女の魅力
✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎
「ま、マジで? ドッキリとかそういうのじゃ……」
「本当ですって、ヒカリは正真正銘の女の子です」
「全然気付かなかった……」
帽子をいつも深めに被って、言葉遣いが”俺”だったからてっきり男の子だと思っていたけど、まさか女の子だったなんて。
「ヒカリの家は男兄弟が多いから、昔から口調も荒いし、喧嘩だってあの通り強いんですよ」
「世の中分からないことだらけなんだなぁ」
自分の見る目の無さに呆れ返り、良く良く思い起こしてみると、確かに何となーくだがチラッと見えていた顔付きが女の子らしかった気も……しないでもない。
最近はエレナとかアンナさんとかミズキさんとか、身体的発育の良い女性達ばっかりと接していたせいで目が曇っていたのかもしれないな。
あれ? 何だろう、何処からか殺気を感じるぞ……? ……気のせいか。
背筋に走る悪寒に身震いしながら、手早くベーカリーユニフォームに袖を通し、準備されていた帽子を被る。
「あれ? この帽子大きくないか? 」
「お父さんが昔使ってたやつなんですけど、ブカブカとなると……これでどうですか? 」
帽子がかなり大き過ぎて、頭に被せると丸ごとスッポリと嵌ってしまって前が見えなくなる。これはちょっと大きさが合わなすぎる。
代わりにニックに手渡されたカチューシャを髪を梳くようにパチっと嵌め込むと、料理人としての最低限のマナーである髪についての問題は解決した。
次に爪のチェック、汚れが無いか、伸びすぎていないか。
厨房用シューズに履き替えて、しっかりとベルトを固定する。
全てのチェック項目を済ませると、手をアルコール消毒でよーく揉み込んでから更衣室のドアを開けた。
「アニキ達も終わったんですね」
「お前は……誰だ? 」
「ガガーン! 俺の事をもうお忘れになったんですか? 俺はヒカリです、貴方の第二の子分の! 」
「全然分からないって……見た目変わりすぎだから」
ドアの向こうにエレナの姿はまだ無く、代わりにドアの前に一人の女の子が佇んでいた。
スッキリしたショートボブの茶髪は顎と同じ位の長さに切り揃えられていて、年齢云々よりも性別が逆転して見えた。
マリアよりも一回り年下の所為もあって、躰つきは男と何ら変わらないが、正面、真横、斜め、上方、下底、何処から眺めても女の子にしか見えない。
実に女の子らしい女の子。男に見える死角は存在しない。
「ぼ、帽子と先入観ってスゲェ……」
「ヒカリちゃーん、やっと髪が纏まったよーってレイもいたのか」
「エレナは……本物のパン屋さんみたいだな」
「そう? この制服が可愛くて素敵だからでしょ? 」
「いや、それ以前に……」と言いそうになってしまい、言葉を慌てて喉の奥に押し留めた。
何時もの長く伸ばされた紅い髪も、今では料理人スタイルのお団子ヘヤーに変身していて、少しゆったりした星のイラスト入りのハンチング帽の中に仕舞われていた。
男子用のポロシャツにズボンの服装とは違った、装いで、上は同じ感じのポロシャツだが、下の履き物がパンツでは無くネイビーのキュロット。
服を最大限に活かすのは、やはり人の持つ素材あってこそ。このベーカリーユニフォームの良さを引き出すのもエレナの素材あってこそなのだ、と言いかけてしまいそうだった。
「確かに、エレナさんはとっても素敵だと思います! 」
「ヒカリちゃんだって可愛いよー! 」
「そんな事ないです! ……お、俺はエレナさんと違って周りに男みたいだって馬鹿にされてたし……胸だって……」
「ヒカリちゃん! 」
「は、はい! 」
その場の三人が固まってしまう程の音量、エレナが突然声を荒げたのだ。
ジッとヒカリのことを見つめるエレナの表情は険しく、何かヒカリの言葉が琴線に触ってしまったのか。
「女の子の価値は胸なんかで決まったりしないよ! ねぇレイ? 」
「そ、そうだな! 」
「女の子は見た目も大切だけど、一番大切なのは中身だよ! 」
突然話を振られて、その場凌ぎで頷いてしまったけど、なるほど、エレナは見た目よりも中身重視派なのか……なるほどなるほど。
力説するエレナの顔は、女の子同士という事もあり、本音で話をしようとしていた。
「 私だって、ヒカリちゃん位の歳の時は同じ様にツルペタだったけど、成長期が来たらここまで成長できた。だからそう悲観に感じる事はないよ! 」
「そ、そうだったんですか!? ……じゃあ俺にも……」
「それに、外見だけをどんなに取り繕っても、いずれ大切な人が出来たらいつかはバレちゃうんだから。だから、女の子は中身で勝負しなきゃ! 」
「そう……ですね//」
「おやー? その反応は誰か気になる子でも居るのかなー? 」
「い、いませんよ!//」
「ふふ、本当かなー? 」
女性特有の恋愛トークで盛り上がる二人を横目に、俺とニックは何をして良いのか分からずにただ立ち尽くしていた。
会話に入れず、かと言って話を聞くのも小っ恥ずかしい。
それから数分間、二人だけのガールズトークは続いて、ようやく一段落着いたかと思ったら興奮冷めやらぬ表情でヒカリは話し出す。
「す、凄いですエレナさんは! 俺もエレナさんみたいな素敵な女性を目指したいです! 」
「私なんてまだまだだけど、頑張ってね」
「はい! だから今日から姉御って呼ばせてください! 」
「な、なんで!? 」
「だってカッコ良いじゃないですか! 尊敬できるし、アニキよりも同性だから話し易いし……」
「良いじゃないか、カッコ良いぞ姉御」
「もう、レイまで何言ってるの//」
「姉御! 」
こうして、前回のお返しも含めて、エレナは子供達から姉御と呼ばれる存在に昇格した。




