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懐かしい感触

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 借りていた剣を元の場所に戻し、三人の後を追う。




 橋の手前で始まったモンスターとの攻防戦、結果はこちらの損害はゼロ、向こうは全滅と、快勝に次ぐ快勝。




 ギルドの力の中心たるトップスリーに君臨するこの三人には、この程度の当て馬で本気の片鱗を見ることは出来ないらしい。




 その証拠に、戦闘中にも雑談が多く、賭け事を持ち込んだりしているのが良い証拠だ。




 俺達が渡っていた後に上げられていた橋も、無事に討伐が終了したことを確認した兵士が降ろしてくれていた。




 カタカタと軋む音を立てながら四人は門を潜ると、多くの人々が俺達を囲んだ。




「ありがとう! 」

「君たちのお陰で助かったよ! 」

「本当にギルドの人は強いんだね! 」




 浴びせられる賞賛の嵐、暖かく迎えられる拍手の波。




「どや? 悪くないやろ」

「そう……ですね」

「仕事の達成感って堪んないのよねー! 」

「あはは、姉さんは何時も始めはやる気ゼロなのに」

「何よー、私は何時だってみんなの為に頑張ってるわよん」

「主に自分の為やけどな……」

「そうっすね……」

「酷ーい! 」




 ミコトさんの問いに対して素直に答えてしまう。それだけ本当に悪くない、そう思っていたからだ。




「流石はミコト殿達だ、まさか彼処まで手早く済ませてしまうとは驚嘆に値する」

「まぁまぁ、これも僕らの仕事ですから。ほら、餅は餅屋にって言いますし、後片付けだけは宜しくお願いします」

「うむ、承った」

「あと、向こうで倒れてるサイクロプス、半分仮死状態にしときましたから、煮るなり焼くなり好きにしてください、目は潰したんで大分扱いは楽でしょうけど、鉄の鎖で全身縛ってください」

