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「次はどこに行くー? 」

「女性用のランジェリーショップ! 」

「却下! 」

「じゃあ、レディース御用達のエステ&ネイルサロン! 」

「チェンジ! 」

「何だが、さっきから私の意見が悉く潰されていっている気がするんだけど……気のせいかな? 」

「気のせいじゃないですよ。アンナさんの提案する店のどれもが、男禁制のお店ばっかりなんですよ」

「えー! 入ってみれば楽しいかもよ? ランジェリーショップ」




 笑いながら言われても説得力ねーよと言ってやりたい時分、そこを我慢して黙って歩く。




 買い物も終盤、荷物持ちを買って出た俺の両手には、数え切れないほどの荷物と荷物と荷物で溢れかえっている。何だこの荷物フィーバー。




 両手の肌の見える部分は買い物袋の紐によって、視認できる面積が激減しており、腕に加わる重さは、単純な数の暴力で考えても相当に重い。




 まだ大丈夫だが、下手をすると能力を使ってでもしないと持てないかもしれない位の買い物はしていた。




「男の子ってみんな下着とか好きなんじゃないの? 」

「どこから聞いたその情報! 」

「えーっと、……ミズキ姉さん……」

「その情報は明らかに悪意の込もったものです」




 嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……。




 アンナさんは一体、どれだけの偽情報をミズキさんから教育されて間違った知識(主に男関係)を身につけているのか。考えただけでも不憫で不安になる。




「……私も……行きたい所ある……」

「どこどこ、連れてってあげるからね言ってみ言ってみ! 」

「おっさんみたいな反応ですよそれ……」

「……クレープ……屋さん……」

「ギィ! 」

「クレープか、良いね! 」

「ちょうどお腹もすいてきたし良いんじゃない? 」

「そうだね、荷物も置きたいし……そうしよう」

「……こっち……」




 マリアからの提案に乗って、俺達はクレープなるものを食べに行くことに。




 正直、アンナさんが提案した場所に行くより遥かにマシな場所であることだけは間違いない。




 食べた事がないのでイマイチよくイメージが出来ないが、マリアが食べたいと言い張るのだ、美味しい食べ物に違いないだろう。




 チビも流石にお腹を空かせているのか、俺の頭を尻尾で何度もペシペシと叩いて早く行けと催促している。




 パンパンに張った筋肉に鞭打って、そのクレープ屋さんなる物が有るという公園に向かった。






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「ほぇー、何でこんなに人が並びまくってるの? 」

「……ここは……この時期に有名……なの」





 周囲を植物が囲み、中央部に水気と清涼さを感じさせる噴水公園。造りはマッシュルーム型とジェット型の噴水を掛け合わせたような感じで、ミスト状に気化した水蒸気が肌に当たっていて気持ちが良い。




