表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/113

飛び入り

 ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎





「おいおい、人よりデケェ蜘蛛なんて聞いたことないぞ……」




 体に残る痺れを感じながら呟く、敵は人間ではなく蜘蛛。それも人よりも大きな巨軀の化け蜘蛛。

 これで全ての糸が一本の道筋として繋がった。今回の異変の鍵はコイツが握っているに違いない。




 適度な距離感を保ちつつ、俺は敵の間合いを探りながら剣を強く握りこんだ。




 くぐもった嫌悪感のある声。蜘蛛は口から耳障りな音を出したながらこちらを威嚇し続けている。

 蜘蛛の瞳は獲物としてこちらを捉え続け、どうやって狩りを楽しもうかと画策しているのだろうか。




 一般的に蜘蛛は昆虫の中でも節足動物門六脚亜門に属する昆虫とは全く別のグループに属する。差異として挙げられる昆虫との主な区別点は、脚の数が八本であること、頭部と胸部の境界が明確でないこと、触角を欠くことなどがある。




 本の中で学んだ程度で、後は個人的に見聞きしたレベルなのだが、正直ここまでの大物がいるとは知らない上に思いもよらない。




 通常、蜘蛛は肉食性で、どの種も自分とほぼ同じ大きさの動物まで捕食する。捕食対象は昆虫類から同じクモ類、軟体動物、小型の脊椎動物まで多岐にわたる。文献の中に記されている通りなら、実際にはカエルやネズミはよく捕食するようである。




 それがこのサイズ……人を食べるなんて朝飯前だろうに。




 口には鎌状になった鋏角があり、上顎とも呼ばれる鋭い部分は、まともに喰らうと軽い怪我では済みそうもなかった。




 だが、唯一の救いはこの蜘蛛、体の大きさの所為か小グモ等と比べて動きに俊敏さが無い。一つ一つの所作が全て格段に遅いのだ。




 蜘蛛の振り回す腕先に付いてある刃のような大爪も、当たらなければどうということもない。全て紙一重で避けながらその動きの緩慢さを観察していた。




 ブラフ……かもしれないけれど、ここは時間をかけないためにも早々にケリをつける。時間をかける程にエレナ達に危険が近づくかもしれない。




 こちらから攻める姿勢を取り、俺は両足に力を込め、地面を大きく踏み込んだ。

 狩る側だと思っていた蜘蛛は、自身が狩られる側に立っていることをまだ自覚できておらず、肉薄することは容易かった。




 正面からの特攻は流石に無謀と考え、頭部よりも幅広い胸部辺りを大きく切り裂いた。胴体を半分ほど切断されたのだ、柔らかい肉質の所為もあり、寸断された体からは多量の体液が溢れて地面にシミを作る。




 と同時に、遅れてきた激痛に蜘蛛は体を痙攣させながらカチャカチャと金属音にも似た音を出して暴れようと体を震わせた。断末魔に近い最後の抵抗、




 二、三度同じリズムで暴れるだけ暴れ、何もされる事なく蜘蛛の命はそこで事切れた。完全に動きが止まった事を確認すると、剣に付いた汚い付着物を振り払いながら鞘へと収めた。




