ブービートラップ
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「おらぁ!! さっさと出て来いや!! 」
正面突破よろしく、重く閉ざされた扉を蹴破り中へ堂々と入りマサムネは叫ぶ。
刀を背中に乗せながら張り裂けんばかりの怒声を上げるマサムネはまるでタチの悪いチンピラみたいだった。
「ふむ、誰かと思えば妾の子供達を殺してくれた不届き者達ではないか」
女性特有の艶のある声がホール並に広い部屋の奥から響き、奥の台座に鎮座する存在が明らかになる。
薄暗い部屋の中に映る朧げな影、最初は発達の良い肉体美を持つ女性がこちらを見据えているのだと思っていた。
だが、歩み寄ることでその実を知る。俺達が見ていたのはただの仮初めの姿にしか過ぎなかったことに。
異形……としか言い表せなかった。
腰から上までは女性の姿、それも中々に美しい造形の甘美な女性像。だが、腰から下が人ならざる異形な姿なのだ。
先程までに相手にしていた大蜘蛛達よりも一際大きい蜘蛛、そんな蜘蛛が女性の体の下半身に接合していた。
上は人間、下は化け蜘蛛。未だかつて出会ったことないモノとの会合は唐突すぎて頭が付いていかない。
「うふふふ、どんな輩かと想像してたが、まさかまだまだ育ち盛りの子供二人だったとは……驚いたぞよ」
「へん、だからなんだってんだ! 俺様こそは今からお前に最後をくれてやるべき至上の存在!! ガキだからって油断してると命取りだぜババア!! 」
「……青二才が、妾を蜘蛛の長アラクネと知った上での狼藉かの? ……ふん、まあいい、そんな台詞を吐いたからには覚悟はできておろうな? 妾まで辿り着けたなら、なに、相手をしてやらんでもない。精々励めよ雑種共」
恐怖などおくびにも出さず、啖呵を切ってのけるマサムネに眉一つ動かさず余裕を見せるアラクネ。
両者の間に割って入るのは天井から落ちてくる無数の影。森に入ってから見慣れたシルエット。
自分達の主人を守る為か、アラクネを中心に展開する蜘蛛の陣は、外で戦った時と比べて些か熱り立っていた。
「よし、行くか」
「ちゃんと付いて来いよ? 」
「笑止! あいつを打ち取るのは俺様だからな!! 」
軍団とも言っても過言ではない程統率の取れた群れに向かって、ほぼ軽装の二人ぼっちが走り出す。
互いに邪魔にならぬ様、離れて群れに突っ込もうとした瞬間、部屋に差し込む光が何か細い物に反射して体が即座に危険信号を発令した。
「マサムネ止まれ!!!! 罠があるぞ!! 」
「まっ……じかよ!! 」
俺は体を捻りながら光る物質を避け、マサムネは刀を地面に突き刺して体の勢いを削ぎながらその場に急停止する。
見れば、光が差し込まない陰影の部分にいた所為で反応が遅れたマサムネの肌が浅く切れている。
細い線の様な切れ込み、それも無数に付いた傷跡から想像するに、マサムネの肌を切った物の切れ味は抜群なのだろう。
見れば蜘蛛の周りを取り囲み、外からの侵入者に対して展開されていたのは、細く視認することも難しい糸だった。
「痛ってえー、危なかったぜ……サンキュなレイ! 」
「気を付けろ、さっきみたいに簡単にって訳にはいかないらしい……」
「だな、この邪魔な糸も意識しながら立ち回らないといけないのか……うーん、面倒だな」
事実、何も考えずにまともに突っかかっていれば、今頃俺達は仲良く揃って細切れエンドだったに違いない。
周到な準備の為せる技、どうりで奴等がわざわざ天井から降りてきたわけだ、それも糸のトラップに引っかからない為と、さも登場に違和感を覚えないように偽装されていた。
「やるではないか。ククク……脳筋のうつけだと見くびっていたが、存外、頭を使うだけの要領は備えているみたいだな」
「クソッ! 天才相手に卑怯な真似しやがって……だがな、俺様は学習する天才なのだ! 二度と同じ手は食わんからな!! 」
「この児戯は妾にとって小手調べでしかないぞよ。それとも何か? この程度の遊戯で既に手一杯だと言うなら手心を加えてやらんこともないが……どうじゃ? 」
プチ……。何かが切れた音がした。
「ゆ、許さねぇ……天下無双天井知らずの俺様に対してその態度……許さねぇ……」
「マサムネ? 」
「カッチーン!!!! 絶対ブッ殺すかんな糞ババア!!!! 」
煽り耐性皆無の男は、自制が効かずに怒りを露わにして叫ぶ、怒りの咆哮は天を突き刺した。
マサムネは飛んだ、糸も蜘蛛の群れも置き去りにして高く、高く飛翔した。
目を見張る跳躍力で阻害する存在を全て飛び越え、怒りの矛先の目の前に降り立つ。
皆一様に一連の流れを眺める傍観者となり、気が付いた時にはマサムネは息巻きながらアラクネを指差して笑った。
「来たぜ……糞ババア……!! 」
ブチ切れモードの男は、爛々と双眸に怒りを込めながらアラクネに言い切った。




