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病気平癒

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 朝、まだ日が昇ったばかりの時刻、目を覚まして辺りを見回すと、そこは昨日と同じ隔離された部屋だった。部屋の中には窓から差し込む陽気な日差しと、爽やかな風が目覚めを快適にしていた。




 何よりもまずは体の調子のチェックだ。頭……問題無し。上半身……問題無し。下半身……問題無し。よし、大丈夫。




 握り拳を作ったり、足先に力を込めたりして自分の体調把握を済ませ、無事に体が完治していることに歓喜していた。治りが早いのは早期発見と皆んなの看病のお陰かもしれない。




 どんな諍いがあったとはいえ、誰かが自分を見舞ってくれると言うのはとても嬉しいものだし、実際に来てくれただけでも心身ともに安らかになる。



 

 普段とは違う一日を過ごしたことで、周囲との関係の大切さに気付くことができた。




「おはよう、入っても良いかな? 体の方はどうだい? 顔色の方は昨日と比べてだいぶ良くはなっているけど」

「おはようございます」




 部屋の外から叔父さんの声が聞こえ、どうぞと言うのと同じにして、叔父さんは部屋の中を覗き込む様に顔を覗かせていた。




 昨日は叔父さんの帰りが遅かったみたいで、帰ってきた時分には、俺は夢の中に浸りこんでいた。




「体の方は全く問題ないですね、今日の仕事にも参加できそうですし」

「はは、そうかい。じゃあ、今日はエレナと二人で留守番を頼めるかい? 飛び入りの仕事の段取りで戻れそうにないんだ」

「二人……で留守番ですか……? 」

「そうだけど、それがどうかしたかい? ……んん! もしや昨日の夜からエレナの様子が少し変だったんだけど……レイ君……何かしたの!? 」

「し、してないです! 」

「本当かなー? 」




 する訳ない! むしろこっちが……とは、本人の為にも口が裂けようとも言うことはできない。忘れようとしていたモヤモヤとした思い出がフラッシュバックのように脳内を彩る。




 ケラケラと下衆の勘繰りを入れてくる叔父さんに対して、必死に違うのだと事実を伝えてみるが、叔父さんは尚も諦めようとはしない。




「君位の年頃になると、看病に来てくれる女の子が居るってだけで舞い上がっちゃうからねー。熱くなって頭がまともに働かなくなって布団に娘を……許せない! 」

「何を一人で妄想しているのか分かりませんけど、そんな事は毛頭起こらなかったです! 」




 あと少しで一線を踏み越えそうになっていたが、それは薬による不可抗力であって、実際は超えていないからセーフ、そう自分に言い聞かせ続けた。




「まあ、冗談はさて置き、今日は二人で留守番だけど、レイ君は病み上がりだからそこまで動かないで良い様にエレナに言ってるから、自分のペースで仕事をしてくれていいよ」

「分かりました、くれぐれもご無理はなさらないでくださいね。俺みたいに倒れると大変ですから」




 皮肉かい? と、軽く笑いながら叔父さんは部屋を後にして、俺もそそくさと着替えを済ませて店の方に赴いた。





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 店内の裏戸を開けて中に入ると、カウンターでテキパキと朝の事務処理をしているエレナがいた。

 遠目からではあるが、いつも通りの変わらないエレナがチョコンと鎮座している様に見える。




 だが、近付くにつれて、それが勘違いだと分かった。




 彼女は紙に在庫リストと店内に陳列されている商品の名前と個数を書き上げていたのだが、どうにも手に持つ用紙が逆さまで、おまけにペンの握り方も歪で顔も赤い。




 断言できる。今のエレナは普通じゃない。




「おはよう。昨日はありがとう、お陰で助かったよ」

「ふにゃ?// お、おはようっ……! 」




 簡単な朝の挨拶、それだけをしたつもりなのに、彼女は席を立ち、手に持っていた物を放り出すと駆け出してしまった。




 反応から察しても、何かが可笑しい。だが、その何かが何なのかは分からなく、もどかしさを痛感していると、カウンターの上に置いてある用紙に目が行く。




 そこには、エレナが書く時のいつもの女性らしい丸文字ではなく、適当に紙の上にペンをなぞらせていた様な適当燦々たる文字が羅列していた。




 阿鼻叫喚してしまいそうな謎の文面に目を通し、俺の心配が確信に変わった。




 『エレナは風邪を引いているに違いない! 』




 日頃からの仕事続きに加えて、昨日の看病で病人との接触、それに一応だがエレナもあの日は雨の中を傘差しとは言え歩いていたのだ。数日遅れで風邪を引いても何ら不思議ではない。




 一番の懸念は、昨日の一件でエレナが口にしたあの劇薬。あれが体調を著しく崩す原因となってると俺は踏んでいた。何故なら、一時的ではあるが人を人格ごと変えてしまうような薬品なのだ。




 それをあまつさえ、一気飲みしているエレナが不調を訴えない方が不自然だと言える。




 だが、エレナのことだ。もしかしたら自覚はしているのに仕事を優先して無理をしているかもしれない。いや、その可能性は高いだろう。




 男と違って彼女は幼気な女性、無理が祟れば風邪だけで済まないような重大な事に発展するやもしれない。




 ならばどうするかは自明の理。後は行動するだけである。俺はエレナの向かった裏手の倉庫を目指して踏み出した。




 看叔父さんは不在で、店には俺とエレナしかいない。ならば、尚更に看病の借りを返すなら今だろう。




 何が何でもエレナを休ませなければ。




 硬い決意を胸に、俺は倉庫の扉を開け放った。



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