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お見舞い②

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「おおーい、見舞いに来たったでー……って寝とんのかい」

「……うぅん? ……あれ、皆さんお揃いで……」

「あー! スーの所為で起きちゃったー! 悪いんだ、悪いんだ! 」

「ミズキ姉さんも大概に五月蝿いですって……」




 マリアが帰ってから休んでいたところ、誰かに話しかけられた気がして、目を覚ますとドアの向こうに見慣れた顔が三つあった。




 ミコトさんとミズキさんとアンナさんの組み合わせが、どうやらお見舞いに来てくれていた模様で、手にはそれぞれ袋を提げている。




「それにしても、レイ君が風邪を引きよるとはなー、少しは熱は引いたん? 」

「……多少は良くなりましたけど、まだ体が怠いですね」

「体調管理は基本中の基本なのよー? 」

「……ですよね、以後気をつけます」

「まぁ、それを言うなら、ミズキは未だに生まれてこの方、風邪どころか病にかかったことがないから説得力はあるけど……」

「えっへん! 凄いでしょー! 身体だけは人一倍に丈夫なんだから! 」

「馬鹿は風邪を引かんったゅうことが、これで証明されてる訳なんやけどな……」

「あ? 何か言いましたか……? 」

「な、何もぉ? 」




 目の前で繰り広げられる夫婦漫才に、俺は思わず風邪も忘れて笑いそうになり、気管が痰で詰まって咳込んでしまった。




「こら! 二人ともお見舞いに来たのにレイの病状を悪化させててどうするんですか! 」

「「ごめんなさい……」」




 年甲斐もなく年下に怒られてしまう二人は、シュンとした表情で互いに顔を見合わせた。




 代わりに、アンナさんが俺の体を布団から起こすと、額に乗っていたタオルを取って近くに置いてあった氷水の入ったボウルに浸す。




 カラカラに乾いたタオルは、砂漠の中にいるヒビの入った大地の様に水分を直ぐさま吸収し始め、たっぷりと体に水を漲らせて水面に浮かび上がる。




 それをアンナさんが引っ掴み、タオルの水を絞ろうと滴る端と端に手を掛けた。



「お見舞いに来るのが遅くなっちゃったけど、エレナちゃん達は仕事なのよね? 」

「朝から夜までとは言ってましたけど、エレナは仕事を早目に終わられてくれるらしいです……」

「なら、今までずっと一人でお留守番していたの? 」

「……いえ、マリアが……来てくれましたけど」

「……え……? 」




 タオルを絞ろうとするアンナさんの腕先から力が抜けて、動きが一瞬だがフリーズしたのを俺は見逃さなかった。




「あの……それがどうかしましたか? 」

「い、いやいや! 何でもないわ、気にしないで! ……それで? お見舞いと言っても軽く様子を見ただけで帰ったのよね? 」

「どうしてそんな事を? 気になることでもあるんですか? 」

「べ、別に何もないけど!? 」




 隠そうとはしているのだろうが、バレバレである。

 心の声は顔という名のキャンパスにその隠したい様相を表してしまっていた。




「た、ただね! 姉として妹の近況は知りたいというか何というか……」




 さっきとは裏腹に、瑞々しかったタオルはアンナさんに力一杯絞り込まれ、絞り切られたタオルは俺が額に乗せていた時よりも更に見すぼらしいミイラに成り果てている。




 力の込めすぎで、布の繊維がボロボロに成りかけているのだが、怖くて何も言ってあげられない。




 すまない……マイタオル。




 言ってもいい……のだが、膝枕の件とか夢の話をするのはここではやめといた方が良いのかもしれない。

 無駄にマリアのプライベートを語ってしまって、それがバレれば俺の信用にも関わるのだから。




「マリアには、リンゴを剥いてもらいましたが、それだけでしたよ? 何も起こらず帰りましたし」

「そ、そっかー! うん、それなら良かった良かった!」




 一体全体、何が良かっというのか。

 やっぱり姉妹なのか、一人しかいない妹を心配して、男と二人っきりでいた状況を危ぶんでいるのだろうか。




 機嫌が良くなったアンナさんは、その凶器にもなり得る手で握りしめていたボロボロのタオルを俺の額に乗せた……のだが、水分の欠片も見られない布切れは、頭の上で何の効力も発揮しなかった。




「ふーん、なるほどねー」

「こら、かなりおもろい展開になってきてますなぁ」

「何で二人はそんなに楽しそうなんですか……」

「「いやぁ、何でもないですけどぉ? 」」




 俺とアンナさんの会話の一部始終をソッと見守っていた年配者二人は、揃って横から下卑た笑みを浮かべてこちらを見ていた。




 アンナさんはニコニコしていて何も気にしていないのだけれど、俺からすると、この二人がこんな表情を浮かべる際は、大概にして良くないことを考えているのだから心配になる。




 前はいきなり討伐戦に拉致されたり、他にも色々と前科があり過ぎなのだ。

 これは絶対に良からぬ事を考えているに違いない。




「アレー、シマッター! キョウハキュウナシゴトガアッタンダッター! 」

「ナ、ナンダッテー! ソレハタイヘンヤ! ボクモテツダウカラ、アトハワカイフタリニマカセテ、オイトマシヨカ! 」

「……物凄い片言で言われても……」




 二人はとても楽しそうな顔をしながら部屋の隅へと後退りをしていて、俺は顔を見て何かピンと来るモノを感じ取った。




「「んじゃ! アンナちゃん、後は任せた! 」

「……ふぇ? 」

「に、逃げる様に帰って行きやがった……」




 アンナさんに後を任せると言い放ち、二人は自分達は何かを悟ったかのように部屋から退散してしまった。




 若い部屋に二人きり、それも今度は姉のアンナさんとの二人きりだ。




 俺が最後に感じ取った二人の笑みの正体……それは………。




『面白い物を見つけた』



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