 その所為もあってか、公園のベンチ横に停められていた一台の屋台式ワゴンの前には多くの人が詰め寄っていた。




「へぇー、何で有名だったりするの? 」

「……恋愛……成就……」

「へぇー……って何!? 」

「……このお店であるクレープを食べ合いっこした……男女は結ばれるって……有名……」

「あー、私も聞いたことあるけど、ここの事だったのかー」

「よくよく見ると、周りのベンチとか座ってる人達みんなカップルっぽいんですが……」




 道理で男女が二人一組位で並んでいると思ったら、こんな仕掛けのあるクレープ屋さんだったとは。




 クレープの食べさせ合いっことか、羨ましすぎて唇噛んじゃうわ。




「取り敢えず、並んじゃおっか」

「だな、早く並ばないとまた人の列が出来ちゃうし」

「……味も最高だから……」




 四人と一匹は、黄黒の警戒色チックなロープパーテーションの列に並んで人が捌けるのを待っていると、後ろから肩を叩かれた。




「はろはろー! 」

「ん? 」

「あらー、何処かで見たと思ったらアンナちゃんとレイ君じゃなーい! 」

「ミズキ姉さん! 奇遇ですね、姉さんもクレープを食べに来たんですか? 」

「正確には奢らせに……だけどね」




 アンナさんと楽しそうに話し合うのは、ギルド【眠りの森】のトップランカーであるミズキさん。




 かなりの歳上だと前に言っていたが、前見た時の前衛的なアオザイ姿ではない私服姿では、更に見た目が若々しく見え、普通に見積もっても二十代前半にしか見えてこない。




 それに何だろう、今日はやけに一段と肌がツヤツヤしている様な……。




「やぁ、久ぶりやんなレイ君……」

「ミコトさん……顔が青いですよ……」

「原因は間違いなくコイツや、ミズキに荷物持ちさせられてるんよ……死ぬわホンマ」

「荷物が……俺よりも多いですね」




 ミコトさんの場合は腕どころか、首やら何やらの身体中に括り付ける様に買い物袋が引っ掛けられていて、当人は青い顔で冷や汗をかいていた。




 冷や汗を拭うこともできず、眼鏡の奥には苦労人の涙が見え隠れしていて、ただただ不憫である。




「何をブツブツ男同士で話してるのかなー? 」

「お前の悪行について教えてたんや」

「それはスーがジャンケンに負けまくるからこうなってるんでしょ? レイ君に変なこと教えないでよ! 」

「動体視力の化け物に無理くり勝負持ち込まれて、勝てる方が可笑しいやろ……」

「勝てば良いのよ勝てばー」

「お陰様で僕の今月分のお給料がスッカラカンや……」




 トップツーの会話を聞いていると、何だが女尊男卑な感じで九割がたミコトさんが尻に敷かれている気がしてならない。




「二人はどうして此処に来たんですか? 」

「僕は来るつもりは無かったんやけど、ミズキが行きたいってしつこーてな」

「だって、ここのクレープ滅茶苦茶美味しいのよ! 一日五食ここのクレープでも構わないくらい! 」

「五食って……食い過ぎやろ」

「デザートは別腹別腹なのよん」




 女性特有のこの発言、女性の胃袋はワームホールとでも直結で繋がっているのかもしれない。




「それで、こうしてこのクレープ屋さんに四人でおるところを見るに、レイ君はハーレムでも築く気なんか? 」

「そ、そんな訳ないでしょ!//」

「私達はそんなっ、ただお昼を食べに来ただけで! 」

「お、その反応、そないに必死になると余計に怪しいでー、なぁ? 」

「だよねー、レイ君はモテモテだなー! 」




 掌を返して息がピッタリになる二人は、熟練のコンビネーションを見せて、俺達を困らせる。




「まぁ、若い内は青春しとかんと、後で体が付いていかんなって出来んなるから一杯しとき」

「流石、若年寄りは言うことが違いますなー! 」

「お前かて、人の事言えんやろーが」

「女性に年齢の話をするのはタブーなんですー! 」

「自分の都合の良い様に改竄してくやっちゃな……」




 ふふふっと、エレナが二人の会話を聞いていて堪らずに吹き出した。




「お二人は本当に仲が良いんですね」

「ん? この娘……アンナちゃんに似てるけど前に言ってた従姉妹ちゃんかな? 」

「はい、エレナ・ルシルフルと言います」

「この娘も可愛いわねー、やーん、お持ち帰りしたーい! 」

「コラ、うら若き乙女に手を出すな魔女、自重せい」

「 ……仕方ないわね、私はミズキよ。んで、この若年寄りはミコト、呼び捨てで呼んであげていいわよ」

「扱いが露骨に酷ない? 」




 二人はマリアとはカフェやアンナさんとの繋がりで顔見知りだったけど、エレナとは初対面になる。




 だが、二人の温厚さにエレナも緊張はさほど無く、二人も勝手知ったるアンナさんの従姉妹とあって打ち解けるまでには時間は掛からなかった。




「へぇー、あんな遠くから場所を使ってジェノヴァまで……大変やったんやろうな」

「いえ、お父さんやレイが居たから大丈夫でした! 」

「本当にいい子ねー、お姉さん持って帰りたい! 」

「ダメですー! エレナちゃんは私の物なんですー! 」

「いつの間にエレナがアンナさんの所有物になってるんですか……」

「姉さんは……ミズキさんに……とても似てる……」




 分かる、この歳上オーラとか持ち帰る発言とか。思い当たる節が多すぎて気付かなかった。




 恐らく、今までにミズキさんと一緒にいた所為で性格が似てきているのかもしれない。




 アンナさんは偶に乙女になる分が差異になってて、そこが見分けるポイントだったり。




「ーーそろそろやないか? 」




 こうした楽しい歓談は時間をあっという間に経たせ、気付けば既に最前列の一つ後ろまで進んでいた。




 屋台から届く鼻腔を突く香ばしい香りが、食欲を引き立てていた。


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