「重ね重ね助かる。これでまた貸しが増えてしまうな、ははは」

「また今度に、賭博でもして返してくれたらええですよって」




 黒鎧の隊長と二言、三言だけ話すと、プラプラと手を振りながらミコトさんは歩き出す。




 気になる俺は、横に居たアンナさんに話しかけた。




「あの……サイクロプスを生け捕りなんかして大丈夫なんですか? それに何に使うのかさっぱり……」

「モンスターは殺すのが鉄則だけど、中には骨が武器や防具、装飾品に代わったり、体の一部が滋養強壮の薬品に使われることもあるの」

「意外な使い道ですね」

「そうよ、モンスターは私達を脅かす存在だけど、奴等がいないと立ち行かなくなる存在がいることも確かなことね」




 人とモンスター、両者は相容れぬ存在に見えて、実は裏で密接な関わりを持っている。




 加えて、前から考えていた自分の力の使い方。自分の記憶探しと、エレナ達の為だけに振るおうと考えていた力も、今回の事で少しだけ考え方が柔軟になって気がする。




 それらの事に気付けた意味でも、今回の討伐作戦に連れて行かれたのは良かったのかもしれないな。







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「はろはろー! お仕事終わりましたー! 」

「お、お帰りなさい……どこ行ってたんですか? 」

「ちょっとそこまで悪者退治に……ね? 」

「もう! レイを危険な事に巻き込まないでください! 怪我したらどうするんですか? 」

「そ、そんなに怒らないでも良いじゃん……人助けしてたんだから……」

「レイには危ない事はなるべくさせたくないんです! ……あの時みたいな……」




 帰ってきて早々、アンナさんにミズキさんの二人は歳下のエレナに怒られている。




 俺の事を心配してくれるのはとても有難い事なんだけど、ちょーっと過保護すぎる気も。




「大丈夫だ、俺はそんな簡単に怪我なんてするかよ。心配しすぎだよ……」

「うん……言い過ぎでごめんなさい」

「べ、別に良いって! 気にしないで」

「そんな事より、クレープちゃんはどうなってる? 」

「……冷めてます……残念ながら……」

「やっぱりか……誰かさん達が時間かけてたからなぁ……チラッ」

「何も最後の言葉に出さなくても分かってますよ、遅くなって悪うござんした」

「まいっか、取り敢えず先に食べちゃいましょ! それからスーにはもう一度一緒に並んで貰うから」

「今すぐとは言ってないんですけど……」

「ダメ! 食べ終わったらすぐ! 」




 待ちに待ったクレープの実食、若干名心労が絶えない人が混じっているのはご愛嬌。




 手に持つ袋は異臭を放ち、中から地獄が垣間見る。




 ヤバい、ヤバいって! ノリで買った手前、食べるしかないけど、食ったら多分俺は……死ぬ。




 だって、ゴブリンの時よりも匂いがキツくてクレープの中が混沌とした色合いになっているんだもの。




 一体、このクレープはどれだけの猛者を倒してきたのか。破壊力の底が知れない。




「それじゃあ……頂きまーす! 」




 迷う暇も無く、それぞれ美味しそうに自分の頼んだクレープを口にして顔を綻ばせる。




「フルーツが一杯で美味し〜! 」

「やっぱり、食べ応え味ともにデラックスが一番! 」

「あー、疲れた体にあずき抹茶が染み渡るで……」

「……冷たくて……美味し……」




 素敵な食べ物は人を素敵な気分にさせる。……それがどんな食べ物であれ、本人が一番好きならば……。




「うーん! 納豆わさびチーズマヨは最高だよ! 」

「お、おう、そりゃ良かった良かった……」




 何でこんなに美味しそうに食べてるの? その胃袋、何で出来てるんだ教えてくれ。




「何、一口欲しいの? 」

「いえ滅相もございません」

「美味しいのに……」




 パクパク食べ進めていくエレナの口元を直視できない……!




「ほれ」

「ウグッ…………………………美味い」




 不意をついた一撃で、俺の口に突っ込まれたエレナの食べかけのクレープは、不思議な味をしていた。




 臭いと思ったのは一瞬で、わさびのスッとした鼻を抜ける痛覚とチーズマヨの包み込むような味わい。




 明らかにミスマッチに見えた組み合わせだが、食べてみると食べられない味ではなかった。




「どう? 意外といけるでしょ? 」

「ああ……凄く驚いてるよ」




 味もそうだが、本当に驚いたのは、エレナの食べかけのクレープを食べた事にだ。




 本人は自覚が無いのか、別段普通な顔をしているけれど、こちらはそうはいかない。




 可愛い女の子の食べさしのクレープを食べたのだ。誰だって意識しちゃうだろ。




 だけど、神様って奴はバランスを取る為に不幸も平気でパスしてくる。




「レイは食べないの? そのクレープ」

「い、いや……皆んなが美味しそうに食べてるの見てるだけで満足っていうか何ていうか……」




 と、止まれぇ! 足の震えよ止まれ! 




「さっき動いたからお腹空いてるんでしょ? 一口食べたら病みつきになる事間違いなしだよ! 」




 そうだな、これを食べたら確実に……病む。




 震えが止まらない俺を見かねてか、エレナが此方に椅子を引き寄せた。




「しょーがないなー、私が今日頑張って人助けをしたと言うレイ君に、特別に食べさせてあげましょう! 」

「え、ちょ、紙袋取らないで! 」

「ほら口開けて! 絶対天にも昇る味だから! 」

「お、落ち着け! 自分で食べられるから! 」




 の、昇りたくなんかない! まだ昇天したくない!









「あーん」

「ウグッ………………………………」





 口に放り込まれたのは黒いクレープ生地に包まれた黒い塊。それもかなりの異臭を放つ。




 この感じは何処か見覚えのある感覚だった。




 もっさりとしていて、それでいて滑らかなじゃりじゃり感、加えてべちょべちょでパサパサな舌触り。




 味は辛くて塩っぱくて甘くて苦くて酸っぱく、この世のモノとは思えない深い味わいが口の中を蹂躙していた。




 ただ一つだけ、エレナの料理と違っていたのは、見た目を裏切らない味だった。




「レイ!? ……美味し過ぎて倒れちゃった……」




 遠くで俺を呼ぶ声がする……口が塞いで開かない所為で言葉を発する事ができないのだ。




 エレナは気絶して白目で泡を吹いている俺をどう見たらそんな風に思えるのだろうか。




 消えかかる意識の中、彼女は確かめるように手に持っていたクレープをさも美味しそうに咀嚼していた。




「うん、やっぱり美味しいよ……このクレープ」


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