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やるべきこと

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 嵐のように現れた若者、名はアマノ・マサムネ。

 名しか知らぬ豪快に笑うこの男は一体何者なのか。




 一人でとうとうと答えを出す事ができずに、打開策を求めただ警戒しながら会話を試みることにした。




「お前の目的は何なんだ? 」

「俺様の目的? それはだな……」

「アマノ一等兵! 何を先んじているのですか! 」

「げっ!? 見つかってしまったぜ……やれやれ、人助けをするあまりに時間が食ってしまったか……」




 急にリアクションを取るアマノと名乗る男は、慌てて建物の影に隠れようとするが時すでに遅し、影で体育座りで隠密をしている所を見抜かれて耳を千切れんばかりに引っ張られながら立ち上がった。




「い、痛い! 痛いってチノちゃん痛いから! 耳が、俺様の耳が取れちゃうから!! 」

「いっその事とってしまえば良いのです! こんな命令違反で人の話も聞かず勝手に行動する耳など……取れてしまえば良いのですよ! それに誰がチノちゃんですか!! 」

「す、すまん! 今度からは頑張るから!! なるべく聞くようにするから勘弁してくれ!! 」

「それが……上官に対する言葉遣いですか!! その場に直って腕立て伏せでもやってなさい! 」

「サ、サーイエッサー!! 」




 隠れていたマサムネを叱咤し、罰と称して腕立て伏せを命じた人物は、なんと女性でおまけに背中に自分の背丈ほどもある弩弓を背負っていた。




 濃い緑の制服におかっぱ頭の短い髪、キリッとした目が特徴の女の子。歳は明らかにマサムネと呼ばれる男よりも下だろうに、あろうことか腕を組んでその場で必死に腕立てをする様を見下ろしている。




 こちらの視線に気づき、その鋭い眼光が対象を変えだと思いきや、歩み寄って体を直立させた。

 一糸乱れぬその所作に清廉さを感じ、敬礼されるが否や、思わずこちらの背筋までピンと一つの線が入ったみたいに伸びてしまうのだ。




「我が部隊の新入りがお見苦しい所をお見せしてしてまい、誠に申し訳ありません。我々は新政府軍の者です」

「新政府軍? 何ですかそれ? 」

「レ、レイ! 前に説明したじゃん! 私達の居た村の警備に当たってくれていた軍の正式名称なの! 」

「そう言えば……そんなことを言っていたような……」




 記憶の淵から思い出すにつれ、何となくだが思い出してくる。警備だけってその時は聞いていたのだが、見るからに警備よりも遥かにゴテゴテしていて物騒に見えるんですけど。




「我々はこの大陸における都市や村の警備に紛争やモンスター討伐の任も請け負っておりますので、要は戦闘における平和維持のプロフェッショナルなのです」

「それで、その中でも取り分けて優秀な人材が集まるのが俺様の所属する第七独立戦闘部隊だ!! 」

「誰が腕立て伏せを止めろと言いましたか!? 私が止めろというまで続けていなさい! 」

「サ、サーイエッサー!! 」




 この男は馬鹿なのか、わざわざ言わなくても良いことをベラベラと喋るあまり、怒りを買って火に油を注いでいる。




「……まあ、この馬鹿が言った通り、私、チノ・カプリオ伍長とアマノ・マサムネ一等兵は第七独立戦闘部隊に所属しており、今は軍の命でモンスターの討伐に向かっていたのですが……既に倒された後のようですね」

