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ファッションショー

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「お留守番の方ご苦労様でしたー! 」

「これは拘留又は監禁未遂って言うんですよ……」

「細かいことを気にしない気にしない! 」




 俺をこの場に磔にしていた張本人から鍵を受け取り、やっとの思いで片手の自由を奪っていた手錠の鍵を開ける。




 自由になった手首をさすり、改めて三人の今の状態を確認した。




 エレナ達は、それぞれにカゴの中に見えないよう服を入れてあって、全員準備はできているらしい。




「順番は、クジ引きで決めるから引いてー」

「どこからそんな物を……」

「みんな持ったねー、それじゃ、せーの」

「……二番……」

「お、私はトップバッターか」

「私は最後だー! 」




 クジ引きによる厳正な順番決めの結果は、一番目がアンナさん、二番目がマリア、三番目がエレナとなり、その順番に端から試着室の中へと入っていく。




 その時の面持ちは、楽しみにする者もいれば、中には緊張して身体を強ばらせる者もいた。




 そんな三人が、今からどんな姿に変わっていくのか、まるで想像もつかなくて楽しみでもある。




 試着室から聞こえてくることはなく、自然とそちらの方に聞く意識は集中する。




 シュルシュルと試着室から聞こえてくるのは、布と布同士が擦れ合う艶かしい音。

 



 下卑た考えはしてはいけないとは思いつつも、それでも考えてしまうのはやはり男の性。




 悶々とした気持ちを胸に抱いて、さっきまで自分と鉄の輪で繋がっていた席に座る。




「一番目行くけど良いかな? 」

「ど、どうぞ! 」

「それじゃ……じゃーん! 」

「おお……」




 言い出しっぺの自らが先陣を切るとあって、本人のやる気意欲は服装に全面的に出ているみたいだった。




 ロックTシャツ風のノースリーブワンピに、少し重めで大きなショートブーツ、手の甲には見慣れぬ銀のチェーンのパームカフという潔いシンプルさ。




 襟の緩めな所から、持ち前のたわわに実った胸元が

見え隠れしていて、歳上の強みを出せている。




「何時もはあんまりしないけど、ロック風でーす! どう? エロ可愛い? エロ可愛いよね? 」

「グイグイきすぎですから……見えちゃうし」

「んー? なーに、レイはこの私のむ・な・も・と・が気になる訳ー? 助平だなぁ! 」

「ならそんな格好しないでくださいよ! 目のやり場にも困るし……」

「別にレイになら見られても良いんだけどねぇ? 」




 ほら、とばかりに胸を寄せて、中央部分に押し上げられた乳房が立体的なアートとなり俺の視線を釘付けにした。




 意識してても見ちゃうんだ……男の子だもん。




「そうやって純真無垢な俺を惑わさないでくださいよ! 露骨なアピールは減点です! 」

「えー、ケチー! 折角お姉さんが色々してあげようと思ってたのにー! 」

「い、色々? 」

「あー! また想像したねー! 何だかんだ言っても男はエロい生き物だよね。嘘だよーだ」

「騙したな! ハハハ」




 歳上との良い様に足らわれている感じが否めないが、ある意味で癒された三分間を過ごすことができた。




「でも、もしも私を選んでくれたら……ね? 




