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傲慢な機織り娘

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「まさか、妾の備えを飛び越えてくるとは……むざむざ敵の懐に一人でのこのこと来る無謀さだけは認めてやらんでもないぞ小僧」

「煩いぞババア、当代随一の天才と噂される俺様を侮辱した罪……今からテメェの体を輪切りにしてやるから覚悟しとけや!! 」

「ほほ、やれるものならばやってみよ。代わりに貴様の骸を妾の苗床にしてやろうぞ」




 二人は熾烈な火花を散らし合いながら対峙して、俺はその状況を遠巻きに眺めていた。




 所であの……残りの蜘蛛は俺がやるんですかね?




 いい、言わなくても分かる。俺がやらなければならないのだろう事は周知の事実なのだ。




「俺もこっちを片付けたらそっちに行くから無茶はするなよ! 」

「バーカ! その頃には俺様が倒しきった後に決まってらぁ! お前こそ、あんまりにも遅かったら俺が手伝いに行ってやるからよ!! 」




 やれやれと、溜息を吐きながら俺も糸の罠を掻い潜ってリング内に入場した。

 乱雑に張られた糸の結界は、目を凝らせば何のことはない、ただのよく切れるだけの細い糸なのだから、頭の片隅にでも置いておけば戦闘時の邪魔にならない程度、問題ないだろう。




 肩回しをしながら体の部位を解し、戦闘体制に頭から爪先までをシフトさせていく。

 鋭い感覚が体をピリピリと刺激して、昂りで目の前の敵だけが視界に映り狙いを定める。




「先ずはご挨拶代わりの一発だ」




 能力による筋力の補正を受けた俺は、蠢めく群れの先頭を切り裂いた。

 能力による筋力の補正を受けた斬撃が肉を撒き散らし、開戦の火蓋を切って落とす。




 右、左、前、後、全方位が敵、敵、敵。

 寝ても覚めても敵だらけな状況で、俺は落ち着いていた。慣れとは恐ろしいもので、二度の戦闘を経験した所為か、この化け蜘蛛達を相手にしてみて、嫌悪感は感じるが不思議と恐怖感かは抱かない。

 戦闘力を知っているからか怖くないのだ。




 数は多いが油断しなければ足元は救われない。

 自然と優先順位を直感的に振り分けて、適切に無関心に機械的に処理を進めていった。









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「これで……ラストっと! 」




 特に問題無く化け蜘蛛達を殲滅し、体に付いた体液を拭う。どれだけの数を相手にし、そして葬ったのだろうか、途方も無い作業に心も体も草臥れた。




 多少の擦り傷は出来てしまったが、それも直ぐに治癒で治せる。傷のある箇所に力を込めながら治る様に念じてイメージすること数秒、傷は難無く完治した。




 前の時と違って深い怪我は一つも負っていない事から、そこまでの疲労感も無く、まだまだ戦闘継続するだけの余力は残っている。




 少しだけ上がった息を整えながらチラリと少し離れた玉座の近くを見遣ると、そこでは苛烈な戦いが繰り広げられていた。




「ウルァァォ!! 」




 マサムネの繰り出す強烈な攻撃の数々が嵐の如くアラクネに降り注ぐが、アラクネはその攻撃全てをあるもので受け切っていた。




 その正体は糸。それも罠を張る際に使用していた細く鋭い糸では無く、目に見える太さの白い重厚感ある太糸を用いて斬撃を防いでいたのだ。




 躱そうともせず、盾のように糸を上下の腕を使って器用に織り込みながら展開させ、弾性に富んだ糸のバリアは決定打を決して許さない。




 多少は糸の寸断に成功しても焼け石に水で、糸を切るよりも新しく生成される量の方が多く、地面には大量の糸屑が乱雑に散らばっていた。




「さっきから守ってばっかりじゃねぇか! やる気あんのか? 」

「勿論あるに決まっておろうが、妾はお主みたいに事を急いておらぬ、それに、既に手は打ってあるのでな」

「……何? 」




 嘘か誠か分からないが、アラクネの不敵な笑みに何かを察したのか、あれだけ頭に血が上っていたマサムネが思わずその場から距離を取ろうと飛び退こうとした。




 だが、それを待たずにアラクネは笑って言った。




「今更引いたところでもう遅いわ! 見よ! 妾の持てる技術の粋を!! 『神々の不貞』!! 」

「な、何だぁ!? 」 




 飛び退いた部分を含む大部分に散らばっていた無数の太い糸屑。その中に実は薄い糸が太い糸の中をバレないように慎重に張り巡らされていて、太い糸に気を取られていたマサムネは何も気付かずに自ら罠に踏み込んでいた。




 アラクネが指を糸を手繰り寄せることで、空中に糸が浮かび上がり一瞬にして中に存在する獲物に向けて収束を始めた。




「うおっとぉぉぉ!! 」

「マサムネ!!!! 」




 ここから走って向かったんじゃ間に合わない。その頃には既にマサムネは糸に体をバラバラに寸断されて刺身になっている。




 だからこそ、俺は手に持っていたショートソードを投げた。有らん限りの力を込めて全力で投擲した。

 狙いは勿論マサムネだ。手加減無しで投げ込んだ剣をマサムネは間一髪でキャッチすると迫り来る糸よりも早く地面へと突き刺した。




 ギリギリと硬い物同時が擦れる嫌な音が流れ、埃や土煙が視界を遮ったので結果がどうなったのか分からない。俺は急いでマサムネの元へと駆けつける。




 間に合ったか……?










「助かったぜ……」




 紙一重、糸よりも早く突き刺した剣と刀の結界が人間一人分の糸避けの空間を作り出し、その僅かなスペースでマサムネは生存していた。




「お前って本当馬鹿なのか? 幾らなんでも先走りすぎだろ! 俺がいなかったら今頃はお前が輪切りになってたところだぞ! 」

「悪かったって……俺様、キレると周りが見えなくなるからってチノちゃんによく怒られてるんだ……気にするな! 」

「するよ普通!! ……まあ、今回は不問にしてやる。その代わり、コイツは二人で殺る、良いな? 」

「……仕方ないな、今回ばかりは俺様の分野じゃないから共闘を許可するとするか……今回だけだぞ!? 」

「お前ってば何様だよ……」




 こうして、どこまでも自己中心的な男とのタッグが結成されたわけだが、前途多難である。

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