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おでこtoおでこ

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 倉庫はお店と納屋の間に位置する、小さなプレハブ小屋の様な建物だ。お店の在庫は全てここに入っており、正に生命線を司るといっても過言では無いほどに重要な場所である。




 勿論、おいそれと大事な場所を何も対策無しでいるほど商人は甘くなく、当然の様にセキュリティは万全にしてある。それも高性能で多機能を有しており、癒し成分まで持っているセキュリティだ。




 扉を開けて中に入る前に、その門番が俺の頭に体を乗せて戯れようと飛び付き、少し前と比べて重さを増した体にこちらの軸がブレた。




「……お前……ちょっと太った? 」

「ギィ! 」




 お店のライフラインを守る究極の門番兼看板龍のチビは、小振りな尻尾をフリフリと左右に揺らして俺を見下ろしていた。




 チビはルシルフル・エンポーリオのマスコットキャラとして既に周囲から確固たる地位を獲得していて、その人気は未だに留まる事を知らない天井知らず。




 只でさえ珍しいドラゴン、その子供に会えるとあっては見に来る見物客も少なくはなく、近所の子供から買い物客のおばちゃん、高齢の方々にまで愛されるアイドルっぷりである。




 試しに食事代と称して小さな賽銭箱を首から吊るしてみると、あっという間にチビの食費を賄えるだけの食べ物と金銭の募金が集まり、チビの食欲に困ることはなくなった。




 雇用金ゼロの用心棒は、持ち前の嗅覚や動物としての勘を働かせて、本来の仕事である門番の仕事もキッチリとこなしていて、何かを察知して倉庫まで何度か走り、これまでに盗人を数人黒焦げにしている。




 更に、チビと双璧をなす看板娘のエレナに言い寄ってくる有象無象の輩をチビは全て撃退しているなど、年頃の娘を持つ叔父さんは大歓喜。




「でもなぁ……何でお前はいつも俺の頭の上に乗りたがるんだ? 他の人間には乗りたがらないくせに」

「ギィ? 」

「お前が成長していく程に、俺の頭と首が軋み始めてるのが分かってるか? このままだと、お前に首の骨を折られかねんから、食べるのも程々にしとけよ」




 遊び足りないのか不満そうに尻尾でペシペシと後頭部を叩いてくるが意に介さず、本来の目的を果たす為にチビを下ろして俺は倉庫の中へと入る。




 躾はエレナがちゃんとしているので、チビは中に入ろうとはせず、入り口の前でウロウロと二、三度回ると諦めて店前に引き返していった。






ーーーーーーーーーーーー





 薄暗く埃っぽい中は荷物が至る所に積み込まれいて、何が何なのか、何処にあるのかは未だに自分でも分からない。物の配置を完全に把握しているのは叔父さんとエレナだけで、普段の俺はあまり足を運ばない場所だ。




 有り余る程の積み荷が折り重なってはいても、流石は商人、荷物の整理はキチンとしており、棚や線引きされた区画毎に規律正しく荷物は置かれている。




 そんな倉庫内で、ただ一つだけ整頓とは関係の無い場所は驚く程に目立ち、エレナの居る場所が何処かを視覚的に知らせていた。




 倉庫の一番奥の端、そこはエレナがよく一人で居たい時に使われる何も無い空間なのだが、今日に限っては女性一人位の大きさの何かの上に毛布が一枚掛かっていた。




「……エレナ? 」

「……レイ!?// ……っ!// 」




 布団をパッと広げて取ると、中には美しい乙女が自分の体を包む形で蕾の様に縮まっていた。

 顔を上げて、布を取り去ったのが俺だと分かった途端に顔を見せぬ様に素早く下を向く。一瞬だけ見れたエレナの顔は、やはり病気を連想させてしまう程に上気していた。




「どうして……ここに?//」

「そんなの……心配したからに決まってるじゃないか」

「そっか、ごめんね、仕事を放ったらかしにして。大丈夫、少し休んだらすぐ戻るから//」

「いや、俺が心配なのは仕事の事じゃなくて、エレナの体調の事なんだけど……」

「……ダメ!// え、ちょっとタンマ!//」




 何を勘違いしていたのだろうか、エレナは自分の思っていた言葉と違うことを俺から告げられたらしく、表情に動揺を隠し切れていない。慌てて両手を前で振って誤魔化そうとしても、起こってしまった事実と同様隠せぬ表情がそれを許さない。




「私ったらとんだ勘違を……恥ずかしぃ//」

「はは、確かに仕事の事も心配だけど、それ以上にエレナの方が心配なのは当たり前だろ? 」

「そ、そうだよね……うん」

「さっきはいきなり飛び出て行ったから、それで余計に心配になったんだ」

「だってそれは!// ……ごめん、なんでもないや//」




 少しは落ち着きを取り戻したものの、依然として彼女の体調は優れないのか、顔から赤味が抜けない。




「……ちょっとごめん」

「えっ?//」




 返事を待たずに、俺は蹲る彼女の腕のバリケードを退かし、自分の額を彼女の額に当てて温度を測った。




 数秒だけの時間が、無限にも感じられてしまう。

 少しだけやるのに勇気は必要だったが、それすらも彼女の身を案じる思いが可能にしていたのだ。




 伝わってくる温もりは明らかに熱く、しかも次第に温度が高くなってしまっていて彼女の目は泳いでいた。口が変な形に変形してしまって、目は泳いであわあわしているのは何故だろう。




 借りてきた猫みたいに微動だにしないエレナから額を離し、改めて得た判決結果を俺は告げた。




「エレナ、顔も赤いし息だって辛そうだ、風邪かもしれないから今日はもう仕事は止めて、部屋でゆっくり休んだ方がいいよ」

「……ふにゃあ//」

「……エレナ? エレナ! クソッ! 」




 返事がない、ただのしかばねのようだ。




 ふにゃふにゃと骨が無い軟体動物みたいになったエレナは、何度呼ぼうとも返事は無く、俺は予感が的中した事に舌打ちをして急いで部屋から彼女を担ぎ出した。

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