 謎の発言を残した後、アンナさんは着替えたままで再び試着室の中へと戻って行く。




ーーーーーーーーーー



「次はマリアか……どんな格好で来るのかな」

「レイ……良い? 」

「アンナさんはもう終わったからさ、好きな時に出てきて良いよ」

「分かった……」




 入れ違いのタイミングでカーテンを開けて現れたのは、いつもとは真逆の服を着ていたマリアだった。




「レイ……? 」

「あ、ああ、凄く似合ってるよ」

「嬉しい……良かった」

「でも、意外だったのは、マリアにしては珍しい服を着てるなって思って」

「えっと……恥ずかしかったけど……頑張ってみた//」




 レザー調スカートで、カジュアルとトレンドのゆるコーデとスポーツっぽさを混ぜてある、トレンド感満載の服装。




 黒のシンプルなスニーカーに、ブラウンのレザー調スカート、上はグレーのシースルー透かし編みニットセーターで、長さが丁度掌の間位の長さのものを着ていた。




 いつもの落ち着いた感じの服装ではなく、今風のガーリー系ファッションで統一している感じだ。




 服装以外には、髪はミディアムショートの流しだったものを後ろで纏めてお団子ヘアーと、今までの印象を覆す女の子らしさを表現していた。




「でも、どうしてこんなコーデにしたんだ? 」

「それは……負けたく……ないし……ちゃんと……私の事を見て貰いたい……から」

「俺に? 」

「……うん//」




 マリアは言うと下を向いて俯いてしまう、見た目は変わっていても、中身に関しては変わることはないらしい。




 だが、それにこそギャップという奴は生まれる訳で。




「ちゃんと見てるよ、俺はマリアの事……見てる」

「……本当に? 」

「本当さ、だからこそ、今日はマリアが違った感じなんだなーって思ったって言ったろ? だからさ、下を向かずに前を向いててよ。その方が可愛いよ」

「……分かった//」




 う、顔を上げてくれたのは良いけど、マジマジと見られるのはこちらとしても恥ずかしいのだが。




「私を……選んで……欲しい……」




 気恥ずかしさを隠す様にマリアはフッと試着室の中へと戻っていった。




ーーーーーーーーーー



「最後はエレナか……」




 トリを務めるのは三人の中で一番近くで見てきた女性であるエレナ、勿論、私服姿も何度か見てきている。




 エレナはそこまで服を持たないタイプらしく、今ある物を上手に組み合わせて色んな服装のパターンを作り出していたが、今日は全く別のファッションで来るに違いない。




 固唾を飲んで試着室のカーテンを見つめていると、そこから見慣れた顔がヒョッコリと顔を出した。




「あのー、もう良いですか?」

「どうぞ、出て来てくださって構いません」

「ふふ、畏まりました」




 カーテンの中に一度顔を戻してから、エレナの全身が露わになる。




 ベーシックボートネックTシャツに、 ぴっちりとしたジーンズと、首周りがすっきり見えるコーデをしていた。




 その良く見える首元には、自分で持ち寄っていたハートフィリアのネックレスが輝いていて、カジュアルだが大人っぽくも見える。




「何にしようか迷ったんだけど……レイが私らしい服装が良いよって言ってくれたから、これにしたの」

「うん、エレナの良い所が出てる」

「これだったらレイのくれたこのネックレスが合うかなぁ……って」

「似合ってるよ……凄く」




 彼女を今まで見てきた中で、一番綺麗だと思った。

 飾らず、だけど驕らない、そんな服装。




 エレナらしいのが一番良い。そう彼女に伝えた思いは、こうして形となって素晴らしい結果に変わってくれていた。




「レイは……もう決めたの? 優勝者」

「……決めたよ」

「そっか……」



 本当だ、嘘じゃない。




 俺は三人のファッション対決の中で決めたのだ。




 最初は乗り気ではなかったこの対決の審査員だが、やっている内に、彼女達と接している内に、自ずと気持ちが入っていた。




 だから、これは適当に決めた順位とかそんなんじゃない事だけは自信を持って言える。




 もしかしたら不平不満を言う人が出てくるかもしれない結果になると思うが、俺はこれで良いと思う。それだけの理由もあるし、何より俺がそうしたい。




 俺の想いを知ってか知らずか、エレナはクルッと俺に背を向けて言った。




「じゃあ、ちょっと早いけど私も戻るね……結果、楽しみにしてる……」




 それ以上は何も語らず、エレナはカーテンの向こうに戻り、そして俺は決断を下す時を迎える。




「三人とも……聞こえますか? 」

「聞こえるよー」

「……うん」

「はい」

「これから結果発表に移りますが良いですね」

「「「……」」」




 無言の肯定、俺はYesと捉えて言葉を続ける。




「今回のファッションショーの優勝者は……」





 ゴクリ、カーテン越しに聞こえるのは緊張と喉を通る唾を飲み込む音だけ。












「…………いません」

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