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質問

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 俺は気配を消して三人の様子を観察していた。




 自身の存在を周りの空間と同化させ、限りなく近くで獲物を狙う技は獣のもの。

 今は白狼の力だけを集中して使っているから、常人ではできない事もやってのけるのは簡単なのだ。




 気配を消して近くに潜んで会話を聞いていると、心の底から憎悪の感情が泉の如く沸き上り、頭の中が黒い感情に汚染されていくのを感じる。




 怒りに身を任せて、有り余る力の氾濫に身を投げてしまいたい。そうすれば何も抑える事のない無慈悲な力が相手に地獄を見せることができるだろう。




 それだけしてもまだ怒りは残る程の悪漢達、何も知らないエレナ達の事を思うだけで胸が苦しくて熱いものが込み上げてくる。




『……俺を使え』




 頭の中に、心の中に入り込んでる悪魔の囁き。

 他人に体と心を明け渡す事は躊躇われるのに、不思議と手を伸ばしてみたくなる感覚に囚われる。




『無理はするなよ……俺には分かってる……』




 暴れたいし叫びたいし遊びたいしグチャグチャにして殺してコロシテころしたい……




 ……今のは誰の声だ? 




『おっと……俺じゃないぜ? この声は……』





 耳に聞こえるか聞こえないか分からない絶妙で甘美な声が俺に囁く。




『……お前の本心だ』




 そうか、これが俺の本心なのか……。




 その一言を言った時が、薄まった自分の理性が弾け飛んだ瞬間だった。







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 暖かくて、生温くて、喉の奥に絡み付く。




 赤い液体が仮面の隙間口から流れ込んでくる。

 一舐め、二舐め……と、口の中で何度か舌の上で転がしてみると野性的な味がする。




 最近はどうも血生臭さから遠退いた生活をしてやがった所為か懐かしさすら覚えるこの感じ……やっぱりこれだ、これこそが俺の求めていたもの。




 拳でやるのも良いが、こうして剣でスパッとやるのも見た目が綺麗で、上がる血飛沫なんか素敵なアートみたいだろ?




 取り敢えず一番ウザそうなデカブツはこれで落ちた……まあ、両手を落しときゃ死ぬだろ。




 残りの雑魚二人はどうやってストレス発散に使うか……それが問題だな。




「お、お前は誰なんだ!? 」

「俺はなあ……お前達が殺ろうとしてたターゲットだ。運が悪い事に俺はその件で話をしに来た」

「ば、化け物かコイツ……」

「人を化け物呼ばわりしてんじゃねえよカスが」




 俺の女に手を出そうとした落とし前を付けないといけないんだが、いかんせん体が脆そうで不安が残る。




 初めに両足の関節を外して……っと、おいおい暴れんなよ、爪が間違って喰いこんじゃうじゃないか。

 血が少しだけ出て、肉が抉れたけど……死にはしたいか?


 


 簡単に死なれると困るから何とか生きていて貰わないと……ストレスが全然発散できない。




「あ、そう言えば一つ気になった事があったんだっけか……なあ、お前らに聞きたい事があるんだけど……答えないと殺す、答えても真面目に言ってないと分かったら殺す、いいな? 」




 喋る余裕もなく、ただ頭を高速で上下に振る様は見ていて面白いが、そこが本題じゃない。




 面についた血を拭いながら俺は言葉を続けた。




「どうしてお前達は俺らの場所を知ってたんだ? 比較的かなり安全だと聞いていた道でまさか夜に都合よく襲われかけるなんて可笑しいだろ? それも初日からだ……都市からもっと遠くに移動してから襲った方が発見もされにくくて都合が良いだろうに何故? 」

「そ、それは……」

「まあ、それは偶然って事で片付けてやっても良い……が、気になるところはそこじゃない。馬鹿は気付いてないようだったが俺は違う。お前達……どうして俺達の”人数”と”性別”と”年齢”を知っていたんだ? 出会ってもいない野盗の癖に知ってるなんて可笑しいよなぁ? 」