 終わった事を確認すると能力を解除し、扉一枚挟んだ向こう側に避難させた三人の事を案じて大きめの声で話しかける。




「弱いけど……早い所逃げた方が良さそうだ。エレナ!! 終わったから出てきても良いよ!! 」

「……本当? ってうわぁ……何この大きい蜘蛛……」

「だ、だめです! 私……蜘蛛が苦手なんです!! 腰が引けて動けない……」

「お兄さんが急に護衛っぽい事を言ったからミハルは驚きました……」

「いや、俺は最初からそうだって言ってるよね? 」

「まあまあ、キリッとしてて格好良かったですよ? 」

「そりゃどうも、でも今回の相手もそんなに強くなかったし褒められる程じゃないな、体はデカイが動きは鈍かったし」

「流石にここまで大きいサイズの蜘蛛ちゃんは、ミハルも見た事ないですねー、ほら、ポーシャ姉さんもちゃんと立って」

「ううぅ……怖い」




 意外にもミハルは別段この化け蜘蛛を見てもどうもしないらしく、一番腰が引けて動けないでいるポーシャの肩を持って介抱してくれていた。




 ポーシャはいつもの気丈さは何処へやら、泣きそうな顔をしてミハルにしがみつく姿は幼児を連想させ、心の安定剤として逃げようとするチビを半ば無理やり抱きしめている。




 胸に顔を埋めるチビは、胸と腕による圧力的な圧迫を受け、半ば白目になりながら苦しみに耐えていた。




「それにしても……こんなモンスターがいるって事は、ここに長居するのは良くないかもですね? 」

「だな、俺だってこの程度が幾ら居ても負ける気はサラサラしない……けど、三人を守りながらだと話は別だ」

「じゃあ、早くここから逃げましょうよ〜!! 」




 涙ながらに訴えるポーシャは、限界だと言わんばかりに涙腺を肥大させ、眼鏡の奥には純粋な少女にも似た輝きが。これ以上は彼女の精神に支障をきたす恐れもあるという事だ。




「ん? 」




 足早にその場から立ち退こうとするが、その瞬間にある事に気付いた。外は光を遮るものがなく直射日光が直に当たるはずなのに、自分達のいるこの場所は何故か巨大日陰が出来ていた。




 建物の影とは違う影……それも小刻みに動く不審な影が闇から姿を現したのは、既に自身が動き出したからでもあった。




「危ない!! 」




 咄嗟に未だに気づく事のない三人から離れ、単身で宙に向かって飛翔した。剣を抜くのは間に合わない、悟った俺は能力を瞬時に発動して顔に向かって拳を突き出す。




 交差するように迫り来るは上顎から覗く鋭利な牙、突起状の針も口から突き出ていて急所を狙って繰り出されていた。時間を止める事もできず、自身の傷を受ける覚悟で俺は蜘蛛の顔面を殴り飛ばそうとした。




 能力で傷は治す事が出来るのだ、多少の無理はしても三人を守れるのなら御の字……だから俺はやる。





「そうはさせねぇ!! 」

「なっ!? 」




 拳が先に蜘蛛の頭部を粉砕し、次いでボロボロになった先端から繰り出される相打ち覚悟の一撃がお見舞いされかけた瞬間、何者かの大声が蜘蛛の更に頭上から降り注ぐ。




 若い男の快活な声、そして遅れて一振りの刀が崩れ掛けの頭部を縦に真っ二つ。蜘蛛は結局俺に攻撃を当てる事なく絶命した。




 空中で足場を失い、二人の男と蜘蛛の死体は重力の影響で自由落下を始め、僅かの時間を経て地面へと降り立つ。




「いやー、危ない所だったな! だがまあ、俺様の美技がお前の命を救った訳だ! 怪我は無いか? 」

「お前は誰なんだ? 通り掛かりの人助けとは到底思えないんだが……」




 助けとして間に割って入ってくれたことには感謝するが、得体の知れぬ男を直ぐに信用する程俺はお気楽主義ではない。さりげなく柄に手を当てながら疑問を投げかける。




 すると、男は待ったましたと言わんばかりに得意満面な顔をして、すうっと息を大きく吸い込んで続けた。




「おぉ! よく聞いてくれた! よーし、一度しか名乗らないからよーく耳の穴をかっぽじっって聞きやがれ、俺様の名前は……アマノ・マサムネだ!! いずれこの世界で最強の名を欲しいままにするであろう男の名前だ……覚えとけ!!!! 」




 空に向かって両手を広げ、耳を覆いたくなる程に空気が張り裂けんばかりの大音量でそう答えた若者は、自信たっぷりにそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