないって」




 アラクネ特製の鉄並みの強度を誇る糸が、飴細工のようにブチリと重々しい音を立てて千切れた。背後の敵へとクルリと反転するや否や、凶器が体を貫く前に、解き放たれた身体がいとも容易く死の刃を受け止め、そして破壊した。




 握力による部位破壊。握撃によって足や爪はグチャグチャに変形し、顔面に入れた蹴りがアラクネの下半身の蜘蛛の眼球を潰す。




 それだけでは終わらない。追撃として二撃、三撃と体の芯に届く様な打撃を上半身に撃ち込み、身体がくの字にへしゃげて後退した。




「貴様っ……! 何故分かったのじゃ!? 」

「勘」




 野生動物並みの直感と経験則で自然と対応していたのか。規格外の才能にアラクネは打ち震えている。




「この……化物共が……! 覚えておれ、この恨みいつか晴らすからな!! 」




 形容し難い程に醜く変貌を遂げたアラクネは傷だらけの体を引きずりながら壁に張り巡らせた糸を伝い、外へと逃亡を図る。




「逃がさん!! 」




 それを許すほど俺達は優しくない。

 より近くに居るマサムネは直ぐさまアラクネへと斬りかかるが、瀕死の間際に捻り出す糸の網が時間を稼ぎ、マサムネが糸を切った時にはかなりの距離が開いてしまっていた。




「まだだ!! レイ! 」

「おう! 」




 マサムネは地面に落ちていた自分の刀を拾い上げ、体を捻るモーションから刀を思い切り投擲した。

 轟々と音を立てる刀は見事にアラクネの腕に突き刺さり動きを止めた。




 俺は高さに対応する為に能力を強め、体のバネを使って跳躍の為に走り出した。距離が少し開いていた分もあったが刀が上手く逃亡を阻害しているので間に合う。




「い、嫌じゃぁ!! 死にたくない死にたくない死にたくない!! こんな所で滅びるくらいなら、こんな腕の一本や二本要らぬ!! 」




 何が何でも生き抜く覚悟がそうさせたのか、刀の刺さっている自分の腕を残った腕で引き千切り、尚も天井にある小さな出口から逃亡を図る。




 執念、動物として命を大事にする執念がそこまでアラクネを突き動かす。不味い、このまま上へ上へと逃げられると流石に跳躍だけでは届かない。




 更に走るスピードを速めながら何とか間に合わせようと体に力が入る。




「間に合いました、これで終わりですね」




 ヒュッ、少し前に聞いたことのある風切り音が遠くから聞こえ、逃げ迷うアラクネの腹部に深々と弓矢が突き刺さった。




 鏃は痛々しくもアラクネを壁にしっかりと固定し、逃げようと動けば動くほど肉が喰い込み抜け出せない。




 もがく姿を視界に捉えながら俺は地を強く蹴り出し、その反動で空へと高く飛翔する。

 鋭く伸びた爪で最後まで諦めようとしなかった蜘蛛の女王の体を今度こそ真っ二つに切り裂いて。

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