「うっ……」




 核心をついた一言に目を示し合わせる余裕も無くなる二人を見て確信を得た。コイツ等はただの野盗風情ではない。




「おいおい……だんまりを決め兼ねてると……こうなるよ? 」

「ちょ、ちょっと待っーー」

「待ってるのは俺だから」




 二人の内、一人の首に優しく手を置き、上に少しだけ持ち上げてあげると簡単に首は外れた。




 関節がーーとか、骨がーーとかじゃなくて、正真正銘首が外れた。つまり……胴体と頭部が完全に分離した。




 プチプチと小気味良い音を立てて肉の繊維が一本ずつ千切れて、分離するまでの一瞬が快感に支配された濃密なものとなる。




 ああ……気持ち良い……。




 ついやっちまったけど、人の体は脆く、儚げで俺が触れてしまうと何時もこんな風に簡単に壊れてしまう。




 子供が積み木を積み上げて崩すのが一瞬で終わるように、俺にとっての楽しいと思える瞬間は直ぐに終わってしまう時間なのだ。




 千切れた頭からは色んな物が溢れ出ていて、目が天を向くように白目になり、口からはだらしなく舌が伸びきって出されていた。




 少しは気が晴れたので、用の無くなった文字通りの生首をそこらの草むらに投げ込み、もう一人の生き残りの首に同じ様に手を掛けた。




「俺は気が短いんだ……だから早く答えてくれないか? じゃないと、自分でも何を仕出かすか分からない」

「お、俺等は! た、頼まれたんだ! 」

「ふーん、誰に? 」

「そ、それは……知らない……」

「言えないの間違いじゃなくて? 」




 念の為に男の指に付いていた傷だらけの爪の中から、特に大き目の親指を選んで優しく”剥いだ”




 叫ばれても煩いので、片手で口を顔ごと塞ぎ、痛みで動かない様に首筋にも手を当て続ける。




「ほ、本当なんだ! 仕事に関してはいつも兄貴が受けてくるし……今回だって同じーー」

「じゃあ、質問を変えよう……知ってることを全て話せ、良いな? 」

「しし、し、知ってることって!? 」

「だから……全部だ全部、俺達に関係する事は全て話せ」




 記憶を思い出しやすい様、俺は更に優しく彼の爪を”撫でて”やり、痛みで覚醒した脳は嗚咽しながら言葉を話す機械と成り果てた。



「依頼内容は四人を殺す……手段は問わないと」

「そこで俺達について聞いていたのか……? 」

「そ、そうだ! でも、こんな手練れが居るなんて聞いてなかった! 」

「そんな事はどうでも良い……他の事を話せ」

「あ、兄貴は他にもこんな事を言ってた……黒い服を着た……依頼主で……顔に変な模様が入ってたって……」

「模様? それはどんな模様なんだ? 」

「わ、分からない……ただ、見ているだけで気味が悪かったって……! 」

「なるほどねぇ……他にはあるか? 」

「な、無い! これで全部だ! だから俺をーー」

「あー、もう良いやお疲れ」




 これ以上声を聞くのも目障りだったので、同じ様に首を引き千切り草むらへと首を放り投げた。




 少ない情報しか得られなかったがこれでハッキリした事が幾つかある。

 



 この旅は決して簡単な物ではなく、危険が付き纏う旅だという事、そして、それを知っているのは今の所は俺だけで旅は中止出来ずに三人には知らせてはいけない事。




 理由は幾つかあるが、一番はこの旅をもし辞めても彼女達には危険が付き纏うだろう。それは依頼主という不確定な存在がいる以上、こうして移動しながら俺が三人の身柄を確保しつつ、一人で黒衣の人物の究明を進める方が遥かに安全だからだ。




 もしジェノヴァなんかに戻ってみろ、暗殺者でも差し向けられたら三人同時には守りきれないし、土台この話を叔父さん以外の人間が信じてくれるかどうかすら怪しい。周りにも被害が出てしまう可能性もある。




 俺が一人でやるしか無い。




 俺が彼女達を守り、そして黒衣の人物をーー殺す。




「俺が三人を守るんだ……」

「それはどうだろうな! 」

「お……っまえ! 生きてたのか!? 」

「生憎と体だけば頑丈でな……隙を窺ってたのさ」




 思案に力を注いでいた時、後ろから殺意を感知して横に飛び退いたーーが、俺の背中に深々と男のもつ剣が突き刺さっていた。




 痛みに耐えながら後ろを向くと、両手を寸断した筈の頭目が何事も無かったかのように立ち上がり、”無くなった筈の両手”で得物を突き立てたのだ。




「子分達の仇……取らせてもらうぜ」

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