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家庭用仕事着

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「ちょっとだけ……キツイなぁ……」




 謎の繊維の塊は、装着者に袖を通されることでその姿を眼前に晒し出した。




 大きく目に入ってきたのは青ベースの立派な着物に、和を感じさせる純白の上着、見るだけで分かる、これは立派な和装だと。




 体のラインが浮き出る絶妙なサイズについては、ミズキさん達がギリギリを狙って仕立てたのだろうか、出るとこは出て、それ以外はゆったりとした部分で強弱がついている。うん、最高だ。




「腕周りとかは結構余裕がありそうなんだけど……胸が……」




 ふわっと大きく作られた袖周りと、足先まですらっと伸びた丈の長い裾を見ていると突然のカミングアウトが。反射で反応してしまって視線が上に上がりそうになるが、意識の力づくで押さえつけた。




 だがしかし、欲望は思ったよりも強く、抑えきれずに返って遥か上に視線を飛ばすと、残りの黒の布が頭部にあった。因みに、一瞬だけ見えた絶景については伏せておくことにする。




 黒い布の正体は三角巾らしく、短く纏めた髪を包み込んでこれまた猫型のヘアピンで髪に留まっていた。




「でも、肌触りは最高ね」

「何だか嬉しそうですね? 」

「そ、そりゃ……まぁ、レイに来て欲しいって言われたから……」




 どもってしまうアンナさんは何だか汐らしい。




 清楚系というのだろうか、一見地味にも見える姿格好も、着る人が着る人ならば素材を引き立てる最高のスパイスになっていた。




「タグに書いてあったんだけど、これは割烹着って言うらしくて、どこか昔にあった国で女の人が家で着ていた服らしいわ」

「落ち着いた感じがいつもと違って似合ってますよ」

「そ、そうかな……//」




 これは本音だ。いつもと違って肌の露出面積が圧倒的に少ない筈なのに、これはこれで中々威力が高い。

 人は身に纏う服で雰囲気を変えると言うが、ここまで顕著に風変わりしてしまう人もまた珍しい。




 本人にはその気は無くとも、見ているこちら側からすると、この格好は最早コスプレと言っても過言ではないのかもしれない。




 などと目を奪われている時、不意に忘れかけていた三大欲求のうちの一つが腹の底から唸り声を上げた。




「あのさ……この服を着たからって訳じゃないんだけど……お昼作ってもいい? 」

「……是非お願いします」




 お恥ずかしい話ですが、俺には今はまともにご飯を作る体力があるのかも怪しいのである。この申し出は願ったり叶ったりで、少しでも何かお腹に入れて体力を回復したい。




 加えてアンナさんは相当に料理の腕が立ち、前回の件で見た目と味の両方がパーフェクトだった。万が一にもゲテモノ料理が出てくることはまず無いだろう。




「じゃあ、隣の厨房借りるわね。材料は大体買ってきてあったから道具と調味料は借りてもいい? 」

「後で二人に言っておくのでどうぞ」

「よーし! じゃあ、お姉さんが腕によりをかけて作っちゃうんだから! 」




 腕先を軽く捲ると、彼女は女性の戦場と呼ばれる厨房へと足を踏み入れた。

 




ーーーーーーーーーーーー





「ーーどう……? 」

「ンンーー美味いです! 何ですかこの料理! 」

「ふっふー、これは病人食で『お粥』って言うの。柔らかくて食べ易いし、消化も良いからね」




 やはり手馴れた手付きは本物で、淀みなく動くその姿は本職が料理人だと言っても何の遜色もない。

 調理工程自体が少ないのもあったが、それでも料理と片付けを同時進行で行う辺りが腕前が知れるというもの。




 優しい味が舌の上で広がり、喉を通って胃に運ばれては喜びの音が聞こえてきそうだった。




「忘れかけていたけど、そこまで喜んでもらえると料理人としては嬉しいものね」




 嬉しそうな顔を見るだけでこちらとしても幸せな気分になる。なんだろうこの感じ。




「でも……こんなに美味しいなら、毎日でも食べたい位ですよ! 」

「ま、毎日!? そ、それって……プロポー……」

 



 不意に顔を背けてしまったアンナさん、顔が茹で蛸みたいに真っ赤になっているのはどうしてだろうか。




「も、もしもだけど! お味噌汁とかも毎日作って欲しかったりする……? 」

「そうですねー……アンナさん程の腕前ならそれもいいかもです」

「や、やっぱりこれは……遠回しな……//」




 ソワソワとして落ち着きがなくなり、キョロキョロと視線が泳ぐアンナさん、その赤い顔からは何故か湯気が立ち込めて蒸気機関車みたいだ。




「……うん、これはきっと……だよね」

「あのー、さっきから一人でブツブツと大丈夫ですか? 」

「あー、うん、大丈夫、大丈夫だから気にしないで! 」




 気を紛らわせる為に手をブンブンと前に出して振るが、いつも見たいな動きのキレは全くと言っていいほど皆無だった。




 その声は熱に浮かされたような声色で、いつも聞いている覇気のある強さではなく、女性本来持っている柔らかなものだった。




 熱く湿った吐息を漏らし、火照った体を少しでも冷やそうと体が呼吸を荒げる。




「あ、あのさ……時間……貰えないかな? 」

「時間!? 」

「だって……いきなりじゃ困っちゃうから……//」




 突然何を言い出したの分からないけど……多分、これってお暇したい的な意味だよな。

 今日は美味しいお昼も作ってもらったし、病人と長くいるのも考えものだ。




「どうぞ、治ったらまたそちらに行きますから」

「そ、それまでにって事よね! 分かったわ! それまでには答えを決めておくから! 」




 こちらの返答も待たず、アンナさんは風のように部屋から去っていった。

 いまいち会話が噛み合っていなかったのだけれど、まぁ、治ってからちゃんと話せばいいか。




 美味な食事に舌鼓を打ち、食欲が解消されたことで今度は別の三大欲求が思考を縛りに来た。

 その欲求に抗うことはせず、大人しく俺はもう一度ふかふかの布団に滑り込んで意識を閉じた。

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