「それは俺がやりました……ここをさっき訪れて不審に思い外に出たら襲われて止む無く……」

「いえ、そちらにお怪我が無ければ良いのですが、何分このあたり一帯にまだ残党が多数いるやも知れませんね」




 話を聞くと、化け物はこの二体だけじゃなく、他にも数が多くてそれら全ての討伐が今回の任らしい。




 腕立て伏せを延々と続けるマサムネを他所に、一人で状況調査と言わんばかり、建物に入って何やら調べ物をしている様子、僅かの時間だがサッと見渡して外に戻ってきた。




「ふむ……この様子だとまだ襲われてから時間はそう経っていないみたいですね……もしかしたらまだ生存している可能性も……アマノ一等兵! 腕立て伏せを止めなさい」

「や……やっと終わったんだぜ……ぜぇ、ま、まだまだ……余裕だったのによ……ぜぇ」

「これから森の中に進入してモンスターの撃滅と襲われた人々の救出を行います」

「お、おう……やっと出番が来たわけだな……うぇ」




 誰がどう見てもやらせ過ぎである。この男も何だかんだ言いながらも全力で腕立て伏せを続けていたので既に顔は真っ赤で肩で息をしているではないか。




「ですが、この一般人の方々をどうするか……このまま見捨てて置くわけにもいかないですし……」

「あ、それなら大丈夫ですよ、俺達なら自分の事は自分で守れますからお気遣いなく」

「なっ!? 相手は凶悪なモンスターですよ? 幾ら二体程度を何とか倒せたと言っても女性三人を連れたまま襲われると無事じゃ済みません! 」




 ぐっ……確かにそれはそうなのだが。




 もしもさっきみたいな奇襲が連続して続いたりして、あまりにも敵の数が多かった場合は、物理的に守ることが叶わない可能性も出てくる。




 だが、かと言ってこのままこの二人に付いて行くなど論外だ、むざむざ死地に三人を連れて行くなど馬鹿のすることにも等しい。




 ここで待つことを視野に入れて考えようとしていると、ここまで口を閉ざしていたエレナが突然口を開いた。




「……私達の事は良いからレイは牧場の人達を助けて」

「えっ? 」

「もしかしたら……牧場の人達が生きてるかもしれないんだよね? なら、助けてきてあげて」




 その瞳はいつになく真剣で、今まで見たことが無い位に俺をジッと見つめていた。




「正気か? そんか他人を助ける間に三人の事はどうするつもりだ? 」

「私達ならこの家に隠れとくから大丈夫、チビが居れば何とかなりそうだし……それよりも助けられる命があるのならそっちを優先すべきだよ」

「俺は三人を守るのが役目なんだ。他の奴らがどうなっても関係無い。だからそれは飲めない相談だ」




 エレナは助けを求めている人がいるなら、きっと手を差し伸べてしまう程にお人好しな女の子なのだ。そんな彼女ならきっとこう言う、分かりきったことだった。




 だが、俺にはやるべきことがある。優先すべきは三人の安全、取り分けてエレナの安全を第一に考えて行動すべきなのだ。幾らエレナの頼みでもそれはきけない。




「駄目、貴方は助けられる力を持っている。そして助けを求めている人が直ぐそこにいる。なら助けなくちゃ、あの時みたいに……貴方なら出来るでしょ?」




 あの時……。




「それで私は救われたんだから、今度は他の誰かを救う番なんだよ……きっと」

「でも、それでも俺は……! 」

「行きなさい! 」

「……」

「……我儘言ってごめんね? 」




 力強く、こちらを見据える澄んだ瞳。

 その意見を言ったのはエレナだったが、ポーシャもミハルも、思う所は同じで俺を見つめていた。




「……分かった、直ぐに終わらせて帰ってくるから待っててくれ」

「ありがとう……気を付けてね」

「すいません、俺もその救出作戦ってのに加えて貰えませんか? 」

「……命の保証は無いですよ? 確かに腕は多少は立つみたいですが、我々も恐らく手一杯で守る事も出来ません……それでも? 」

「いいです、自分の事は自分で守れますから」

「……よろしい、携行を許可します。……それと、そちらの三人に……先程店内を調べていた所、厨房に地下の隠し部屋がありました。ハッチを開いて中に入れば外からは先ず進入出来ないでしょうし食料も豊富にあります」




 エレナ達は互いに顔を見合わせると直様行動を開始し、残った俺達は鬱蒼と生い茂る暗い森の中へと足を踏み入れていくのだった。

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